<飯牟礼里花さんの「辞める。」ヒストリー>

22歳 大学卒業後、(株)プラップ ジャパン」に入社。
26歳 「シルク・ドゥ・ソレイユ(同)」に入社。
28歳 「ランボルギーニ・ジャパン」に入社。
33歳 「バイアコム・ネットワークス・ジャパン(株)」に入社。

「ネガティブな気持ちで転職したことは一度もないんです」。

ユース向け音楽&エンターテイメントブランド「MTV」を運営しているバイアコム・ネットワークス・ジャパンでマーケティング部マネージャーを務める飯牟礼里花(いいむれ・りか)さん(34)は言います。常にキャリアアップを目指し、外資系企業を中心にPR・マーケティングの道を歩いてきた飯牟礼さんに話を聞きました。

PR・マーケティングのプロとして4社を渡り歩く

飯牟礼さんは慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、PR会社のプラップ ジャパンに入社します。そもそもPR業界に興味を持ったのは、母親が外資系企業の広報、父親が外資系企業のマーケティングをしていた影響だそう。

「子どものころに見たコカ・コーラCMが印象的で、その時をきっかけにずっと広告を作りたいと思っていました。大学でもマーケティングや広告論などを学んでいたので広告業界に焦点を絞っていきました」という飯牟礼さん。就職活動中に会社説明会で、大好きなシャンプーのPRをプラップ ジャパンが手がけていることを知り、入社を決めたといいます。

主に外資系BtoCビジネスクライアントを担当し、多くのPRチャンスに恵まれながら約4年働いた後、当時のクライアントだった「シルク・ドゥ・ソレイユ」というエンターテイメント企業に声をかけられ、1回目の転職をします。

「もともと代理店でいろいろなお客様を担当するところから始めたんですが、インハウスの(企業内の)PRにすごく興味が出てきて、一つのことに集中するのもよいなと思い、転職しました」

そんな最中、東日本大震災が起こります。1年ほど勤めていた東京ディズニーリゾートで常設公演をしていたシルク・ドゥ・ソレイユが日本から撤退することになってしまい、飯牟礼さんは2回目の転職を余儀なくされます。そして、次の舞台に選んだのはイタリアのスーパースポーツカー・メーカー「ランボルギーニ」でした。

「マーケティングという新しいフィールドにチャレンジして、PRをツールとして、もっと大きな視野で考えていきたいという思いがありました。さらに、日本だけでなくて、オーストラリアやニュージーランドなど同時に4か国のマーケティングPRを担当管轄する仕事だったので、ランボルギーニを選びました」

子どもの頃にアメリカのニューヨーク州の田舎町に2年間住んでいた経験があり、英語を使って仕事をしたいという夢があった飯牟礼さん。2社目と3社目はほとんど英語で仕事をしていたそうで「そういう意味でも夢が叶いました。2つの言語を使えることで世界が広がることもたくさんありました」。

そして、33歳の時、4回目となる転職を経験します。「今までニッチなブランドが多かったので、規模としてもう少し大きく、一般的に知られているブランドに挑戦したいと思いはじめまして。それで、世界最大級のエンターテインメントチャンネル「MTV」を運営するバイアコムを選びました。ランボルギーニでは複数の国を見ていましたが、その気になれば一般的に購入(視聴)を決定できるサービスであり、リーチ率としてははるかに広いブランドであることから、そこに新しい挑戦を見出しました」

転職の捉え方で感じた文化の違い

これまで4社を渡り歩いてきた飯牟礼さん。転職をした背景にはある信念がありました。

「次のステップを考えた時に必ずやりたいこと、やりたい分野があって、それにフィットする企業を選んできたというのは変わらないです」。

転職を後押しした理由の一つに、飯牟礼さんは「外資系企業の風通しのよさ」を挙げます。

「日本の企業だと辞めることをネガティブに捉えることも多いと思いますが、ほとんど外国人しかいなかったようなシルク・ドゥ・ソレイユやランボルギーニなどでは転職という考え方は当たり前でした。だって、キャリアアップのためでしょって」

「外資系だと、上司にレファレンス(推薦状)をもらうのも当たり前。日本だと、上司にいつ辞めようって言おう、引きとめられるんじゃないかって感じることも多いと思うんですけど(笑)。まあ企業によると思いますが、圧倒的な文化の違いを感じます」

1社目を辞める時はさすがの飯牟礼さんも「ものすごく悩んだ」と言いますが、今は違う見方をしています。
 
「辞めたらどうしようっていうのを一切考えずに、自分のキャリアだけにフォーカスして、何をしたらハッピーなのか、どういう会社で働いたらハッピーなのかを考えて、次のネクストステップを考えるといいと思います」

ロールモデルは育ててくれた上司たち

飯牟礼さんは、現在、バイアコムでマーケティング部の部門長を務めています。誰かがやってきたことをただただやっていても、メディアには取り扱ってもらえないため、常に考えていることは「いかに新しく、いかに面白くするか」ということ。

現在MTVでは有料チャンネル「MTV」のほかに、昨年AbemaTVでスタートした「MTV HITS」と二つの異なるチャンネルを展開しており、各種コンテンツをどう広め、発信していくか。また「MTV VMAJ」など独自のイベント認知をいかに高めていけるかなどの戦略を立てながら、飯牟礼さんを合わせて男女同数計6人で一緒に考えています。

バリバリとキャリアを積んでいる彼女にロールモデルはいたのでしょうか?

「今の上司も含め、育ててくれた過去の上司がすべてロールモデルになってます。今でも昔の上司と連絡を取り合っていますね。彼らが教えてくれたのは、どういうふうにビジネスを拡大していくか、その過程でPRやプロモーションがどういうふうにビジネスの利益に貢献できるか、サポートできるかといった考え方でした。ビジネスの全体像をとらえてミクロに落とす事の大事さです」

そして「私を教えてきてくれた今までの上司たちのように強くて、人をリードしていけるような人材になりたいなと思います」と力を込めました。

転職したからこそ感じた、仕事の流儀

自分の能力が十分に発揮できるかは仕事をする上で大事なことですが、もう一つ、仕事をする上で重要な要素となってくるのが人間関係や職場の環境。新たな転職先で自分の居場所を作るために飯牟礼さんが心がけていることは?

「誰に対しても、最大限の敬意を持って、コミュニケーションをとるよう心がけています。分かっていることを前提とせず、どうやったらわかりやすく伝えるかなというのを気にして、活動するようにしています」と飯牟礼さん。

「アドラー心理学を解説した本『嫌われる勇気』に、人との関係が世界を複雑にしているとありますが、逆に言えば、人との関係が良好であれば、すべてはうまくいきます。相手に尊敬の念を持って、わかりやすく伝えて意思疎通を図るのが大切ではないでしょうか」

キャリアアップのために転職をしてきた経験からこそ、感じるのは「人間関係というのはどこで何が繋がるかは分からないこと。そこから生まれるビジネスチャンスも多いですし、ネットワークが財産になります」。

ネガティブな形で辞めないで

改めて、飯牟礼さんが考える「辞める。」とはーー。

「絶対ネガティブな形で辞めたらいけないと思います。次にステップアップして辞めないといけないと思うんですね。何か目的を持つか、何かを達成してから辞めたほうがいいと思います。もちろん、どうしようもない場合もあると思いますが、できれば人間関係等を辞める理由にしてはいけないと思っています」

「人間関係で辞めるっていうのはポジティブな辞め方ではないと思うし、それを理由に転職を繰り返すと、後で後悔することもあると思います。自分で設定した目標を達成するまではポジティブであってほしいですね」

「自分のバックグラウンドを振り返った時にも、今までやったことがないことをやりたいという思いがあって、転職をしてきました。必ずクリアなゴールがありました。ゴールを見つけるにあたって、PRの先輩である母や今まで自分を育ててくれた上司だった人に相談もしました。アドバイスを聞いて、考えるきっかけにしています。日々の業務の中で次のゴールを見出し続けているんです。私の場合、転職ごとにその時の目的は達成してきました」

「もし『辞める』ことで悩んでいる後輩がいたら聞きたいのは、『もともと好きなことはなんですか?』『自身が担当する仕事の中でも好きなこと、楽しいこと、反対に嫌いなことはなんですか?』『5年後は無理でも、1年後は何をしていたいですか?』ってこと。そんなことを聞きながら、キャリアアップのための道を切り開くお手伝いをしてあげたいです」

(取材・文:五月女菜穂、写真:石川真魚)