五郎丸歩TOP14挑戦を検証する 中編

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 五郎丸歩はラグビーフランスリーグTOP14第10節で初出場を果たし、続く第11節のホームゲームでは先発フル出場。自身は手応えを感じ始めていた。

 第12節アウェーのカストル・オランピック戦も先発出場したが、チームは34-17とダブルスコアで黒星。五郎丸は後半開始直後、47分までプレーした。

緊張した面持ちで試合会場に入る五郎丸歩
 出場3試合目で課題も見え始めたこの試合のあと、地元のヴァール・マタン紙のポール・マッサボ記者は次のような分析をしている。

「ポジショニングが今ひとつだね。周りの選手と連動してどこに構えるかがまだ把握できていない。これはコミュニケーション不足も原因。また、アクション時の判断もワンテンポ遅い。そのタイムラグが相手選手を止め切れないなど、致命傷になることがある。相手チームによって、異なるポジショニングや状況判断が求められるから、根気よく経験を積んでいくしかないだろう」

 また、日本代表時代から五郎丸をよく知るマーク・ダルマゾコーチも課題を挙げた。

「今日の出来は先週よりもよかったが、今後は上半身を鍛える必要がある。相手は日本よりも強靭だから、同じ鍛え方では対応できない」

 第13節からはウェールズ代表から戻ったリー・ハーフペニーがフルバックを務めることになったが、彼が代表選手に与えられるリーグ規定の休暇により欠場となった12月23日、第14節のモンペリエ戦、ふたたび五郎丸にチャンスが訪れた。

 しかしこの試合が、デビュー戦から着実に積み上げてきたものを一瞬で崩すことになってしまう。

 先発で出場した五郎丸は、キックミスから失点の原因を招いたほか、別の場面でも判断ミスが目立ち、本人も「失点につながる大きなミスをしてしまった」と悔いる出来で、58分に交代を告げられた。試合も33-29で敗戦。この試合でのパフォーマンスは、まだ未知の存在だった「五郎丸歩」という選手にマイナスの印象を与えてしまった。

 マイク・フォードHCは「モンペリエ戦の出来を払拭するプレーを練習で見せて、私からの評価を挽回してほしい」と激励はしていたが、ちょうどその頃、シーズン序盤はケガがちだった元オーストラリア代表のドリュー・ミッチェルやジェームズ・オコナーらが戦列に復帰してきたことで、ハーフペニーに次ぐ2番手だった五郎丸のヒエラルキーは徐々に下がっていった。

 1月28日、第17節の対ラ・ロシェル戦では、ハーフペニーが不在、ミッチェルとオコナーが負傷欠場という状況で、フォードHCは五郎丸ではなく、通常はフライハーフ(スタンドオフ)のピエール・ベルナールを15番で起用した。

 その理由をフォードHCは「10番にはマット・ギトーを起用したかったし、同時にベルナールのキック力も捨てがたかったので、彼を15番で使うことにした」と説明したが、フランスユース代表のベルナールは前所属クラブのボルドーではフルバックでプレーした経験があるとはいえ、正ポジションではない。これには現地記者たちも揃って異論を唱えた。

「ハーフペニーよりは下、ミッチェル、オコナーとは同等レベルだが、ゴロウマルのフルバックとしての才覚がベルナールより下だということはありえない」

 この頃、チームのほうも深刻な状況に陥っていた。

 その第17節のラ・ロシェル戦は終了間際にPKを決められ20-23とホームで勝利を逃し、第19節のブリブ戦ではアウェーとはいえ格下に15-5と封じられ、プレーオフで有利なホームアドバンテージを得られる3、4位のポジションが危うくなり、フォードHCには会長から猛烈なプレッシャーがかけられていた。

 サポーターや会長を怒らせていたのは、「敗戦」という試合結果だけでなく、覇気や才気を感じられない選手たちの戦いぶりだったが、このとき実際、チーム内はバラバラの状態だった。

 トゥーロンにはもともと、フランス人選手とアングロ・サクソン系選手の派閥がある。試合に勝ち続け、調子がいい時には互いに仲がよい。

 しかしひとたび不振に陥ると、お互いに責任をなすりつけあう。

 フォードがヘッドコーチに任命されたとき、地元記者が「ゴロウマルは英語ができるのか? でなければメンバー入りは厳しい。フォードは英語ができる選手しか使わないから」と言っていた。よくあるフランス人の皮肉だろうと思っていたら、そうではなかった。

 フォードHCはトゥーロンで、自らがイングランドのラグビー界で培ってきたメソッドを注入しよう奮闘した。一般的にイングランドのラグビーは、フランスよりもより組織だっていて規律にも厳しい。

 欧州チャンピオンズカップの対サラセン戦を取材した英サンデー・タイムズのラグビー担当スティーブ・ジョーンズは嘆いていた。

「フランスリーグの試合を見ていると、チームに2、3人は太りすぎの選手がいる。英国系の選手がフランスリーグに移籍したときは、すでにいる先輩たちが助言するそうだ。『クラブ外でもフィジカルトレーニングしないとダメだ。クラブの練習だけではユルすぎるから体がダメになるぞ』と」

 フォードHCの英国仕込みのトレーニング法やプレースタイルに、フランス人選手たちはまったく馴染めなかった。おまけにフランス語をまったく話せず、通訳を介してのコーチングに苛立ちも感じていた。

 それを感知したダルマゾコーチはフォードHCに進言したが、イギリス人監督は己の信念を曲げることはなかったという。

 そのことについてダルマゾコーチに尋ねると、渋い表情で答えてくれた。

「試合の運び方、練習の仕方などすべてにおいて違いはあるし、状況における考え方も(イングランドとフランスでは)違う。彼にはこれまで培った豊富な経験があるが、違う国に来たら、自分のやり方を浸透させようとするだけでなく、その国のチームややり方に自分の方からも合わせていくことは必要だ」

 逆にオーストラリア人選手らはフォードHCのやり方を歓迎した。ドリュー・ミッチェルは母国のメディアRugby.comのインタビューで彼のやり方を支持している。

「最初ここに来た時はずいぶん強度が違うんでびっくりしたが、マイク・フォードがヘッドコーチになって、やっと『そうそうこれこれ、昔から馴染んでいたのはこのやり方だよ』ってなったよ」

 おのずとフォードHCは、自分のラグビー哲学を共有するアングロ・サクソン系、つまりはミッチェルやオコナー、マット・ギタウらを多用するようになった。短期間に結果を出さねばならない、いわば喉元にナイフを突きつけられた状況で、まだよく能力を見極めていない異国からの挑戦者にチャンスを与える余裕は彼にはなかったのだ。

 そんな中、ハーフペニーがシックスネーションズで不在だった3月19日21節のグルノーブル戦で、3ヵ月ぶりに五郎丸に先発出場の機会が訪れた。フォードHCは試合前の会見で、期待を口にした。

「練習の質は上がってきている。彼にとって必要な次のステップは、与えられたチャンスを両手広げてしっかりつかむこと。ここでいいプレーをすれば、また次の週にもメンバーに選ばれるチャンスにつながる」

 久々の実戦となったこの試合で、五郎丸はフィジカルコンディションや試合のリズム感への適応といった点でほとんどブランクを感じさせることなく、序盤からスムーズにゲームに入り、アグレッシブに展開に絡んだ。

 パスを受けると果敢に突破を試み、倒されながらボールを死守した。五郎丸の突進からファウルを誘ってPKのチャンスをゲットした場面もあり、際立ったファインプレーこそなかったが、70分に交代するまでミスなくそつなく自分のプレーをまっとうした。

 しかし試合は、前半のリードを守り切れずに終了間際に追いつかれて、23-23のドローで終了となった。

「3ヵ月ぶりだったですけど、あまりブランクを感じずに試合はできたと思います。ただチームが勝つことがすべてなのでそこは残念です。前半(チャンスがあった)のときに離していかなければいけなかった。あそこで離しておけなかったので、向こうがズルズルきてしまったのだと思う」

 自身のプレーには満足しつつも勝利につながらず、結果を悔やんだ五郎丸。試合勘やフィジカルをキープしようと日々居残り練習にも励んでいた。

「出場機会が少ないとその分体力も落ちますし、他の選手よりもハードにやるということだけ」

 しかし、この試合で状況を好転させるほどのインパクトを与えられず、チーム事情はより複雑になっていた。

(つづく)

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