ドーハの悲劇ならぬ、等々力の悲劇である――。清水エスパルスをホームに迎えた一戦。清水FWチアゴ・アウベスが放った強烈なシュートがGKチョン・ソンリョンの手をすり抜けてゴールに吸い込まれると、バタバタと水色のユニフォームがピッチに倒れ込んでいく。直後にタイムアップの笛が鳴った「正真正銘のラストプレー」で2-2の同点に追いつかれた川崎フロンターレは、またしても勝利を手にすることができなかった。


終了のホイッスルと同時にピッチに倒れ込む川崎Fの面々 これでリーグ戦は3試合連続引き分け。ACLも含めれば、公式戦4試合連続ドローである。不甲斐ない結末に、記者席の前に座っていた可憐な女子高生さえも、怒りのあまりブーイングを浴びせかけるほどだった。

 J1リーグ第8節を終えて、川崎Fは3勝4分1敗で7位。3年ぶりに参戦したACLでは、なんと4試合を戦ってすべてがドローである。今季の公式戦で敗れたのはJ1第4節のFC東京戦のみながら、12試合で8つの引き分けと、実にもどかしい状況に陥っている。

 昨季までの川崎Fは、その攻撃的なスタイルを踏まえても、むしろ勝ち負けのはっきりしたチームのひとつだった。一昨季はリーグで3番目に少ない6引き分け。昨季も4番目に少ない6引き分け。ところが監督が代わり、スタイルの変化が生じるなかで、負けないけれども勝ち切れない、言い換えればどこか無難なチームに変わってしまった印象は否めない。

 勝ち切れない最大の要因は、やはり得点力の低下に見出せるだろう。FC東京に移籍したFW大久保嘉人の穴はそう簡単に埋まるはずもなく、鳴り物入りで加入したMF家長昭博をはじめ、とりわけ攻撃陣にケガ人が続出していることもその状況に拍車をかける。リーグ戦8試合で11得点は決して少ない数字ではないものの、リーグ最多の68得点を奪った昨季を思えば、やはり物足りないと言わざるを得ない。

 もっとも結果が伴わないチームには、戦術や采配ではどうしようもできない「目に見えない何か」が働くこともある。以前、「なぜ勝てないのでしょうか?」と直球の質問をぶつけられた連敗中の某チームの監督が「そんなのわかるわけない。わかっていたら、とっくにやっているわ!」と激怒する光景を見たことがあるが、勝負事では時に、打つ手打つ手がすべて裏目に出る、いわば「憑かれてしまう」状況に陥ることもある。

 それは「流れ」と言い換えることもできるが、負けグセならぬ、分けグセがついてしまった今の川崎Fからは、最後まで勝てる雰囲気を感じることができなかった。先制されながら、2本の見事なシュートで逆転し、その後も押し込んでいたにもかかわらず、「追いつかれてしまう感」を拭うことはできず、冒頭のシーンへとつながる――。開始早々、清水のFW金子翔太にJ1通算2万ゴールのメモリアル弾を叩き込まれたのも、負のオーラに包まれた今の川崎Fを象徴していたのかもしれない。

 現実を見れば、得点力不足だけにとどまらず、試合終盤の失点の多さという課題も浮かび上がる。9失点中6点が75分以降に喫しており、うち3点はアディショナルタイムに奪われたものだ。終盤の勝負弱さが、そのまま勝ち切れない状況を生み出しているのは間違いない。

 清水戦での被弾も、ある意味で起きるべくして起きたものだった。MF中村憲剛は次のように指摘する。

「逆転してから3点目を獲りに行くつもりだったし、誰も守るつもりはなかったけど、終盤に向こうがフィジカルの強い選手を入れてきた。ロングボールを入れれば何か起きるんじゃないかということをやってきたわけだから、こっちも多少戦い方を変えないといけなかった」

 3点目を奪いに行くことはチーム内の共通意識としてあったというし、現状勝ち切れていないチームが1点を守り抜くことより、セーフティリードを手にしたいと考えるのも当然のこと。なにより「3点目を奪いに行くこと」は攻撃サッカーがウリの川崎Fらしい選択だったと言える。

 それでもサッカーが相対的なスポーツである以上は、相手の出方によってプランを変えざるを得ない状況も生まれてくる。「逃げ切り策を取っておけば」と言うのは、もちろん結果論。どちらの選択が正しいとは言い切れないものの、「あと少し柔軟性が備わっていれば」と思わせる、川崎Fのもったいない戦いぶりだった。

 ただ、追いつかれそうな予感はあったものの、川崎Fが負けるとは微塵も思えなかった。ポゼッションで圧倒し、バイタルエリアで複数が連動するスタイルは、川崎Fらしさ全開の迫力を備えていた。少しプレッシャーを受けるだけでパスミスを連発する清水とは、そのクオリティに圧倒的な差が存在していたからだ。

 事実、中村も「真ん中から攻められたし、相手としたらボールを取れないから、結構しんどかったと思う。勝っていれば、よくできましたという試合だった」と、攻撃面に手ごたえを掴んでいた。

 キャプテンのFW小林悠も「久しぶりにフロンターレのサッカーができた」と言い、ディフェンスリーダーのDF谷口彰悟も「攻撃はここ最近では一番よかった。ミスを恐れずにやり続けられたし、いい形で押し込めたので、そこは続けていきたい」と語るなど、多くの選手からポジティブな言葉が聞こえてきた。

 結末は残酷だったが、中身のあるドロー。その意味でこの日の勝ち点1は、それ以上の価値を備えているかもしれない。勝ち切れない日々は、間もなく終焉を迎えるのではないか。そして、あの女子高生に笑顔が戻る日も、きっと遠くはないだろう。

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