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森友問題、そして緊迫する東アジア情勢と、最近何か起こるたびに注目を集める稲田朋美防衛相。女性の防衛大臣といえば小池百合子氏や、『シン・ゴジラ』の花森防衛大臣を思い出すが、“網タイツ+メガネっ娘”キャラの稲田氏と、小池・花森両氏の違いとは?

■2017年春のヒロインは稲田朋美氏?

この2カ月ほど私たちの視界からフレームアウトせず、あらゆる話題の陰に必ず存在のちらつく閣僚がいる。稲田朋美防衛相だ。

教育勅語だ、カゴイケだソンタクだ、昭恵だオカルトだと、オモシロキャラとネタ揃いの森友劇場が派手に幕を開け、怒涛の連日大入り満員興業を続けた3月。稲田氏の「森友学園……はて」とのテヘペロ国会答弁に怒り狂った向きがこぞって書き立てた、カゴイケ一家と稲田実父と日本会議との位置関係も興味深かった。個人的には森友学園元PTA会長のじわじわくる個性が今季イチのお気に入りで、彼がテレビ画面に映るたび誰にも言わずにムッツリ楽しんでいたのだが、問題が核心に迫るにつれ我らがファーストレディーが沈黙を続けるようになり、ドラマは失速した形だ。

そこへアメリカのトウモロコシヘアーおじさんが米中会談の間隙を縫ってシリアにトマホーク59発をドヤ顔で放ったもんで、世間には「すわ、次は米国の北朝鮮攻撃だ、極東危機だ」と緊張感が走った。朝のニュース番組で、若くて綺麗な番組アシスタント的に存在する女子アナが、眉間に皺寄せて“専守防衛の是非”なんて言葉を口にするくらい、「防衛(or 安保)」と私も含む「女子供」の距離が再び縮まった今春である。

■実績を伴わない「パパの忠実な娘」が増えている

で、最近、思うのだ。「保守女子、増えたなぁ」と。わりとインテリ(※すごくインテリではない)でそれなりに不自由なく育ち、親に大きく反発せず、表立ってグレず、たぶん変な男を追っかけたりして親元から逃げたこともなく、要は「ちょっと力のある保守的な父親に可愛がられて育った、お勉強もそこそこできて、父の教えに忠実な娘」。

保守女子は見た目もそこそこ小綺麗に育ったわりに、対となる高学歴で海外慣れしたようなリベラル女子にしばしば見られる「私は優秀よ、当然でしょ?」的な強気なアグレッシブさ(民進党の蓮舫氏のイメージ)がないので世間受けがよい。拭いがたくドメスティック(国産)で、「手の届くナントカ」な印象。つまりその生き方は、日本的世間の多くの場面で承認されやすく生きづらくないゆえに、屈折や葛藤が生まれにくい。「パパとママ、そして夫や男性上司の言いつけをちゃんと守るいい子」っぽい、そんな保守女子政治家の代表格が小泉チルドレンから安倍総理秘蔵っ子の道を通り、「自民党純正品」として「育成」されている稲田朋美氏ではないかと思っている。

■自民党の女性政治家は、チルドレンやガールズが多すぎる

政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、民進党結党時に「自民党の女性議員はぶりっ子ばかり」と語った(ダイヤモンド・オンライン「アグレッシブ女性議員の力で民進党は一大野党になれるか」http://diamond.jp/articles/-/89583)。

現在表舞台に立つ自民党の女性議員には、2世議員はもちろん、小泉チルドレン出身や、女性票を狙って擁立されたいわゆる「刺客」候補出身など、そもそも政治家となる経緯自体が父親の地盤継承や、男性権力者の目に留まり引き上げられてそこにいる女性人材が多い。しっかりとした実績やキャリアがあってここまで来たという印象ではないのだ。

「自民党の女性議員というと、稲田朋美さんや高市早苗さんなどの安倍ガールズが象徴的ですが、自民党という厳然とした男社会の中で、媚びないとやっていけないようなタイプが多いんじゃないでしょうか。昨年9月の自民党総裁選への出馬を画策したことで、安倍首相とは距離のある野田聖子さんですら、今年2月に開かれた1993年衆院初当選議員の同期会で安倍さんと対面し、『怒っている?』『私のこと嫌い?』などと尋ねていました」(鈴木哲夫氏、同記事より)

野田聖子氏のエピソードは持ち前の茶目っ気を炸裂させたものだろうと察するけれど、自民党内で女性議員としてのし上がるにはもともと「年長の男ウケ」が最大の必要条件となっている感さえある(野田氏は年長の男性議員に引けを取らない政治家30年のキャリアなので、今さら男ウケを狙わない)。誰か権力者にかわいがられて引き上げられる、というのは多かれ少なかれ男性政治家も女性政治家も同じ構図ではあるのだが、女性議員の場合は時代背景から育成を急いだこともあって、男性議員と違って「実績が問われることなく偉くなれてしまう」パターンが多いことに問題がある。つまり、「偉くなる」根拠が実績ではなく、シンプルに「年長の男ウケ」じゃん、と有権者の目には映るのだ。

■網タイツ姿のゆるいセクシーメガネっ娘路線

「誰?」……2012年、稲田氏が第2次安倍内閣で規制改革担当大臣として初閣僚入りしたとき、そう思った人は少なくなかっただろう。それまで大きな政治的軋轢やミスを起こさず、悪目立ちせず、着実に保守軸で足場を固めてきた、弁護士出身で教育県・福井県選出の女性議員、当時3選。女性活躍という言葉を口にするようになった安倍内閣は、改造のたびに女性閣僚の数を取り沙汰される時流にもあったため、小渕優子氏や森まさこ氏、高市早苗氏など他にもっと派手でメディア映えする女性閣僚も勢揃いする中で、無難にワンオブゼムとして認識されていたように思う。福井の産業を応援ということで、網タイツに伊達メガネのゆるいセクシーメガネっ娘コスプレ(私の目にはそう見える)を始めた時も、「なるほどそういう差別化とキャラ立てでいらっしゃいましたか、へー」という印象だった。

安倍晋三氏の秘蔵っ子としてその後の政調会長時代を経た稲田氏が、しかしながら2016年第3次安倍第2次改造内閣で「防衛大臣」として返り咲いたとき、「安倍さん、やるなぁ」と唸った。あのゆるいメガネっ娘キャラで保守で手堅い弁護士出身で「防衛」とは、特定の保守男性層にとってはドンピシャ、間違いなく大歓迎される選択と思えたからだ。実際、ネットの一角では「朋美たん」扱いで、御年58歳にしてなお可愛いカワイイと愛でられている。おじいちゃんばかりの自民党なら、58歳女性議員なんて若いコ扱いだろう。ニーズとは、掘れば案外無限に存在するものだ。うーん、勉強になる。

■「女性防衛大臣」というキャリアが約束するもの

みなさんご記憶の通り、日本初の女性防衛大臣は小池百合子氏だった。2007年第1次安倍内閣で久間章生氏の後任として国家安全保障問題担当内閣総理大臣補佐官から防衛大臣へ横滑りしたわけだけれど、しかし彼女は既に百戦錬磨で術にも策にも長けている。内閣改造のゴタゴタを利用して続投を辞退し、女性初防衛大臣のタイトルだけを手にして在任期間をたった2カ月足らずで巧妙に切り上げたように見えた。

ここで私の政治的な立ち位置や防衛問題の是非を一旦棚上げして考えたい。女性が防衛大臣を務めるのは、畑の性質と土質からしてそりゃ難しいに決まっている。でもうまくいけば、内閣としては国内に向けてこれ以上ない軍事・防衛分野のイメージアップ戦略となり、対外的には日本の防衛政策のソフトさやクリーンさ、バランス感覚(いろいろご意見はあると思うがここでは一旦不問で)を印象付けるアピールにもなる。シンプルに「女性政治家の政治人生」だけを考えるなら、女性閣僚として防衛大臣を勤め上げたキャリアがもたらす尊敬と信頼感は、特に海外から見たときに「莫大」だ。そのためには、成功裡、少なくともプラマイゼロに勤め上げなければならない。

昨年上梓した『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)で書き下ろした大ヒット映画『シン・ゴジラ』評でも触れたけれど、劇中の花森防衛大臣が女優の余貴美子さん演じる女性大臣であることが与えたドラマ的効果は、肌に粟立つものだった。花森防衛大臣のモデルは小池百合子氏と思われるが、顔のある民間人を犠牲にしてでも国防を優先させるかどうかの瀬戸際に、躊躇する総理の目の前15センチで大胆さと潔癖なほどの冷酷さを見せるのが、信条と権力を手にした女性大臣だという脚本の説得力といったらなかった。

女は、極限のシチュエーションに置かれた時、男性よりもはるかに容赦のない決断をしうる生き物である。それを思い出させられたのだった。

稲田朋美氏は、その花森防衛大臣になりうるだろうか? 以前ロイターのインタビューに「政治家になった以上、内閣総理大臣を目指さない政治家はいない」と答えた稲田氏は、その要件を満たすような、静かな凄みを湛えた女性政治家になるだろうか?

■“大奥”的寵愛を受けてのし上がる女性人材の落とし穴

彼女は、それまで「強い」「優れた」「出世・活躍する」などという言葉でイメージされてきたような女性たちと違って、男性と「言葉で殴り合う」ということをしない。殴り合わない。なぜって、保守男性と親和性の高いイデオロギー畑で、意見を同じくし、逆らうことなく生きてきたからである。それこそが「パパの忠実な娘」であるということだ。

この「パパの忠実な娘」は、実のところ男性権力者に可愛がられて(見込まれて)のし上がる女性には非常に多い、むしろ王道とさえ言ってもいい女性像だったりする。最近はフランスの極右政党・国民戦線2世党首のマリーヌ・ル・ペンが代表格だが、まさに父親の財産や路線を継承したり、あるいは父親ではないにせよ、年長の男性に見込まれて取り立ててもらうことで出世し、権力を手にしていく。そう、これまで歴史的にも「女の出世」は「誰かの“寵愛”」とセットになっていることが多かったのだが、それをあえて認める人は少なかった。

この手の女性の弱点は、パトロンありきの権力者なので、「自分以外の女と連帯しにくい」点にある。“寵愛”に甘んじてキャリアを形成してしまうがゆえに、ほかの女はみなライバルでしかなく、自分以外の女の台頭や活躍を心の底では望まないのだ。いみじくも、男女共同参画基本法や女性の登用数を問答無用で一定数に引き上げる「クオータ制」の議論に関して、稲田氏は「おいおい気は確かなの? と問いたくなる」「女性の割合を上げるために能力が劣っていても登用するなどというのはクレージー以外の何ものでもない」と発言しており、職場に女性の多い風景をまずとにかく確立して全体を底上げし、女性みんなで勝つ、という発想の持ち主ではないことがわかる。

■日本の政界で活躍する女性リーダーがなかなか増えない理由

「私は優秀で、かつ○○さんに認められている数少ない女だからここにいる権利があるのよ」という本音や自負がじわりと滲む……ような。いや、優秀なのはその通りなのだけれど、「○○さんに好かれている」のが条件だと自分で認めてしまっている時点で、やっぱり「○○さんの寵愛」を奪い合う大奥めいていて、十分に時代錯誤だ。

先ほど触れたようにまさにこういう大奥型の女性こそがこれまで「出世」する女性人材の中では「王道」だったので、女同士で牽制する結果となり、社会で出世・活躍する女性の母数が増えなかったという一面は、確実に存在する。

南スーダンでのPKOをめぐる国会答弁に始まり、森友関連でも失策が続いたとして、「防衛大臣失格」の声も聞こえ始めた稲田朋美氏。北朝鮮による弾道ミサイル発射など、予見不可能なトランピズム下で極東の緊張も高まるいま、政治家として生き残るためには、“寵愛”を根拠に甘さを赦される“大奥”的な政治生活を脱却してほしい。遅かれ早かれ退場するシニア権力者の方を向いた「甘い女(御年58)」でなく、現実を向いた「辛(から)い女」となって男の人気でなく女たちの尊敬を勝ち取れば、今後、『シンゴジラ』で「総理、撃ちますかッ!?」と冷徹に攻撃命令発令を迫った花森防衛大臣へ、あるいは老いた政敵たる石原慎太郎氏を容赦なく公の場に引きずり出して「過去の悪人」にした策士・小池百合子氏の後継へと、見事に生まれ変わる……のかもしれない。

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河崎環(かわさき・たまき)
1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部に入学。奥出直人教授のもとで文化人類学・比較メディア論を、榊原清則教授のもとでイノベーション論を学ぶ。大学の研究者になることを志し、ニューヨーク大学ビジネススクールの合格も手にしていたが、子供を授かり学生結婚後、子育てに従事。家族の海外駐在に帯同して欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどに寄稿・出演多数。教育・子育て、グローバル政治経済、デザインそのほか多岐にわたる分野での記事・コラム執筆を続け、政府広報誌や行政白書にも参加する。子どもは、20歳の長女、11歳の長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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(フリーライター/コラムニスト 河崎 環 AP/アフロ=写真)