GoogleやFacebookなど、世界的なIT企業の多くは米国で誕生し、これらの企業では数多くの優秀なプログラマーたちが活躍しています。しかし、日本の「IT企業」の優秀なプログラマーが、世界中を驚かすような画期的なサービスを開発した、という話はあまり聞こえてきません。メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で、Windows95の設計に携わり「右クリック」「ドラッグ&ドロップ」「ダブルクリック」などを現在の形にした世界的エンジニアの中島聡さんは、「ITのプロは日本では出世しない」というネット記事を紹介し、その理由として日本のIT企業の2つの問題点を指摘しています。

日本企業とソフトウェアエンジニア

少し前に、Facebook に「ソニー株式会社を退職しました」という記事の投稿をしていただきました。色々と考えされられる記事ですが、同じ時期に書かれた ITPro の「「ITのプロは日本で出世しない」と米国人から言われ、数日考え込んだ」という記事と合わせて読むと、なおさらです。

これらの記事で指摘されている日本のIT業界の問題は、私自身もこれまで何度も指摘して来ましたが、その根底に、「正社員を簡単には解雇できない日本社会」と「建築業界と同じように、大手のITゼネコンにIT投資という形で政府がお金を流し込めば業界全体が潤うと信じている経産省」があるため、簡単には解消しません。

極端な話をすれば、日本の社会で(正確には日本のIT業界で)出世するためには、たとえ理系の大学・大学院を出たエンジニアでも、いつまでもプログラムなど書いていてはダメで、早いうちから「ITの分かる管理職」や「ITの分かる営業」にならなければならないのです。その結果、日本で「プログラマー」と呼ばれる人たちの多くは、下請け会社で働く派遣社員で、理系の大学でちゃんとした教育など受けていないのです。

それに対して、米国のソフトウェア・エンジニアの多くは、戦時中の傭兵のように、高い給料とストックオプションで最先端の企業を渡り歩き、30代で一生遊んで暮らせるぐらいの財産を作り、それをベースに起業したり、悠々自適の人生を歩むのです。

そうは言っても、日本の中にも、大手ITゼネコンとは大きく違うビジネスモデルを持つ、若い会社が生まれつつあります。そんな企業は、どこも優秀な人材を求めています(私が会長を務める Xevo (旧 UIEvolution)もそんな会社の一つです)。上のソニーの人のように、旧態依然の大企業が提供するキャリアパスに疑問を感じたら、思い切って飛び出してみるのも悪くないと思います。シャープや東芝を見ても分かるように、大きな会社といえども、一生面倒を見てくれる保証はなくなったのです。

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『週刊 Life is beautiful』

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)

マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

出典元:まぐまぐニュース!