米ニューヨークの一風堂の店舗(AP/アフロ)

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 博多ラーメン「一風堂」を運営する力の源(ちからのもと)ホールディングス(HD)の株価が乱高下している。3月21日、東証マザーズ市場に上場したが、買い気配のまま値がつかなかった。翌22日にやっと2230円の初値をつけた。これは、公開価格600円に対して3.7倍で、時価総額は247億円に上る。その後は勢いが止まらず株価は上昇を続け、上場4日目となる24日には3655円にまで急騰、公開価格の実に6.1倍となった。

 だが、それからは一転して利益確定売りが出て、株価は下がり続けた。4月13日は安値1858円に下落。初値を割り込み、高値をつけた3月24日の半分になった。

 それでも公開価格の3.1倍という高い水準を保っており、4月17日は326円高の2315円で終わった。新興市場は一時の熱狂から醒め、IPO(新規公開)銘柄で公開価格割れが続出している。そんななか、一風堂は投資家の期待に応えているといえる。

 今後は、一進一退を続けながら、公開価格(600円)の水準に近づくのではないかと、弱気の読みをするアナリストもいる。その背景には、同社株でマネーゲームをしてきた個人投資家が、今回の株価の波乱で少なからずダメージを受けているからだ。力の源HDを対象としたマネーゲームは、いったん終息したとの見方が出ている。

 力の源HDは、上場に伴い80万株を新規に発行、創業者で会長兼CEO(最高経営責任者)の河原成美氏は、保有する20万株を売り出した。初値の2230円で計算すると、河原氏は4億4600万円のキャッシュを手にしたことになる。

 力の源HDは上場に先立ち、社員を対象にストック・オプションを導入した。1株530円で株式を購入する権利だ。仮に、初値で手に入れた株式を売却したとすると1株で1700円の売却益が出るわけで、2000株を売却すれば340万円相当の利益を得る計算(手数料や税金は除く)。つまり、時ならぬボーナスとなる。ちなみに、本体の従業員数は71人で、3万3000株を保有する清宮俊之社長兼COO(最高執行責任者)などの役員や、子会社の役員がストック・オプションの恩恵を受けた。

 力の源HDの公開価格は、想定価格の上限にあたる600円で決まった。想定価格は同業他社と比較して決められており、これほどまでに株価が暴騰するとは、誰も考えていなかったのではないだろうか。

 だが、経営陣は、これから地獄が始まる。株価があまりに上がりすぎたため、高い株価を維持するための方策を次々と打ち出していかねばならなくなったからだ。人気ラーメン店といえども、株価を押し上げる材料は、そう多くはない。

●商品の横流しで懲役1年6カ月の判決

 河原氏は、ドン底から這い上がった人物として地元福岡では有名人だ。彼は講演会や雑誌で、自身の半生を赤裸々に語っている。

 高校の美術教師の父のもと、1952年12月18日に福岡県城島町(現・久留米市)で4人兄弟の末っ子として生まれた。九州産業大学時代には役者を目指して、アルバイトに明け暮れた。当時、武田鉄矢や井上陽水など福岡県出身のアーティストが東京で活躍しており、アングラ劇団は第一次の全盛期を迎えていた。河原氏は上京して2年間、歌舞伎を中心に公演をしていた「前進座」に所属した。

 役者では食べていけず、福岡に戻り地場スーパーのユニード(のちにダイエーに吸収合併される)に入社、西新店で衣類や雑貨の仕入れを担当した。社会人になったものの人生の目標は見えてこない。長兄はパイロット、次兄は新聞社勤務、3番目の兄は大学院で彫刻家を目指していた。こうしたなかで、河原氏は役者にもなれない“落ちこぼれ”だった。周囲に反発するようにワルを気取って反社会的なことばかりやった。

 河原氏は、それからの人生を決定づける「目の覚めるような事件」を起こした。ワル仲間と共謀し、ユニードの店の商品を横流ししたのだ。その額は800万円に上る。事件が発覚し、40日間の拘置所暮らし。懲役1年6カ月・執行猶予3年の有罪判決を受けた。25歳の時のことだ。

 一番効いたのは、裁判での父親の声だった。2009年9月1日付「ITmediaビジネスオンライン」記事、嶋田淑之氏のインタビュー『博多一風堂 河原成美物語』で、人生の転機になったこの事件について、次のように語っている。

「警察署で僕の調書を見た父は涙をポロポロ流して、『何百人も教えてきたけどたった1人、自分の子どもを教育しきれんかった』と言って、僕の身柄を警察に托したそうです。そして裁判に証人として出廷したんですが、教師としてのプライドを捨て『すべて私のせいです』と涙ながらに謝っていました。その姿を見て、何ともいいようのない感情がこみあげてきました。(略)正直に言えば、自分の陰の部分がすべて白日のもとに晒(さら)されたことで『これでようやく自分は本来の自分でいられる』という、肩の荷が降りたような、ホッとした気分になったんです」

 父親は、有名進学校である県立修猷(しゅうゆう)館高校の教師を辞めた。父につらい思いをさせ人生を狂わせてしまったことを、河原氏は本当に深く反省した。それと同時に、「縛られていた自分から解放された」と語っている。

●3年連続ラーメンチャンピオン

 一度、地獄を見た人間は強い。執行猶予の身では勤めはできない。兄から、友人がやっていた店が空いていると聞いて、26歳のとき6坪の店を借りてパブを始めた。「もう芝居の話はしない。店は1日も休まない」と決めた。毎日3人、年間1000人の客の顔と名前を覚え、このうち200人は誕生日を丸暗記して、実際に祝ったりした。

 貯めた資金をもとに85年、32歳のときに10坪のラーメン店「一風堂」を開店した。80年代に「怖い・臭い・汚い」といわれていた博多ラーメンのイメージを覆し、女性がひとりで入店できるようにするためにジャズを流すなど、おしゃれな店づくりに努めた。豚骨特有の臭みを消すことに成功し、瞬く間に繁盛店になった。

 94年、「新横浜ラーメン博物館」に出店。97年から人気テレビ番組『TVチャンピオン〜ラーメン職人選手権』(テレビ東京系)で3年連続チャンピオンとなり、一風堂は全国区のブランドになった。

 国内は126店、海外は12カ国に63店を展開している。同社の特徴は、国内ではフランチャイズ募集を行わず、独自の暖簾分け制度をとっている点だ。27店が暖簾分けによる店舗だ。直営店の店長として経験を積んだ後に、自ら志願して独立する方式だ。

●クールジャパン機構の出口戦略

「官製ファンドの出口戦略に基づくもの」というユニークな視点で、力の源HDのIPOを冷ややかに見ているアナリストがいる。「新規上場申請のための有価証券報告書」によると、資本金は9億2300万円(公開時)。筆頭株主はシンガポールの投資会社E&RS’ FORCE CREATION PTE.LTDで、発行済株式の25.95%を所有。2位は河原氏で25.78%、3位は海外需要開拓支援機構の11.80%となっている。

 支援機構は通称「クールジャパン機構」と呼ばれる、13年11月に海外進出を目指す企業を資金面から支援するために設立された政府系ファンドだ。14年12月、力の源HDに対し、欧州や豪州での海外展開のために7億円を出資し、13億円の融資枠を設けた。

 力の源HDは、新規上場に伴い80万株を新規発行して4億8000万円を調達。調達資金はパリやロンドンの出店費用に充てる。クールジャパン機構は、上場に伴い、保有株を売却して投資金を回収する予定だ。つまり、一風堂のIPOは、政府系ファンドの出口戦略に基づくものだったのである。

 力の源HDの17年3月期連結売上高は前期比7%増の223億円、営業利益は20%増の6億円の見込み。純利益は固定資産売却益2億6000万円を特別利益として計上するため、2.1倍の2億6000万円になる。

 しかし、17年3月期の既存店売上高は3.2%減、客数は4.9%減と苦戦した。一風堂の内情は、かなり厳しいとみられている。そんななか株価が突出したことで、経営陣は今後、高い株価を維持するために苦労する可能性が高い。

 第4位の大株主である河原恵美氏は、成美氏の配偶者で9.94%の株式を保有している。清宮氏は0.91%で第11位の株主。取締役経営管理本部長の粕谷進一氏は0.84%で16位。取締役人事・総務本部長の原田善治氏は0.31%、従業員の藤井是輔氏は0.22%持っている。

 また、従業員持株会社は3万株(0.27%)保有しており、初値で計算した時価総額は6690万円だ。このほか、子会社の役員や従業員、暖簾分けしてもらって店主になった元従業員も株主に含まれている。
(文=編集部)