福岡空港国内線ターミナル(「Wikipedia」より)

写真拡大

 2016年は空港民営化元年であった。それまで日本の空港は、滑走路や駐機場を国が、ターミナルビルをビル会社が、それぞれ所有していた。だが、ビルの運営といった非航空事業は黒字だが、国の管轄である航空事業は赤字なため、海外のように運営主体をひとつにする機運が出てきた。

 そこで、空港など公的施設の長期の運営権を民間企業に売却する「コンセッション」と呼ばれる取り組みが始まった。

 大型案件の第1号が、関西国際空港と伊丹空港の一体運営だった。総合リース会社のオリックスをはじめ、フランスの空港運営会社ヴァンシ・エアポート、パナソニック、阪急阪神ホールディングス、南海電気鉄道など関西圏企業30社の出資で設立した関西エアポートによって16年4月、運営が開始された。関西エアポートが総額2兆2000億円の巨費を投じ、両空港の44年に及ぶ長期の運営権を獲得した。関西の企業連合以外の入札者はなかった。

 大型案件の第2号は、16年7月に民営化された仙台国際空港だ。これには4つの陣営が応募した。「三菱商事、楽天」「三菱地所、大成建設、仙台放送、全日本空輸(ANA)と羽田空港旅客ターミナルビルを運営する日本空港ビルディング」「イオン、熊谷組」「東京急行電鉄を中心とした東急5社、前田建設工業、豊田通商」である。

 勝利したのは東急グループで、運営権は22億円で譲渡された。運営期間は30年間で、さらに最長で20年延長することができる。東急コミュニティーは北九州空港ターミナルのビルの管理業務、東急エージェンシーは成田国際空港、新千歳空港、中部国際空港などの空港広告を手掛けている。前田建設は羽田D滑走路の建設や香港国際空港の運営に携わっており、豊田通商はラオスで空港国際ターミナルを運営するなど、それぞれに実績がある。

●地元連合は福岡市長と自民党が内ゲバ

 大型案件の第3号は福岡空港だ。国土交通省は17年3月24日、福岡空港の運営権売却について、最低価格を30年間で計1610億円とすることを盛り込んだ実施方針を発表した。

 内訳は一時金200億円、分割金として年47億円を超える提案を受け付ける。最低価格は国が24年度までに計画する滑走路増設の費用1643億円とほぼ同規模で、運営権の売却益の一部を滑走路増設の費用に充てる。

 福岡空港の運営は19年4月をめどに民間委託される。それに先立ち、国交省は17年8月ごろから18年5月にかけて優先交渉権者を選定する。運営権を取得する事業者は、福岡空港のターミナルビルを運営する福岡空港ビルディングの全株式を450億円で取得するため、合計で2000億円以上の事業費が必要になる。

 入札参加を目指す企業連合づくりが本格化した矢先に、地元福岡で“内ゲバ”があった。

 福岡空港の民営化に伴う新たな運営会社への出資をめぐって、安倍晋三首相や麻生太郎副総理兼財務相に近い高島宗一郎・福岡市長と、市議会最大会派の自民党市議団が対立したのだ。

 福岡市は、これまで空港ターミナルを運営する福岡空港ビルディングに出資していたが、高島市長は空港民営化に伴う新たな運営会社には出資しないことを決めた。株式の売却益で得る64億円のうち、8億円を基金として空港周辺の街づくりなどに活用し、残りを子育てや教育支援へ役立てると表明した。

 これに対し自民党市議団は「街づくりに、会社の中からの意見を反映させるべきだ」と新会社への出資を主張し、高島市長に真っ向から異を唱えた。

 福岡市議会は2月23日の定例本会議で、市が提案した福岡空港未来基金条例案を自民党などの反対多数で否決した。そして、自民党は、福岡空港民営化後の新たな運営会社への市の出資を義務付ける基金設置条例案を議員提案し、3月28日に可決した。

 出資は必要ないとする高島市長は再議(審議のやり直し)を求めて反撃に出た。再議は議長を含む62人で実施。再可決に必要な3分の2(42人)以上を巡って駆け引きが繰り広げられた。福岡市議会は4月13日未明の本会議で、再議の結果、基金設置条例案を否決した。一時は再可決するとの見方が広がったが、1票差で廃案となった。これにより、民営化後の運営新会社に対し、福岡市は出資しないことが正式に決まった。

●三菱商事は地元連合に、オリックスは独自に参戦

 他方、民営化される福岡空港の運営委託先を決める入札に参加するため、地元連合が形成された。福岡空港のターミナルビルなどを運営する福岡空港ビルディングに出資していた九州電力や西日本鉄道が、16年7月に空港の運営権取得を表明。これを機に、これまで出資していなかったJR九州など地元企業が合流する動きが加速し、今年2月、入札に参加するため福岡エアポートホールディングスを設立。そこに日本航空やANAホールディングスも参加した。

 しかし、地元連合には、空港の管理運営や、海外航空会社との折衝といったノウハウがない。そこで、総合商社が持つネットワークに期待して、三菱商事や住友商事と接触を重ねてきた。

 地元連合は4月5日、三菱商事とシンガポールで空港を運営するチャンギ・エアポート・グループと組むことで合意したと報じられた。チャンギはシンガポールのほか、イタリアやロシア、ブラジルでも空港運営に携わるなど、積極的に世界展開をしている。

 三菱商事はミャンマーのマンダレー国際空港で航空機や旅客の誘導などを手掛ける。モンゴルやフィリピンの空港建設にも参入している。三菱商事は国産ジェット機MRJを開発した三菱航空機の第2位株主。MRJを活用したビジネスに意欲を燃やしており、仙台空港の運営権の入札に参加していた。

 地元連合が重点を置いたのは出資比率だ。たとえば、関西エアポートの出資比率はオリックス40%、ヴァンシ・エアポート40%で、関西の地元企業は合計で20%にとどまり、影響力を持ち得なかった。福岡の地元連合は、出資比率の過半数以上握り影響力を行使することを狙う。ただ、地元連合にとって、大口出資を見込んでいた福岡市が降りたことは痛手となった。

 三菱商事が地元連合に参加することが明らかになった翌日の4月6日、オリックスを中心とした企業連合が入札参加を検討していると報じられた。

 オリックスは、関西エアポートのパートナーとなったヴァンシと企業連合を組んで参戦する。関西国際空港と伊丹空港を一体運営したように、北九州空港の民営化を前提に、一体運営を視野に入れている。北九州空港は24時間運用が可能で、ヴァンシの海外航空会社のネットワークを生かした国際線誘致の可能性を追求する。

 福岡空港の運営会社の公募は5月に始まる。「地元連合、三菱商事」と「チャンギ・エアポート・グループ、オリックス、ヴァンシ・エアポート」の一騎打ちとなる。
(文=編集部)