五郎丸歩TOP14挑戦を検証する 後編

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フランスリーグTOP14に挑戦中の五郎丸歩
 3月19日の第21節グルノーブル戦、五郎丸歩は3ヵ月ぶりの出場を果たし、ソツのないプレーを見せたものの、周囲の評価を変えるまでには至らず、次週のスタッド・フランセ戦は出場できなかった。

 その試合、RCトゥーロンは終了直前で逆転を許し11-17で敗れて、9月の第4節以来となる敵地での勝利を逃した。その翌日、ムラッド・ブジェラル会長はマイク・フォードHCの契約は今季限りであると発表した。

 すでに昨年10月に指揮官を交代していたこともあり、シーズン末まではフォード体制でいくと会長はこの時点で断言していたが、次節4月2日、欧州チャンピオンズカップでもしのぎを削るクレルモンに9-29と大敗すると、試合の翌日、フォードHCは解任となった。表向きは『双方の合意のもとの契約解除』だが、実のところは即時解雇だ。



 一説によれば、スタッド・フランセに11-17で敗れた3月26日の試合の翌日、フッカーのギエム・ギラドらフランス人を中心とした主力選手7人とマーク・ダルマゾコーチがブジェラル会長と密談を行なった。ここでの議題はおそらく、フォードHCの処遇問題だ。

 ディエゴ・ドミンゲス、フォードと2人のヘッドコーチが去ったあと、現在は1月からアシスタントコーチに呼ばれていたイギリス人のリチャード・コッカリルが指揮を執り、マット・ギタウが選手兼コーチとしてバックスを統括している。プレーオフ進出に向けて大詰めのこの時期に、五郎丸がウェールズ代表リー・ハーフペニーを差し置いてチャンスを得ることは「難しい」とコッカリルは話す。

「彼はグッドプレーヤーだ。しかし、このようなハイレベルのリーグでは、時間は与えられない。すぐに結果を出す必要がある。まったく違うカルチャーから来て、言語もまったく違う中での挑戦は厳しいことは理解できるが……」

 ハーフペニーやドリュー・ミッチェルらFB陣が揃って欠場、という事態にならない限り、ここからシーズン終了までの間に五郎丸が出場チャンスを得るのは難しそうだが、ほぼ全員が各国代表クラスのこのハイレベルなチームで過ごした今シーズンは、彼にとって大きな収穫であったことは間違いない。

 現地での五郎丸の評価だが、短絡的な判断を嫌う現地記者たちは出場時間の限られていた五郎丸を、彼のパフォーマンスについて判断することはしていない。「彼の実力を語れるほどプレーを見ていない」というのが彼らの言だ。



 ただ、起用法については疑問を投げかけている。地元のヴァール・マタン紙のポール・マッサボ記者はこう見ている。

「ドミンゲスからフォードにヘッドコーチが代わったときに、ゴロウマルにとっては、 サイコロの目がコロン、とひっくり返ってしまった。ドミンゲスなら確実に、彼はもっと使われていただろうからね」

 同僚のフィリップ・ベルシア記者が続ける。

「(3ヵ月ぶりの出場となった)グルノーブル戦ではゴロウマルにキッカーを任せてもよかった。そうすれば彼の自信にもつながっただろうから。そういった采配もコーチの手腕のうちだ」

 グルノーブル戦の前週のバイヨンヌ戦で12本中11本のキックを決めて82-14という記録的な大勝に貢献したピエール・ベルナールを「外すことはできない」とフォードHCは話したが、グルノーブル戦では不調で、PKを3本外し同点に追いつかれる一因となっていた。

 ブジェラル会長も五郎丸のパフォーマンス自体についてはいまのところコメントしていない。3月下旬のヴァール・マタン紙とのインタビューの中で「出場の機会が与えられなかったことは残念。しかしそれは監督の采配であるから、自分はそれを尊重する」と、自らが欲した選手の出場機会が限られたことに関して悔やみ、「ワールドカップのときのゴロウマルは自信に満ちてプレーしていたが、ここでは迷いがあるように見えた」とだけ話した。



「よく知っているだけに彼についてはあまり話せない」とあまり口を開かないダルマゾコーチの意見も会長のそれに共鳴している。

「ここでのゴロウマルは、本物のゴロウマルではなかった。彼は生粋のリーダー気質だが、ここでの彼はリーダーではない。彼は自分が必要とされている状況で実力を出せるタイプだ。

 このクラブは、入った直後から最高のパフォーマンスを期待される場所。彼にとっては、まずはフランスのクラブに順応する期間を経て、それからより大きなクラブに挑戦する、というのが理想的だったと思うが、まず言葉の問題があり、スターしかいないようなクラブに来て、すぐに最高のパフォーマンスを発揮することを求められるのだから厳しくて当然だ」

 五郎丸の場合、ポジションがフルバックに限られることも出場を難しくした。控えメンバーにはポリバレントな選手が好ましいため、五郎丸をメンバーに選出する場合は先発しかない。おのずと11番から15番までこなすミッチェルやジェームズ・オコナーらが優先される。

 また、TOP14でフルバックに求められるスピードに欠けていたのは否めない。ダルマゾコーチもそれを認める。

「スピードに関しては、もともとゴロウマルはスーパーフィニッシャーではない。足元のプレーに優れた選手だ」

 ならばなおさら、彼の一番の強みであるキッカーとしての実力を試す機会がなかったのは残念だ。



 もっとも気になったのは、シーズン当初にフォードHCがしきりに指摘していた点だ。

「ゴロウマルはインテンシティが足りない。もっとインテンシティを見せてほしい」

 “インテンシティ”はスポーツ界で非常によく使われる言葉だが、日本語でぴったりくる言葉がなかなかない。ガッツを見せる、とか、強気で取り組む、とか、熱心さ、そんなことをひっくるめたような言葉だ。

 体の中ではファイティングスピリッツが煮えたぎっていても、表面でクールに見える選手は、感情をむき出しにする西欧、とくにラテン系の国では損をしがちだ。五郎丸以外でも、海外挑戦した日本人選手について同じような評価を耳にしたことが何度かある。

 そこにはカルチャーの違いもある。日本人は指揮官の言葉に誠実に従う姿勢が正しい、という傾向にあるが、こちらでは歯向かってでもアピールするのがやる気の表れと好意的に受け取られることも多い。

 前述のグルノーブル戦のあとでマッサボ記者は首をかしげていた。

「ゴロウマルは、監督に『もしベルナールの調子が悪ければ、自分に蹴らせてください』といったアピールはしたんだろうか? フランス人の選手なら確実にそうするだろうし、試合中でもベルナールの調子が悪いと思えば、『おい、調子悪かったら言えよ、俺が代わるから』と言って自発的に蹴りにいったりするものだが……」

 単に熱心にトレーニングに励むだけでは、ここではチャンスはつかめないということなのだろう。どんな場面でどんな態度をとるか、相手とどんなやりとりをするか、といった処世術も重要なのだ。



 ただ、五郎丸はひょっとしたら、最初から1年だけ、この世界最高レベルのリーグで研鑽したい、というつもりだったのかもしれないとも思う。

 初めて出場したリヨン戦のあと、こう語っていた。

「コンタクトスキルの部分において、フランスリーグは世界有数のレベルにあると思うので、それをしっかり肌で感じて日本に帰りたいと思います」

 いま、挑戦の幕が開いたところで「日本に帰る」という発言が出てきたことに驚いたが、この言葉はその後も何度か繰り返された。「このリーグでできる限り挑戦してみたい」というよりは、「学べるものを学んで日本に持ち帰ろう」という考えだったのかもしれない。

 いずれにしても、五郎丸自身には、自分の今後のラグビー人生がしっかりと見えているのだろう。日本代表復帰を目指すにしてもそうでなくても、自分ができる一番いい形で、日本のラグビーの発展に貢献していこうと考えているのは確かで、そのときにここトゥーロンでの経験は必ず役に立つ。

*     *     *

 五郎丸はファンには、いつもとびきりの笑顔で応じていた。サインや写真に丁寧に応じる姿はジェントルマンなラガーマンそのもの。サインを待つ孫におじいちゃんファンが「この選手はね、日本の一番すごい選手なんだよ」と教えていたのを聞いたときには、こちらまで誇らしい気持ちになった。

 それに世界トップクラスのチームメイトたちとトレーニングに汗を流す姿は、とても充実しているように見えた。全体練習のあとは、いつもハーフペニーとキックの練習に励み、誰よりも遅くまでグラウンドに残っていた。



 スタッフのひとりは「アユムは英語で分け隔てなくみんなと話しているよ。とても感じのいい青年だ」と眼を細めてその様子を見守っていた。

 五郎丸と同時期にトゥーロンに入団したアルゼンチンのセブンス代表アクセル・ミュラーは、同じバックス同士で身近に接する機会が多かったひとりだが、笑顔でこう話してくれた。

「アユムのことはもともとすごく尊敬していた選手で、彼にはポジショニングのこととかいつもアドバイスしてもらっている」

「いまはまだ総括するには早すぎるので」と取材には応じていないが、いずれトゥーロンでの経験についても五郎丸自身の口から語られることだろう。

 指揮官交代にも「よくあること」とまったく動じていなかった彼が、背後にあったクラブのゴタゴタを言い訳にするようなことはきっとない。それだけに、もっとクラブが落ち着いたいい状態にある時期に挑戦できていたらと、やはり少し残念に感じるのだ。

(おわり)

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