スタジオで演奏した音源こそ最高なバンドと、ライブでこそ本領が発揮できるバンド。ロックバンドには2種類あるが、幻想が膨らむのは後者だ。「そんなにライブが凄いのなら、その空間を自分も体験したい」と。

4月21〜22日に日本武道館公演を2日連続で行ったSTONE ROSESが、1stアルバム『STONE ROSES』をリリースしたのは89年。筆者は後追いでこの一枚を体験したのだが、こんなエバーグリーンは他にない。自分のメンタルがノッてようが沈んでようが、聴いたらマストで突き抜ける。まるでドラッグ。キラキラしてるし、多幸感があるし、聴いちゃいけないものを聴いてるような後ろめたさもある。何かが起こりそうなイントロの引力は強力で、しかも、そこから「憧れられたい」「崇拝されたい」の連呼。絶対、これはヤバいだろう。もう、とにかく聴きまくった。

しかしマニアに言わせると、ライブはもっと凄いらしい。フロアで体験したあの感覚が、1stアルバムにはパッケージされてない。ダンスビートで持って行かれるトリップ感覚が、CDでは味わえない。自分がたしかに夢中になったあの作品の出来に、なんと首をひねるファンがいるらしいのだ。

STONE ROSESは1996年に解散。その後はかつてのメンバー同士で批判合戦が行われることもしばしばで再結成は絶望的に思われたが、2012年に遂にリユニオン。同年7月にはフジロックフェスティバルにも出演しており、当然、筆者も馳せ参じた。
とは言え、あの時は伝説が目の前にいるという事実だけでオールオッケーの温度。素直に「最高!」と思えたのだけど、実際のところ本当に最高だったか私にはわからない。だって、盲目だったから。名曲をバンバン演ってくれたのと「イアン、全然音外さないじゃん」と意外に思った記憶は、今も残ってるのだけど。

今回の単独公演では、“ローゼズのライブ”の真価を噛み締めたい。昨年の6月に一度、来日公演が中止されたのも自分を冷静にさせる効果に一役買ったと思うのだ。
今回、私が参戦したのは2日目の22日公演の方である。


武道館にいる1万人が、一斉に「憧れられたい」と口にする


普通にぴあでチケットを購入した筆者だが、いざ会場に着くと自分らの席が前から2列目だと判明して驚く。日頃の行いがいいのだろうか? 自分の幸運に感謝したが、辺りを見回すと空席が目立ったのも事実。「2日目のチケットが売れてない」とは、風の噂で聞いていた。
ただ、ファンのテンションは高い。開演前のBGMに乗って踊っちゃったり、「ウオーッ!」と叫んじゃったり。皆がはやってるし、はやらないでどうするみたいなところがある。BGMが1曲終わる毎に「メンバーが出てくるか!?」と期待したファンが歓声を上げてくる。

そして、遂に館内が暗転。オープニングが何の曲かは、言うまでもない。


印象的なマニのベースが始まり、ジョン・スクワイアの印象的なギターが被さる。レニのドラムが跳ね始めたら、何かが起こりそうな予感しかない。




「I Wanna Be Adored」はアンセムだ。始まりから終わりまで、ファン全員がイアン・ブラウンとともに歌い上げるのだから。


ローゼズほど、会場でファンが共に歌うバンドはない。このバンドのライブはイアンの出来が一番の気がかりなのだが、1曲目の時点では判断がつかない。みんな歌ってるし、自分も歌ってるし、聴こえてくるのはイアンの歌声だけじゃないから。それにしても、武道館にいる約1万人のファンが一斉に「憧れられたい」と叫び続ける、こんなのは異様な光景だ。

イアン・ブラウンの踊りが変


昨年、「ローゼズがニューアルバムをリリース予定」というニュースが報じられたが、信用してない。あてにしてない。出たらうれしいけど、出ない気がする。再結成が発表された時点で、過去の名曲を披露してくれることばかりを期待してた。
現在、彼らのライブのセットリストはまるでグレイテスト・ヒッツだ。エバーグリーンばかりなのだから、それでこそファンは喜んでる。今回は、2曲目が「Elephant Stone」で3曲目は「Sally Cinnamon」で4曲目は「Mersey Paradise」。好きな曲ばっかり! すべての曲でエクスタシーだし、全曲で客も歌ってる。


解散前のローゼズのライブ音源(主にブート)は何度も聴いている。イアンの音程の外し方はひどく、そんなイアンを覚悟してたのだけど、今の彼はそんなに外さない。
いいことなのか悪いことなのか、イアンは丸くなった。随分、大人になった。解散前〜ソロ初期のイアンから存分に発散されていた「絶対、イヤな奴なんだろうな」というオーラが、今の彼にはない。ライブに向き合う姿勢も、真摯なものになったのだろう。イヤモニに気をやりながら、丁寧に歌い上げている。でもダンスは相変わらず意味不明で、ナメてるのか彼のセンスなのかは判断しかねる。MCでしきりに「肩が痛い」と訴えてた今回のイアン。なら、そんなキテレツな踊りをしなくても……。


今回のローゼズのステージはDon’t Stop


9曲目に飛び出した「Waterfall」は、やっぱり素晴らしい! 個人的に大好きで、思い入れがある。キラキラしてるし、ジョンのギターは流暢だったりワウワウ言ったりするし、リズム隊の凄さは今更言うまでもない。そして、曲が終わったかと思いきや、叩き続けるレニ。続くのだ、「Don’t Stop」に。中性的なイアンの声が武道館内に浮遊する。率直に、物凄くいい演奏。
12曲目の「Fools Gold」で俺らを踊らせといて、グルーヴィな新曲「All for One」に続く構成も良かったと思う。こういう流れをライブ中盤に配してくれるから、ダレることが全くない。
あと彼ら、全く休まない。MCは必要最低限。一つの曲が終わったと思いきや、間髪入れずに次の曲に突入する。まるで、ダンスフロアにいるみたいだ。

賛否両論 「She Bangs the Drums」のらしい出来栄えに、みんなが大喜び


ようやく、待ち望んでいた光景に出会えた。アップテンポな「She Bangs the Drums」が始まるや、笑いが止まらなくなってしまう。イアン・ブラウン、なんと音程が一つも合ってないのだ。


あまりのインパクトに、翌日のSNS上ではこの時の動画を上げるファンが多数出現! 音程を外す期待通りのイアンを、みんなに共有したくてたまらない。うれしくて仕方がない。こうでなくちゃいけない。両耳にイヤモニを装着し、今までソツがなかったイアンも耐えきれずにらしさ爆発。

そして、レニがグルーヴィなドラムソロを一瞬見せる。超スイングしてる。そして、そのまま「タン、タン、タタタタ、タン、タン、タタタタ」とお馴染みのビートを叩き始めるレニ。待ち望んでた「I Am The Resurrection」が、遂にスタート! 尊大すぎて不穏ささえ感じる歌詞にぴったりな多幸感あふれるメロディ。いつもこの曲は、ライブで異常に盛り上がる。
もちろん、終わりかけて終わらない。この曲は、後半部分に醍醐味があるのだ。お待ちかねのインストパートが始まった!

これが聴きたかったし、これが観たかった。最高のドラマーに、最高のベーシストに、最高のギタリストがセッションを繰り広げる中、一番偉そうにしているのはなぜかイアン・ブラウン。


歌えない、曲を作れない、演奏できないヴォーカリスト(今は決してそんなことはないが)が、「俺のバンドだ」と言わんばかりに我が物顔でステージを闊歩。彼らが放った大名言「オーディエンスが主役」を体現する、見事なフォーメーションである。だから、何もしないイアンにどうしても目が行く。歌いながら振ってた鈴を客席にバラ撒いて、何してんだこの人は一体。

そして、前日と同じくこの日もアンコールなしで終了。休みなし、計19曲を約90分で演り終えてしまった。

何度も言うけど、物凄く良い演奏だった。“89年のストーン・ローゼズ”に巻き起こっていた「奴らのライブは凄いらしい」という評判とは別種の良さだろうけど、やっぱりローゼズだからこそ成し得ることのできたステージだった。

音を外すイアン・ブラウンが観れて、本当に良かった。上手すぎるローゼズの演奏が体感できて、本当に良かった。
もしかしたらSTONE ROSESの来日公演、今回が最後かもしれないなあという気がしました。自分は。
(寺西ジャジューカ)

【SET LIST】
01. I Wanna Be Adored
02.Elephant Stone
03.Sally Cinnamon
04.Mersey Paradise
05. (Song for My) Sugar Spun Sister
06.Bye Bye Badman
07.Shoot You Down
08.Begging You
09.Waterfall
10.Don't Stop
11.Elizabeth My Dear
12.Fools Gold
13.All for One
14.Love Spreads
15.Made of Stone
16.She Bangs the Drums
17.Breaking Into Heaven
18.This Is the One
19.I Am the Resurrection