昨季J3を制し、今季からJ2に昇格してきた大分トリニータが好調だ。

 4月22日に行なわれたJ2第9節。湘南ベルマーレとのアウェーゲームで1-0と勝利した大分は、成績を5勝3敗1分けの勝ち点16に伸ばした。順位では6位にとどまるものの、勝ち点では首位の東京ヴェルディ(勝ち点18)とわずかに2差。堂々と首位争いに加わっている。


湘南ベルマーレを下し、さらに勢いに乗っていきそうな大分トリニータ「湘南を相手に勝ち点3を取れてよかった。(昨季まで)J1の経験があり、アグレッシブな湘南を相手に、選手は自分たちらしいサッカーができるようにトライしてくれた」

 そう語り、敵地で湘南を退けた選手たちを称えるのは、J3だった昨季から大分の指揮を執る片野坂知宏監督である。

 対戦相手の湘南は、前節終了時点で首位の名古屋グランパスと勝ち点では並び、得失点差3の僅差で2位につけていた。開幕前からJ1昇格候補に推す声も多い難敵であり、それだけに大分にとっては試金石ともなる試合だった。

 そんな意味のある試合で勝ち点3を獲得。片野坂監督は「過信せず、これからも勝ち点を積み上げられるようにやっていきたい」と謙虚に語ったが、昇格1年目のJ2を戦い抜くために必要な、大きな自信を得た試合となったのではないだろうか。

 大分はこの試合、開始からわずか5分にして、指揮官が「狙っていた。練習ではあまりうまくいかなかったのでやめておこうかと思ったが、うまくいった」とほくそ笑む”スペシャルプレー”(FW後藤優介がCKをニアサイドに低く蹴り込むと、ニアに入ってきたFW三平和司がマイナス方向へ流し、ゴール前のDF鈴木義宜がワンタッチで押し込んだ)で、首尾よく先制。だが、リードを奪ったあとは湘南に試合を支配され、守勢に回ることが多くなった。

 どうにか虎の子の1点を守り切ったが、特に試合終盤はゴール前で耐え忍ぶ時間が短くなかった。3バックの一角を担う、DF福森直也が「1点取られてもおかしくなかった。ラッキーだった」と振り返るのも、当然の展開である。

 しかし、だからと言って、大分がただただ守備を固めて劣勢をしのぎ、ワンチャンスを生かすサッカーで勝ち点を稼いでいるかというと、そんなことはない。

 昇格候補を相手に勝負を挑んだ「自分たちらしいサッカー」とは、自らボールを保持し、低い位置からでもショートパスをつないで攻撃を組み立てる「ポゼッションサッカー」。これこそが、現在の大分の好調を支えていると言っていい。

『Stats Stadium』のデータによれば、第8節終了時点で大分の1試合平均のパス本数は556.1本。これはJ2で3番目に高い数字である。

 この日の湘南戦でも、特に前半の戦いぶりには見応えがあった。

 スピードと運動量を生かし、前線から激しくプレッシャーをかけにくる湘南に対し、大分は大きく蹴って逃げるのではなく、あくまでもショートパスで応戦することを選んだ。ときに危うい形でボールを奪われることもなかったわけではないが、湘南のプレスをかいくぐり、前線へとボールをつなぐシーンは多かった。福森が語る。

「今日は、いつものように(ボランチのMF鈴木)惇さんが(3バックのDFラインに)落ちて4枚で回すだけではなく、(3バックの)3枚で回せたことで、ボランチが高い位置でプレーすることもできた。相手によって3枚で回すのか、4枚で回すのか。その使い分けがうまくいっている。湘南を相手に、特に前半うまくいったことは自信になる」

 とりわけ大分のサッカーに特徴的なのは、GKを加えてのビルドアップである。「前からのプレッシャーをいなすことはできると思っていた。相手を引きつけて、(その裏にできた)スペースを突く戦術をやっている」と語る片野坂監督は、「GKを使えば数的有利を作れるので、その狙いを持ってやっている」という。

 どんなに相手が前からプレッシャーをかけてきても、GKがマークを受けることは(基本的には)ありえず、常にフリーでパスを受けることができる。つまり、そこに生まれる「数的有利」を生かそうというわけだ。

 世界的に見れば、この発想は決して珍しいものではない。だが、日本にポゼッションサッカーを標榜するチームは数多くあれど、(緊急事態限定の危機回避ではなく)能動的にGKがビルドアップに加わるチームは、それほど多くない。J1を見ても、日本代表のGK西川周作を擁する浦和レッズくらいのものだろう。

 大役を担う、当のGK上福元直人は、「今日のような(プレッシャーが速い)相手でもボールを動かすところで先手を取れれば、もしボールを失ってもすぐに(奪い返す)対応ができる」と、ポゼッションの効果を口にし、試合ごとに高まる手応えについて語る。

「選手同士の共通理解が上がり、(パスの)受け手の動きの質も上がっているので(GKがボールを受ける)怖さもなく、やりやすくなっている。これを(前半だけでなく)90分間できるようになるといい。簡単ではないが、みんなでトライしようとしている。自分自身、足もとのプレーが得意だったわけではないが、カタさん(片野坂監督)のサッカーをやるなかで、(自分たちがやっていることが)間違っていないと思えるようになった」

 とはいえ、現段階で大分の総得点数は10点にすぎず、高まるボールポゼッション率が得点力アップに直結しているとは言い難い。片野坂監督も「追加点のチャンスを決められるかどうかが、自分たちの戦いがもっとできるようになるかどうかにつながる」と認め、課題を口にする。

「相手のプレッシャーをはがすことができても、そこからの(攻め切るプレーの)クオリティーに課題がある。アタッキングサードでの判断はもう少しトレーニングから(高めるように)やらなければならない」

 人数をかけて守備を固め、一発のカウンターを狙う。そんな現実的な戦いで勝ち点を重ねることも、選択肢としては当然ありうる。だが、目先の勝ち点にこだわるばかりでは、未来に光は差し込まない。

 過去、大分は2008年にJ1で4位という最高成績を残し、同じ年にはナビスコカップ(現ルヴァンカップ)も制すなど、輝かしい実績を残している。GK西川をはじめ、FW金崎夢生(鹿島アントラーズ)、DF森重真人(FC東京)、MF清武弘嗣(セレッソ大阪)など、大分出身者が現在のJ1各クラブの主力を担っていることも、その実績に彩りを加える。

 ところが、2009年にJ1で17位に終わり、J2降格。2012年にJ1昇格プレーオフを勝ち抜き、翌2013年に一度はJ1に復帰するも最下位に終わり、J2に逆戻り。すると、2015年にJ2で21位に終わり、町田ゼルビアとの入れ替え戦にも敗れ、J3まで転げ落ちた。大分は現在、どん底からの巻き返しの道中にある。ボランチを務めるMF川西翔太が語る。

「J1を目指しているので、J2で負けてはいられない。(湘南戦は)相手が強く、押し込まれていたが、そのなかでも決定機は作れた。”サッカー”はできていたと思う」

 第9節を終えて、首位に勝ち点2差。昇格1年目のシーズンとしては、上々のスタートであることは間違いない。

 だが、そんな数字以上に、大分のさらなる躍進を予感させるのは、腰を据えた強化――結果だけにこだわるのではなく、志向するサッカーを確たる土台から築く――が進められているからこそ、である。

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