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【台湾で気になった端末】



Ericsson T10 販売価格(当時):約5万円

Ericssonの手のひらサイズの小型ケータイ。フリップで10キーが隠れ使いやすかった。

ケータイ西遊記 -第13回- 台湾/台北編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

屋台が美味しい台北夜市

ケータイ屋も面白い



日本人の海外渡航先として人気の台湾。多数のLCCが運行し、時には往復1万円程度で訪問することもできる。日本からの距離も近く、首都台北であれば日帰りでも訪問できるほどだ。夜になれば各地に常設された夜市が開き、屋台のB級グルメを楽しめる。夜市は深夜遅くまでやっているのも大きな魅力だ。


夜市の屋台グルメも台湾の大きな魅力だ。

その夜市には食べ物屋ばかりでなく、洋服屋などのお店も集まっている。もちろんそこには携帯電話の中古屋やケース屋も多い。筆者は香港で駐在員をしていた2000年頃から、台北出張時の夜は飲み屋に行くのではなく、夜市の携帯屋巡りをするのが楽しみだった。しかし、毎回同じお店だけを訪問するのも面白味に欠ける。滞在最後の夜はそれまで行ったことの無い夜市へ行くようにしていた。


▲筆者は夜市で毎晩中古携帯を眺めていた。

まだ地下鉄が開通していなかった当時、バスに乗って街はずれの夜市を訪問した時、不思議なお店を発見した。道端に大きい段ボール箱が積み上げられ、その中には小さい紙箱がぎっしりと詰まっている。箱のラベルには「全・愛立信」などと書かれていた。愛立信はエリクソンの中国語表記だ。では「全」は何の意味なのだろうか?

当時の台湾では、携帯電話は「簡配」という2つの売り方がされていたのである。「簡配」とはメーカーが売る携帯電話そのもの。これに対して「全配」とは「全てあり」の意味であり、予備バッテリー、ケース、ストラップなどがセットになった別の箱がオマケとして付属するのだ。今や携帯電話関連のアクセサリはほぼ中国で作られるが、そのころはまだ台湾でバッテリーやケースを作る会社も多かったのだろう。そんなメーカーたちが、新しい携帯電話が発売されるたびに、台湾独自のオマケセットを生み出していたのだ。

屋台の売り子は女の子

愛される姉妹はどこへ?



屋台で売っていたのは、本来その「全配」として携帯電話とセットにされる、別箱だけだったのである。一体これはどんなルートで出てきているものなのか、それを知りたくてお店の人に話を聞こうとしたが、店番をやっているのは中学生くらいの姉妹だった。

「こんにちは、日本人だよ」と中国語で話しかけると「日本でも携帯電話はみんな使っているでしょ。たくさん買っていってよ」と笑顔で売り込みをかけてくる。「日本メーカーの電話しかないんだよ」というと「じゃあソニーを探すね」と、二人して箱の中から一生懸命「索尼」、すなわちソニーとラベルが貼られた箱を探し始めた。もちろん海外で売っているソニーの携帯電話は日本では流通していない。しかし、二人が一生懸命に箱を探す姿を見ると、そんな野暮なことは言えなかった。

結局ソニーの箱が見つかったので購入したが、1箱数百円程度だったと思う。自分以外にその店へ立ち寄る客は無く、一晩の売り上げは大したものではないだろう。そもそも売っていたのは、一昔前のモデル向けのもので、すでに市場価値の無い製品だったし。

「二人ともえらいね、お父さんとお母さんは?」と聞くと、「ふふふー」と笑いながら二人でじゃれあい始めた。しかしその顔には、どことなく寂しい表情が隠されているように見えた。

その後もその屋台は何度も訪れたが、お客さんがいないときは周りの屋台から差し入れをしてもらったりと、姉妹は周囲から愛されているようだった。しかし、一度として両親、あるいは大人の姿を見たことは無かった。

ほどなくして台湾のオマケ付き販売は終わり、街の中から「全配」の箱も見られなくなった。時を同じくしてか、姉妹の屋台もいきなり無くなってしまったのだ。周りの人に聞くと「遠くに引っ越した」とのことだったが、一体何があったのだろう?

台湾の夜市では、親を手伝う子供の姿をたまに見かける。それが女の子だったりすると、ついついあの「全配」箱売りの姉妹を思い出してしまうのだ。二人は進学はしたのだろうか? そして今頃は結婚して幸せな家庭を築いているのだろうか? 華やかな夜市に出かけるたびに、今でもそれが気になってしまうのである。



▲台湾と言えば小籠包。異論を唱える人はいないはずだ。

文/山根康宏

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

※『デジモノステーション』2017年6月号より抜粋

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