見事な3人目の動き出しから、移籍後初ゴールを決めた兵藤。「落ち着いて流し込むことができた」。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1・8節]浦和レッズ 3-2 コンサドーレ札幌/4月22日/埼玉スタジアム

 まさに神出鬼没――札幌の兵藤慎剛は、どこにでも顔を出す。首位・浦和のホームに乗り込んだJ1第8節、2列目の左で出場した兵藤は、中央はもちろん、ときには右サイドにまで流れて攻撃の起点となった。
 
「(チームが)ボールを奪ったところで、自分がパスを受けて、時間を作ったり、アクセントになることを求められている。そこからさらにアシストやゴールに絡んでいけるところが自分の良さだとも思っているので、そこを突き詰めていきたい」
 
 2-3で浦和に敗れた試合後だけに、ミックスゾーンに現われた兵藤は、当然ながら引き締まった表情をしていた。スコアこそ接戦だったが、決定機の数で言えば圧倒的に浦和に軍配が上がった。
 
 兵藤自身は「たくさんのお客さんに見てもらえるということで、プロとしての喜びを感じられる場」と、威圧的な雰囲気すら漂う埼玉スタジアムについて語ったが、今季J1に昇格した札幌は、ボールを奪ってもイージーなミスで再びボールを失う場面が目立った。
 
「特に前半は埼スタの雰囲気に飲まれたところも、チームのプレーが硬くなった原因のひとつとしてはあるかもしれないですね」
 
 緊張だけでなく、萎縮していたところもあったのかもしれない。そんなチームメイトたちに発破をかけるように、兵藤はがむしゃらにボールを追い、スペースへと走り込んだ。
 
 0-1で迎えた34分だった。左サイドの田中雄大から斜めにくさびのパスが入ると、都倉賢が落とす。菅大輝がそれを頭でDFの裏へと送ると、ポジションを取り直していた兵藤は、胸トラップで前に運び、左足でゴールを決めた。
 
「一瞬、オフサイドかなとも思ったんですけど、旗が上がっていなかったので、あとは落ち着いて流し込むことができたと思います。3人目の動きを意識して、中に入って行けた。ボールの受け方としては得意な形でしたからね」
 
 それは札幌移籍後、初ゴールとなったが、「(自分としては)もうちょっと早く(点を)取りたかったなというのが正直なところです」と、口を真一文字に結ぶ。結果的に敗れているだけに、開幕から8試合目の初ゴールに安堵する様子もなく、厳しい言葉を続けた。
 
「点を取らなければ、チームを勝たせられないので、そういう意味ではもっと、もっと貪欲にゴールを狙わなければならないと思っています。チームが勝つことが一番なので、次はチームを勝たせられるゴールを決めたい」

【浦和 3-2 札幌 PHOTO】Rシルバ、関根、興梠がゴール。粘る札幌を倒す。
 ただ、首位を走る浦和を相手に、最後まで追い上げられたことで得た手応えもある。
 
「開幕の頃に比べると、良くなってきている部分はある。残留を争うチームは(実力的に)どんぐりの背比べじゃないですけど、紙一重だと思っている。だから、そのちょっとした差のところの力をつけていければと思う」
 
 横浜でプレーしていた昨季までならば「優勝」という言葉を口にしていたであろうが、札幌に活躍の場を移した兵藤は、何度も、何度も「残留」という単語を発した。
 
 彼が抱く危機感の正体は、ホームで2勝しているとはいえ、アウェーではいまだ勝点を挙げられていない現状もあるのだろう。ルヴァンカップを挟み、リーグ戦では再びアウェーの磐田戦が待っている。
 
「ただ、下を向いているわけにはいかないですからね。相手にボールを持たれる分、1回のプレーの質を上げていかないと、チャンスは作れない。ずっとボールに関与できるわけではないですけど、ボールを持った時に何ができるか。クオリティを上げていきたいと思います」
 
 テレビ取材のあった兵藤は、「また」と言って歩き出したが、その後も何となく彼を眺めていた。キャリーケースを引き、スタジアムを出ていくその姿は背筋がぴんと伸び、何より顔は前を見据えていた。
 
取材・文:原田大輔(SCエディトリアル)