朝鮮半島での緊張の高まりに伴い、北朝鮮と中国の国境地域では中国人民解放軍の動きを巡り様々な噂が飛び交い、不安と動揺が広がっている。

動揺の元になっているのは、中国のネットで飛び交っている次のような怪情報だ。

「中朝間でまもなく戦争が起きる可能性あり、人民解放軍北部戦区医療部隊が、国境を超えてやって来た難民の救護にあたるため中朝国境に集結している」

しかし、これは中朝国境地帯の現状について少しでも情報を持っている向きには、一見してデマであるとわかるものだ。中国政府は、北朝鮮当局に協力し、本国でひどい虐待に遭うのを承知で脱北者を強制送還している。つまりは北朝鮮の人権侵害に間接的に加担しているわけで、それがここへ来て、「難民救護」を最優先するとはちょっと考えられないからだ。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

中国国防省新聞局もこの噂について「全くのデマだ」と否定し、外務省報道官も「また韓国メディアの誤報だろう」と否定するなど、噂の拡散を抑えようとしている。

ただその一方、この噂に信ぴょう性を与えるような話も出ている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、中国の吉林省延辺朝鮮族自治州に住む情報筋の話として、人民解放軍が4月12日以降、夜間の移動を始めたと指摘。この情報筋は13日の夜、国境を流れる豆満江沿いの和龍市崇善鎮に住む友人から電話で「戦車と装甲車が夜通し走っていて、うるさくて眠れない」と伝えられたという。

また、この情報筋は、龍井市に駐屯する人民解放軍第16集団軍68師団の歩兵部隊が、和龍市崇善鎮、龍井市開山屯鎮、図們市、琿春市など中朝国境地帯に展開し、和龍市松下坪には戦車部隊が入ってきたと伝えた。

さらに、延辺朝鮮族自治州の教育部門に勤める情報筋は、13日に延吉空港で10機以上の戦闘機が離着陸を繰り返し、近隣の学校では騒音で授業が中断したと伝えている。ちなみに、この空港は軍民共用で、民間機だけでも1日に15便以上の離着陸がある。

こうした人民解放軍の動きに、「北朝鮮における重大な動きをキャッチしたのではないか」との憶測が人々の間で広がり、同じタイミングで中国メディアが北朝鮮批判の記事を配信したことも重なり、憶測が膨らんでいるという。情報筋は、「中国政府は兵力の移動を否認しているが、延辺の360万州民の目と耳を欺くことはできない」 とも語っている。

国境の北朝鮮側ではどうか。「金正恩体制など早く終わってしまえ」と考えている庶民も、やはりこのような状況になると不安を感じるようだ。

RFAが咸鏡北道(ハムギョンブクト)の貿易関係者の話として伝えたところによると、国境地域の住民の間では中国に対する恐怖心と不安感が広がっているという。高級幹部以外の人は情勢について詳しく知らないため、この関係者の下には友人から「情勢について教えて欲しい」との連絡が相次いでいる。

この関係者いわく、国境越しに人民解放軍の動きが頻繁に見られるため、住民の間で「中国が北朝鮮に対する軍事行動に乗り出すのではないか」といったうわさが飛び交っている。

また、両江道(リャンガンド)の別の情報筋によれば、地方では党や行政の幹部たちですら「金正恩党委員長の分別のない挑発に怒った中国が、北朝鮮に対する軍事行動を準備している」と信じており、地域社会全体が無力感ともどかしさに包まれているとのことだ。

果たして、中国は本当に、北朝鮮との国境地帯で動きを活発化させているのか。実際のところ、昨年8月末に北朝鮮北部で発生した大水害の復旧作業や、多発する脱北兵士による凶悪事件の防止のために何らかの行動を取って来た可能性はある。しかしこの4月以降、米朝関係の緊張に対応して軍を移動させているかどうかについては、ハッキリとしたことはわからない。