世代別代表につねに選出され、エリート街道を歩んできた若原。ここにきてさらにスケールアップした印象だ。写真:松尾祐希

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「大丈夫だ」
「下がってこい」
「そこで行くな」
「ナイスプレー」
 
 堂々たる立ち居振る舞いで味方にコーチングを行ない、シュートが飛んでくれば盤石のプレーでこれを阻止する。まさに守護神と呼ぶに相応しい存在感。プレミアリーグEASTの第3節、横浜F・マリノスユース戦でハイパフォーマンスを見せたのが、京都サンガU-18の正GK、若原智哉(3年)だ。
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 前半から安定感のあるセービングと声でチームを支え、開幕2試合で6失点を喫した守備陣を立て直すべく、見事な統率力を披露。終盤はセットプレーから相手の猛攻に晒されたが、奮迅の活躍で虎の子の1点を死守した。スタッフやチームメイトもそのプレーぶりを称える。GK出身の岸本浩右監督が「若原のコーチングはじつに的確。その言葉通りだと僕も思います」と言えば、後輩のFW服部航平(2年)も「本当に安心感がある」と賛辞を送った。
 
 中学入学と同時にサンガの門を叩き、将来を嘱望されてきた逸材だ。中1の時点で身長はすでに180センチ近くあり、GKとしてのスキルも申し分なし。入学直後の5月、春の中学日本一を決めるナイキプレミアカップ(現プレミアカップ)でいきなりレギュラーに抜擢されるなど、クラブからの期待値は特大級だった。
 
 以降も恵まれた体格を武器に多くの大会で活躍。高校入学後も1年時こそ定位置を掴めなかったが、昨季は2年生ながらプレミアリーグWESTで11試合に出場した。そのプレーは日本サッカー協会のスタッフにも高く評価され、世代別日本代表の常連となっていく。昨季は10月のU-19アジア選手権でひとつ上の世代であるU-19日本代表(現U-20日本代表)に招集され、今季は2月に立ち上がったU-18日本代表のスペイン遠征に参加した。
 
 185センチの体躯と正確なGKスキルで輝かしい実績を築いてきた若原。一方で性格が優しすぎるせいか、昨季までは自信のないプレーが目立った。安定感を欠きがちで、コーチングでも頼りないところが散見された。そんななか、若原を変えるきっかけになったのがふたつの出来事だ。
 
 ひとつ目は、新学年になって主将を託されたこと。以降、彼の雰囲気は一変した。
 
「プレーが安定してきたと思う。声をしっかり掛けられるというのはメンタルの安定があるからこそ。主将というのは自分のことだけでなく、全体を見ないといけない。そこに責任感が加わって、充実しているのかなと感じる」
 
 こう証言するのは、2014年にもU-15チームで若原を指導した岸本監督だ。中学3年の頃から彼を知る指揮官は、当時と比べてメンタル面の充実が顕著だと明かした。その変化について本人はこう語る。
 
「高校3年生になったけど、いままでは先輩たちに教えてもらいながら、いろんな大切な試合にも出て経験を積んできた。今度は僕がみんなに伝えていかないと。僕が自信を持って言葉を発しないと、みんなも自信を持ってプレーできない。キャプテンが黙っていれば、チームも黙ってしまう。僕が上手くチームを盛り上げられれば、周りもノってくるでしょう。だから、声は大切だと思う」
 
 自覚と責任。彼の中で意識が変わり、パフォーマンスは昨季とは比べ物にならないほど向上した。
 そして、ふたつ目がトップチームでの練習だ。昨季から2種登録されており、今季もプロのトレーニングに参加している。そこで目の当たりにしたのが、日本代表招集歴もあるGK菅野孝憲の存在だ。吸収する点が多く、プレーの変化に小さくない影響を与えた。
 
「トップでは練習試合こそ出させてもらってないですけど、菅野さんなんて見ているだけでオーラが全然違うなと感じる。コーチングの質が違うし、(DF陣は)後ろにいて安心するだろうし、なにより安定感がある。見習うところがたくさんある」
 
 J2トップレベルの実力者だ。若原が想像していた以上のスキルを菅野は持っていたが、とりわけコーチングに関しては気付かされる点が多かった。「的確で無駄がない指示で、素早く大切なことを伝えられる。あとは声の強弱もしっかりできていて勉強させられます」と、味方を動かすために話すだけではなく、大事なのは伝え方の創意工夫。大先輩のから存分に学ぶ、自らのプレーに還元した。横浜ユース戦でも的確なコーチングだけではなく、タイミングや伝え方に変化を付け、仲間を最後尾から叱咤激励した。
 
 主将という重責と身近な先達からの学び。ふたつのきっかけを経て、若原の成長スピードは一気に加速した感がある。「昨年に比べると、コーチングの量と質が上がっていると思う」という言葉からも充実感が漂う。
 
 とはいえ、守護神は自分の現状に満足していない。「もっと精度が上がれば、間違いなく代表でも活躍できる」と岸本監督が太鼓判を押すように、総合力を高めれば、日本を代表するGKになるのも夢ではない。
 
 伸び盛りの俊英は多くの刺激を受けながら、トップ昇格と日本代表での活躍を期して、さらに上を目ざす。
 
取材・文:松尾祐希(サッカーライター)