「中小企業 社歌動画コンテスト」でグランプリに輝いたクラブン(参照)の伊澤正信社長(愛称:ジョージ)。AKB48のTeam8のメンバーで香川県出身の行天優莉奈さん(左)がプレゼンター(撮影:著者)


 いま社歌を新しく作ったり、古いものをリニューアルするのが大流行だという。独自に社歌に関する取材を重ね、大手企業の社歌を紹介した著作『社歌』もある作家・ジャーナリストの弓狩匡純氏によれば、第4次ブームとも呼べるそうだ(前回参照)。

 第1次は、戦前の昭和恐慌の時代に起こり、その後、高度成長期に第2次が訪れた。第3次はバブル期。CI(コーポレートアイデンティティー)の一環で社歌を作る企業が急増した。

 そして長いデフレの時代を経て第4次ブームが到来したという。先鞭をつけたのは前回ご紹介したようにパナソニックなどの大企業だったが、現在は中小企業に飛び火してすそ野の広いブームに火がついた。

 ネット社会の浸透で社歌は動画と一緒になって拡散している。人手不足時代が始まったいま、ネットで拡散する社歌は中小企業にとってまたとない経営ツールともなっている。

 そんな実例を今回はご紹介しよう。人材確保につながるばかりか、中小企業にとっては重要な課題である事業継承にも大いに役立つのだ。

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経営陣から社員に感謝の思いを伝えるために作られた社歌

 社歌を作るにあたっては、社員が中心となって進めることが多いが、社員に感謝のメッセージを伝えたいと、社長を含む役員3人が社歌作りを手がけたのが、群馬県太田市にあるアミイダである。

 同社は、金属部品・非金属部品の研削加工を手がける会社で、社員は役員を含めて約20人。地元では高い技術力とサービスの質の高さで定評がある。そのアミイダが社歌を作ることになったのは5年前、創業者であり現社長の阿久戸洋希さんの父、忠雄さんが急逝した時に遡る。

 「父は、私と弟の英男そして工場長の3人に、『これからはお前たちの時代だ』と言い遺して亡くなりました。でも本当に急なことだったので、私たちはこれからの会社のことが不安でたまりませんでした」

 「なにより心配だったのは、これまで地域でも人望があった父を慕って働いてくれていた人たちや、父の人望で取引してくれていたお客さんがどれだけ残ってくれるか、ということだったんです」(阿久戸社長)

 父の葬儀の翌日、不安を抱えながらも阿久戸社長は社員を集めて「まだまだ未熟ですが、今日から私たちが精一杯、会社を盛り立てていきますから、どうか力を貸してください」と頭を下げたという。

 「その時、社員から『社長!』の声が上がったんですよ。何の経験もない私に、躊躇なく社長と言ってくれました。結局、社員は一人も欠けることなく、取引先もそれまで同様に、取引を継続してくれましたことは、本当に感謝してもしきれませんでした」(阿久戸社長)

 日頃から社員には「ありがとう」や「助かっています」の言葉は伝えてきたが「いつかその思いをきちんとした形で伝えたいと思っていた」という。そこで阿久戸社長が思いついたのが、社員に感謝の思いを伝えるメッセージソングを作ること。

 「今年1月に創立40周年記念のパーティーを控えていたので、そこで披露したいと思ったんです」(阿久戸社長)

 「ぐんまーソングライター」として群馬のPRソングなどを手がけるyoshimiさんと出会ったのが昨年の夏。思い切って社歌作りを依頼したところ、快諾してくれたという。そこから本格的に社歌作りがスタートした。yoshimiさんには会社を実際に見に来てもらうなど、打ち合わせを重ねていった。

 阿久戸社長がyoshimiさんに伝えたのは、アミイダが、すべての社員が幸せになれる「家族型企業」を目指しているということだった。

 「先代の頃から顧客満足の前に、社員満足を据えてきました。従業員とその家族が満足して初めて、お客様に喜んでもらえる仕事ができ、結果として会社も発展する。その順番を大切にしてきたんです」

 「また私も社長として、上に立って見下ろすのではなく、組織の一番下で社員を支える存在でありたい。そのこともお伝えしました」(阿久戸社長)

 やがて出来上がった曲は、会社にかかわるすべての人への感謝にあふれた、イメージ通りの作品だった。

 「歌詞に関してはいくつか要望を入れさせていただきましたが、曲調もメロディーも文句なし。うちの思いをくみ取ってくださった素晴らしい曲を作ってくれました」(阿久戸社長)

 その時、yoshimiさんから思いがけない提案があった。「感謝を伝える歌なら、3人が歌ってはどうですか?」との呼びかけだ。急きょ、3人でレコーディングをすることになった。

 「サプライズで披露したかったので、練習は3人で密かにやっていました。スタジオでの練習とレコーディングの2回は、3人がともに出張するとウソをついて出かけたんです。これまで3人揃って出張に行くことなどなかったものですから、社内では『何事か?』と噂になっていたみたいです(笑)」(阿久戸社長)

 そうして出来上がったのが、『大切な仲間へ 〜a song of thanks〜』

 

  ありがとう ありがとう 今ここにいるあなたへ
  誰よりも頑張る姿を知っているよ
  いつまでも いつまでも 居場所はココにあるから

 というサビのフレーズには、社員への感謝と、社員一人ひとりが家族なんだという思いが表現されている。

 この曲に合わせた動画の制作は、動画編集に詳しい知人に依頼した。何度も何度も知人の元を訪ねては、具体的な要望を伝えながら、2か月をかけて作り上げた。

 やっとの思いで完成した、思いのこもった動画を披露したのは、全従業員とその家族を招いて今年1月に開催された40周年記念パーティー。創業から今日までの歴史を振り返る動画に続き、40周年を記念するマークを披露した後に、作り立ての社歌動画が流れると、社員から歓声が上がったという。曲が終わる頃には、涙を流す社員もいた。

 「今日までついてきてくれた従業員のみんなに、どれだけ私たちが感謝しているか、その思いは伝えられたのではないかと思います」(阿久戸社長)

 今後、この歌は、忘年会、新年会、社内旅行など、社内行事の際に全員で歌っていきたいという。

 中小企業にとって事業承継は非常に難しい課題だ。トップが変わったことで結束力を失い、業績を落とす企業は少なくない。代替わりの難しい時期に、再び組織の結束力を高め、会社の思いを共有するうえで、社歌が有効なツールになるようだ。

 もちろん、その大もとには、経営者が何よりも社員の幸せを優先する理念と、感謝の思いがあることは言うまでもないのだが。

 「私は1万人のうち1000人が満足している会社より、20人の社員の会社で20人全員が幸せを感じられる会社をつくりたい」と熱い思いを語る阿久戸社長。アミイダは現在、業績も絶好調だという。

3K業種が人材不足解消のためブランディングツールに
社歌動画を活用

 中小企業が抱えている課題の1つに、人材不足がある。特に、3K(キツイ、汚い、危険)業種と呼ばれる運送業や建設業などでは、深刻な人手不足に悩まされている。

 そうしたなか、若い人を会社に呼び込みたいと、創立60周年を機に社名変更を含むブランディングを決意し、その一環で社歌を作ったのが東京都杉並区の高井戸運送だ。

 同社は、東京を拠点に食品の低温物流に特化することで着実に成長してきた運送会社だ。倉庫も自社で保有し、食品物流の総合運送サービスを手がけるなど、事業を拡大してきたが、その一方で10年ほど前から人材の確保が切実な課題となっていた。

 「業界のイメージは変えられなくても、会社のイメージは変えられるだろう。そんな思いで、昨年から本気でブランディングを始めました」というのは社長の飯田勇一さん。社名変更やロゴの作成とともに、社歌を作ることを思いついたのも、まずは若い人に関心を持ってもらいたいという一心だった。

 「運送業というと、怖い人がたくさんいるのではないか、長時間労働を強いられるのではないかと恐れている若い人も多い。そのイメージを覆して、この会社、楽しそうだなと思ってもらうには、どうすればいいかと、ヒントを求めて他社の視察をするなかで、たまたま朝礼で社歌を歌う光景を見て、これはいいなと思いました」(飯田社長)

 社歌を作ると決めた時から、ブランディングに生かすことを決めていたという。社歌に合わせた動画を作り、それを人材募集サイトに掲載することも最初の段階で考えていた。

 飯田社長が作曲を依頼したのは、浜崎あゆみなどの歌を手がける作曲家の菊池一仁さん。知人のつてをたどって紹介してもらった。菊池さんが若者たちに人気の曲を手がけてきた実績が決め手だったという。その菊池さんとの初めての打ち合わせで、飯田社長は意外な要請を受けた。

 「曲作りの参考にしたいので、何でもいいから会社への思いを書いてほしい、と言われましてね。そのまま私が作詞を手がけることになってしまいました(笑)。もちろん詞なんて書いたこともありません。業務の合間に、頭に浮かんだフレーズをメモしながら、少しずつ書き溜めていきました」(飯田社長)

 結果的に飯田社長にとってはこの作業を引き受けたことが、「この会社のコンセプトは何か?」を根本から考える契機となった。脳裏に浮かんできたのは、東日本大震災の時のことだったという。

 「あの時、物流が途絶えたことで、都内地域のお店の棚から食品が消えてしまいましたよね。それを思い返して、そうだ、物流が壊れてしまったら、いつも朝に食べているパンも食べられなくなる。我々は社会で暮らす人たちの当たり前の日常を支えているんだ、という思いが湧き出てきたんです」

 「なんでもない日常を黒子となって支えるのが物流の使命であり、その大事な使命を果たすことで、働く一人ひとりに輝く未来がやってくる。そんな思いを綴りました」(飯田社長)

 およそ3カ月をかけて思いをつづった歌詞を菊池氏に渡したという。そこからプロの目でいくつかの修正が加えられて完成したのが『笑顔が好きだから』である。

 

 歌入れはプロの歌手に依頼し、CDも作成。初披露となったのが、昨年の3月に行われた60周年記念式典の場だった。

 新しい会社名とロゴの発表と同時に、CDで歌っているプロの歌手に登場してもらい、歌ってもらった。最初、戸惑っていた社員も、最後には全員で盛り上がっていたという。

 現在は、週に2回、本社の朝礼の時に社員全員で歌っているほか、本社の電話の保留音にも流している。今後は他の支店でも朝礼の時に全員で歌うほか、倉庫では定時になると社歌が流れるよう、音響システムを刷新する予定だという。

 「社歌ができて1年ほどが経ちましたが、まだみんな声が小さいし、自分の歌になっていない(笑)。これからもっと愛着を持ってもらうのが課題です」(飯田社長)

 それと同時に進められたのが動画作りだ。ウエブ制作会社に依頼したが、使用する映像に関しては、飯田社長自身が細かくアイデアを出したという。

 「うちは東京の物流会社ですから、都会の物流というイメージで作りたかったのです。食品物流は夜中から朝にかけての時間帯がメイン。深夜から空が明けていく情景を映そうと夜の歌舞伎町や都庁前のシーンなど、場所も担当社員と細かくアイデアを出しました」(飯田社長)

 社歌を朝礼で歌うものという観点でみると、冒頭、深夜のシーンから始まる社歌動画は珍しい。だが、そこにこそ、人々が寝ている時間に黒子として活躍する食品物流の本質を考え抜いた飯田社長のこだわりがある。

 その他、実際に登場する人たちは、同社の若手社員で、きれいな職場で明るく働く姿を全面に出している。この動画が完成したのは今年の1月。当初の予定通り、同社サイト内の人材募集ページにすぐに掲載された。

社歌動画が即効力を生む

 こうして飯田社長の肝いりで制作された社歌と動画は、すぐに効果を見せている。同社の人材募集に応募してくる全員が、社歌動画を見ていることが分かったのだ。

 そして、驚くことに、昨年はたった1人しかいなかった新入社員が、今年はなんと高卒4人に、第2新卒を含む大卒を合わせて8人という例年にない採用人数を確保できたのである。

 その理由について、飯田社長は「会社に社歌があるということで、しっかりした会社というイメージが伝わっていたのではないか」と推測する。

 「うちでは高卒や第2新卒も募集していますが、特に未成年の場合、就職に関して親御さんの意向が強い。せっかく本人に興味をもってもらっても親から『運送業なんて』と言われると来てもらえません。社歌がある会社というと、親御さんから信頼を得やすいのかもしれません」(飯田社長)

 社歌を作るにあたって、飯田社長にはもう1つ、強い思いがあったという。それは、社員320人が結束を高め、誇りを持ってもらうことだ。

 「物流は、結局のところ、人です。ところが物流業界で働く人、特にドライバーは、経歴も動機もバラバラ。なかなか結束できないのが課題でした」

 「また支社や倉庫など、施設も分かれていると、社員同士が思いを共有し、互いに理解し合ったりすることが難しい。社歌を通じてこの会社に、この仕事に誇りを持って働いてもらいたいと思っています」(飯田社長)

 今はドライバー全員にCDを渡し、朝礼に出られないときも、クルマの中で聞いてもらうように伝えているという。今後は、会社の行事では必ず歌うようにする予定だ。

 同社の社名が正式に変更されるのは、今年8月。「高井戸運送」から「TAKAIDOクールフロー」へと新たな歴史を刻む節目に、社歌によって結束を高め、若い人たちを引きつける会社に変貌を遂げようとしている。

社歌は多様な経営課題を同時に解決する効果的なツール

 3社の事例を見て、社歌には様々効果が期待できることが分かってきた。ときには組織の一体感を高め、ときには社内のコミュニケーションを活発にする。

 一方では会社のPRツールとしても、文章で綴った「会社案内」より社歌動画のほうが効果を発揮する。そうした幅広い社歌の可能性に気づいた中小企業が、次々に社歌の活用に乗り出している。

 その一方で、今の若い世代が社歌を新鮮なものと受け止めていることも、ブームの要因だと弓狩匡純氏は言う。

 「バブルの頃は個人主義の意識が高まり、みんなで一緒に何かをやるとか、ましてや一緒に歌を歌うなんてダサいという声が多かった。そのため社歌は次第に下火になりました」

 「ところが今は個人主義が行き渡り、価値観も多様化してしまった。若い人たちはむしろ、みんなで共有できるものを持ちたがっている。キーワードは『感動の共有』ですよ」(弓狩氏)

 若い頃に社歌を無理やり歌わされ、社歌にトラウマを持つ世代が次第に職場からいなくなり、新鮮なものとして面白がる土壌が職場にできていることも背景にあるようだ。社内運動会や社内旅行が復活しているのもその表れだろう。

 それと同時にコンピューターの技術の発展によって音楽や動画を作成、編集できる機器が安価で手に入るようになったことも一因である。手軽に低コストで社歌を作れるようになったことも社歌ブームを後押しする要因になっているに違いない。

 「もともと社歌というのは、組織に運命共同体意識を持ちたがる日本人のDNAに組み込まれているものです」と弓狩氏は言う。

 ただし、以前のブームと違うのは、会社組織がかつてのタテ社会からフラット型の組織に移行しているところである。

 上下の結束より、社員個々が個性を発揮し、認め合う“コミュニティ”としての一体感が求められているところが、以前の職場環境とは違う。かつての行進曲調や校歌のようなお堅いものから、J-POPやロック、ポップといった身近な曲調のものが登場しているのも、そうした背景があるからだろう。

 ダイバーシティの考え方が浸透し始めている今、同じ組織に所属しても、同じ価値観で働くことは難しくなっている。そういう職場環境で社員の心を一つにまとめ、一体感を作るうえにおいて、社歌のニーズはますます高まる可能性を秘めている。

 加えて、中小企業では数ある企業の中で、同じ価値観を共有できる取引先を見つけることも、重要になっている。取引先との相互理解と絆を深めるツールとしても、社歌や社歌動画の価値は見直されることになりそうだ。

筆者:大島 七々三