早くも背番号10が板に付いてきた感がある倉田。いまやG大阪の覇権奪還を担う絶対軸だ。写真:川本学

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 初めて会った倉田秋は、高校3年生だった。
 
 ガンバ大阪の強化スタッフに「あいつは相当やりますよ」と紹介され、目をやった先には、真っ黒に日焼けした肌と茶髪のロン毛。「え、ギャル男やん」。思わず、言葉が漏れた。
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 下手なことを言ってオヤジ狩りをされては適わないと恐る恐る近づくと、拍子抜けするほどの好青年だった。いい歳をしてひとを見た目で判断したことを猛省。素直に詫びると倉田は、「パッと見はそんな感じやからしょうがないですよ。ぜんぜん気にしてないんで大丈夫です」と、白すぎる歯を見せた。
 
 そのときの対話を紐解こうと取材ノートを漁ったところ、「倉田 目標 フタ」とだけ記されていた。フタとは、ほかでもない二川孝広(現・東京ヴェルディ)。大阪北部の高槻市出身で、地元のサッカー少年たちの間ではすでにビッグスターだった。
 
 同じく高槻で生まれ育ち、ガンバ下部組織の門を叩いた倉田にとっても、二川は憧れの存在だったのだろう。余談だが、当時の二川にそのユース選手の想いを伝えると、「嘘でしょ」と言いながらニタついていた。
 
 あれから11年、倉田は二度のレンタル移籍を挟んで、着実にガンバでの足場を固め、主軸となり、日本代表にも名を連ねた。そして今春、みずから志願して、二川の背番号10を受け継いだのである。
 
 今回、倉田に会うからメッセージが欲しいと二川に頼んだところ、「こないだテレビでいっぱい話したんでそれを観てください」とあいかわらず素っ気なかったが、少し間を開けて、「高槻の星、頑張れって言うといてください」と返ってきた。
 
 倉田は笑いを堪えて、こう切り出した。
 
「やっぱり高槻のサッカー界で二川と言うたら、ものすごい存在でしたから。僕もそこを目標にガンバユースで頑張ってましたからね。そのひとに『星』やと言われて……やっぱり、嬉しいですよ」
 28歳になった倉田は、伝統のナンバーを背負い、並々ならぬ決意で2017シーズンに臨んだ。
 
「ホンマ、久々に今年はやらなアカンって感じで、プレッシャーが半端やないですよ。しっかり結果を残さないと、自分の番号にならない。下手なプレーをしたら、一生言われるというか、俺の番号、俺の10番にならんと思うから。一度着けたからにはずっと着けたい。そのためには、みんなに認めてもらえるようにならないと」
 
 その天井知らずのモチベーションがハイパフォーマンスを生み、今季のもうひとつの目標だった日本代表復帰にもつながったのだろう。3月23日のワールドカップ最終予選・UAE戦では、71分から途中出場。2015年夏の東アジア選手権以来となる、国際Aマッチ出場を果たした。
 
「(代表招集は)やっと来たかって感じでしたね。東アジア選手権のときは、自信はあったけど、いま思えばまだいろいろと足りてなかった。いまは自分でも落ち着きがあると思うし、どんな状況でも焦らない。このタイミングで呼んでもらって、あらためて監督(ヴァイッド・ハリルホジッチ)はちゃんと見てくれてるんやなって感じました。ホンマによう見てますよ。良いとこも悪いとこも。こないだも『ボール持ちすぎ』とか。あ、バレてるわって(笑)」
 
 ガンバでは、それこそ日替わりでさまざまなロールとポジションをこなしている。
 
 2トップの一角を担ったかと思えば、トップ下、インサイドハーフ、さらにはボランチと目まぐるしい。先のJ1リーグ8節・大宮アルディージャ戦では4-4-2システムの2ボランチで、井手口陽介とコンビを組んだ。若き至宝のアジリティーを前面に押し出すべく、みずからは中盤のバランスを第一に攻撃参加を自重し、アンカー然と振る舞っていたのが印象的だった。チームは6-0の大勝。この日は名黒子ぶりが光った。
 
 決して順風満帆とは言えないキャリアのなかで、培われてきた確かなプレービジョン。フットボールIQがすこぶる高いオールラウンダーだ。
 
「苦労ですか? いやいや僕なんかより苦労してる選手はいっぱいいますよ。まだ恵まれてるほうやないですかね。ポジションは、今季になってよくやってる3ボランチの脇(インサイドハーフ)が一番しっくり来てます。自由に動けるし、ボールに絡めるし。若い頃はアタッカーでの出場が多かったけど、もともとボランチとか捌く役もやれる自信はあったんですよ。いまはどのポジションで出ても、違和感はないかな。自分がすべきことは変わりませんから」
 
 別れ際、この勢いで日本代表でも10番を奪い取ったらどうかと訊くと、「シンジ(香川真司)から?」と言って珍しく大笑いをし、「それくらいの気持ちで頑張りますよ」と答えた。
 
 脂が乗り切ったキング・シュウ。どうやら2017年は、ビッグシーズンとなりそうだ。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)