「こどものそばで働ける新しいワーキングスタイル|株式会社ママスクエア」より

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「保育園落ちた日本死ね!!!」という「はてな匿名ダイアリー」の投稿が国会で取り上げられ、「2016ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にランクインするなど、大きな話題となったことは記憶に新しい。

 安倍晋三政権は「女性が輝く社会づくり」を掲げているが、現実的には保育園の数がまったく足りていない。投稿は、そのことに対する憤り、このままでは自分が仕事を辞めなければならないことへの不満をつづったものだ。

 厚生労働省の調査では、全国の待機児童数は4万7738人(2016年10月時点)。政府は17年度末までに待機児童をゼロにする目標を掲げていたが、安倍首相は国会で「非常に厳しい」と事実上の断念を表明。今年もインターネット上などでは、子どもが保育園に入れた家庭と落ちた家庭、それぞれの喜びと怒りの声が飛び交っている。

「保育園落ちた日本死ね」の投稿者に限らず、幼い子どもを育てながら仕事をする母親にとって、キッズスペースは欠かせない。しかし、今の日本は保育園が受け皿として十分に機能しているとはいえないのが現状だ。

 では、働きたい母親たちは、いったいどうすればいいのか。そんななかで、子どもと母親を切り離すのではなく、「母親が子どものそばで働くワーキングスタイル」を提案して話題となっている企業がママスクエアだ。

●子ども同伴で出勤、母親は子どもを見ながら仕事

 ママスクエアは、同名のキッズスペースつきワーキングスペースを運営している。母親は子どもと一緒に出勤し、我が子の様子をガラス越しに見ながら働くことができ、現在関東・関西を中心に16店舗を運営している。

 出社時にワーキングスペースの隣にあるキッズスペースに子どもを預け、母親はワーキングスペースでアウトバウンド(顧客への電話)業務などを行い、退社時には子どもと一緒に帰ることができる新業態のオフィスである。

「『すべてのお母さんが子どものそばで働ける世の中を実現したい』。その思いから始めたのが、ママスクエアです」

 そう話すのは、同社代表取締役の藤代聡氏だ。ママスクエアでは、子どもの様子を見ながら仕事ができるだけではなく、キッズスペースに専任のスタッフが常駐しているため、母親は安心して仕事に集中することができる。子どもも、母親がそばにいることによって安心感を得られる。

 また、この仕組みなら子どもを送迎する時間が節約でき、より効率的に働くことが可能となる。ママスクエア取締役CFOの鈴木吾朗氏によれば、そのためにオフィスの設置場所も工夫しているという。

「ママスクエアは、主に大型ショッピングモールの中にあります。モール内に職場があれば、仕事終わりに親子で買い物をして帰ることができる。お母さんの時間削減になる上、モールの経済効果にも貢献するので『Win-Win』なのです。

「さらに、モールだけではなく、少子高齢化が問題になっているベッドタウンや、ファミリー層の導入や定期券購入者の増加を狙う京王電鉄などの電鉄各社から協賛を得ています」(鈴木氏)

●ママスクエア誕生のきっかけはパパとしての原体験?

 このキッズスペースつきワーキングスペースという業態は、どのようなきっかけで誕生したのか。実は、自身も3児の父親である藤代氏にも「自分が子育てにかかわれていない」という反省があったのだという。

「当時、僕もなるべく土日は家庭に目を向けるようにしていたのですが、そのなかで、妻が子どものちょっとした行動に対して怒ることに気づきました。子どもの行為自体は、パパ目線ではたいしたことはない。しかし、ママ目線では『これ注意するの、3回目よ』となるんです」(藤代氏)

 これは、子どもと過ごす時間が異なる父親と母親の間に生じがちな「齟齬」のひとつ。家の中の空気がピリピリし、「まずい」と思った藤代氏は、奥さんに「映画でも喫茶店でも行って、リフレッシュしておいで」と話したという。

「それで、2〜3時間ぐらいでしょうか。私が子どもを見て、妻は近所のカフェに1人で行きました。すると、つきものが落ちたかのように妻がすっきりした顔で帰ってきたので、驚いたんです」(同)

 この「2〜3時間」がきっかけとなり、かつてのピリピリした空気が嘘のように家庭内の雰囲気もよくなった。この経験が、藤代氏にママスクエアにつながる「気づき」を与えたのだという。

「親として、頻繁に報道される子どもの虐待のニュースに心を痛めないはずがありません。しかし、虐待をなくすには、子どもを守るだけでは足りない。『お母さんが大事なんだ』ということに気づかされたのです」(同)

 子どもが伸び伸びと成長するためには、母親がストレスを発散しつつイキイキと毎日を過ごす必要がある。この気づきを元に、藤代氏は託児スペースを併設することによって母親が息抜きできる「親子カフェ」を思いついた。そして、長年勤めていた会社を辞め、後のママスクエアにつながる親子カフェの事業を04年に立ち上げたのである。

●「主婦はすぐ休む」は本当か?実は優秀な戦力に

 政府は「女性が輝く社会」の実現を打ち出しているが、実際には出産した女性が仕事を辞めざるを得なくなり、そこでキャリアが閉ざされてしまうケースが多い。藤代氏は、それは「非常にもったいない」と感じているという。

「会社員時代から、女性の優秀さは肌で感じていました。女性は協力し合うことができるし、まわりがよく見えている。それは、親子カフェを立ち上げてから、より強く感じましたね。親子カフェの1号店をスタートしたとき、スタッフに加わってもらった主婦の方たちの勤勉さには驚かされました」(同)

 これまで、企業側は「子どもの体調や育児を理由に休まれると困る」「残業ができないなど融通がきかない」と小さい子どもを持つ母親の雇用を敬遠しがちだった。藤代氏が親子カフェの採用で面接した母親のなかには、「書類も見ずに門前払いをされた」と話す人もいたという。

「ところが、企業が思い込むイメージと違い、主婦たちは急な欠勤などしないし、遅刻もありません。むしろ、学生がテスト期間で空けたシフトの穴を彼女たちが埋めてくれたぐらいです。

 その経験から、親子カフェ2号店のスタッフは学生とフリーターの比率を下げて半数を主婦にし、3号店からはシングルマザーに店長をお願いしました。主婦たちは勤勉さや気配りに加え、何より生活があるので、すごく一生懸命やってくれる。結果、この方法が一番うまくいきました」(同)

 親子カフェのスタッフには、出産前に大手企業に勤めるなど、キャリアのある女性も少なからずいたという。「こんな優秀な人が多いなら、もっと彼女たちのスキルを生かせないか」(同)。そう思って藤代氏が立ち上げたのが、ママスクエアである。

●「保育園落ちた日本死ね」がなくなる社会に

 ダイバーシティをキーワードに、大学卒業後の進路、働き方、恋愛や結婚のあり方など、多様な生き方があるなかで、小さな子どもを持つ母親の選択肢だけが極端に少ない……。そんな違和感を覚える人は多く、藤代氏もその1人だ。

「私は、必ずしも母親が働かなければいけないとは思っていません。しかし、働きたいときに働ける、というのを『選べる』ことが重要。子どもがいても社会とのつながりを持ちたい、と思っているお母さんはたくさんいます。

 それなのに、出産後に働くなら保育園に預けなければならず、育児をするなら仕事を辞めなければならない。やりたいことがあるにもかかわらず、母親たちにそんな選択肢しかないのは、おかしくないですか?」(同)

 前出の鈴木氏も「男女平等が推奨されているのに、いざ子どもを産むと、女性は蚊帳の外に置かれてしまう。少子化対策を考えるなら、母親たちがつながりを持てるような社会にしていかなければなりません」と社会の変化に期待を寄せる。

 今年1月30日、ママスクエアは、新生銀行と新生企業投資(SCI)が設立した国内の子育て関連事業に投資する「子育て支援ファンド」の第1号投資案件に選ばれ、4月3日には大和リースとの資本提携もリリースされた。ママスクエアのような取り組みが増えていけば、「保育園落ちた日本死ね」のような投稿もなくなるのかもしれない。
(文=藤野ゆり/清談社)