日々、仕事に恋愛に婚活に…と無駄なく賢くがんばる堅実女子のみなさん。なかなか成果が出ないときには、焦りと疲れで追い詰められたような気持ちになりますよね。 

そんなときにこそ読みたい、今どき珍しいくらい、甘酸っぱくてもどかしい純愛マンガが今、話題なんです。有名漫画レビューサイトでは「今季、最高作品」と評されているその作品は、週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の『スローモーションをもう一度』。

80年代が随所に盛り込まれている。

キュンキュンくるシーンに萌えます。

主人公は、クラスの人気者だけど、実は今どきのカルチャーになじめず、こっそり家で'80年代の音楽や雑誌を楽しむのが好きな高校生・大滝くん。クラスのみんなとはうまくつきあいつつも、'80年代が好きと知られたらバカにされそうで、本当の自分は出さずに毎日をやりすごしています。

そんな大滝くんがふとしたきっかけで、クラスの地味な女の子・薬師丸さんも'80年代カルチャーオタクであることを発見。誰も言えなかった趣味を共有できる仲間ができた喜びから始まり、次第に恋愛感情が芽生え、ふたりの仲は急速に近づく……のが今どきのマンガでは多い展開ですが、この作品では近づかない! なかなか近づかない! まさにその恋愛は「スローモーション」。このじれったさが、マンガ好きの心をわしづかみ。

さらに話ごとのタイトルは「セーラー服を脱がさないで」「飾りじゃないのよ涙は」など、’80年代の曲名がつけられ、'80年代を意識した作画、漫画内にちりばめられた'80年代を象徴する小物たち……。その時代に青春を送った40代はもちろんのこと、'80年代ブームで興味を持った'80年代生まれの人たちにまで刺さりまくりの作品です。

驚いたことに、このマンガの作者、加納梨衣さんも'80年代生まれの女性。働き女子のみなさんとまさに同世代の加納さんはいったいどんな人? そしてどういう経緯でこの話題作を描くことになったのか、お話を伺ってきました!

――性別、年齢層問わず、いろいろな角度から読者を掴んでいる『スローモーションをもう一度』ですが、どういうきっかけでこの'80年代好きの高校生の恋愛マンガを描くことになったんですか?

加納梨衣さん(以下、加納) もともと私が個人的に'80年代が好きで、Twitterで情報を集めていたのを、担当編集の今野さんに見つかって(笑)、現代の若者が'80年代をテーマに恋愛をするマンガを描いてみませんか、とお話をいただきました。

薬師丸ちゃんを彷彿とさせる加納梨衣先生。かわいいゾ!

――Twitterではどんな情報を集めていたんですか?

加納 '80年代に流行っていた音楽や車、バイク、あとはイラストなどの情報を収集していました。

――'80年代生まれの加納さんが、'80年代カルチャーに興味を持ったのはなぜでしょう。

加納 年上の兄弟や従兄弟がたくさんいて末っ子だったので、その人たちが持っていたものを見て幼少期を過ごしました。その年上の世代の人たちが青春を送ったカルチャーへ憧れがあって、大人になっても収集する癖があったんです。 

――どういうところに'80年代カルチャーの魅力を感じていますか?

加納 ポップで明るい綺麗な面と、アングラなものが同居しているところでしょうか。あと、ファッションやアニメ、何を見ても“濃い”ですよね。やりたい放題やってる感じが好きなんです。 

――『スローモーションをもう一度』の作画自体も、'80年代を意識されていますよね。 

加納 そうなんです。スクリーントーンの使い方とか、文字とか。漫画家の江口寿史さんや上條淳士さん、まつもと泉さんがやっていた手法や、山下達郎さんのレコードジャケットをよく手掛けていた、イラストレーターの鈴木英人さんの描き方も取り入れています。

 ――登場人物の体型もちょっと懐かしい感じですよね。今のマンガだとすらっとしていたり、痩せボインだったり、人形っぽいことが多いですが、リアルというか。

加納 女の子は特に、自分がもともと河合奈保子さんの体型が好きで、ぽっちゃりさせています。なんならもうちょっと太らせたいと思っていたのですが、ちょっと抑えめでリアルな中森明菜さんの体型に近いかもしれませんね。ちょっとプクッとした感じ。

――タイトルにもある通り、スローモーションな展開でお話が進んでいきますが、そこにも'80年代っぽさを意識していますか?

加納 そうですね。下駄箱にラブレターとか、ビンタとか、マンガ内でそういった描写はしていないけれど恋のABCとか、昔のラブコメには恋のテンプレっぽいものがありましたよね。小さいころ読んだマンガによく出てきたお決まりの展開が面白かったので、今の時代に使うと新鮮かなと思いました。

――この作品では、主人公の大滝くんはいわゆるスクールカーストの頂点にいながら、本当の自分を隠している息苦しさを抱えていて、ヒロインの薬師丸さんは影キャラ。クラス内の格差恋愛という側面もありますよね。実は'80年代好きの男女がこっそり秘密を共有しあうだけなら、スクールカーストの頂点でなくてもよかったような気もするのですが、その理由は何かあるんでしょうか。

加納 実は、最初はゴリゴリのラブストーリーというより、本当の自分を出せていない、今どきのノリについていけない息苦しさみたいなものに焦点をあてようとしていました。今どきの高校生は、いつでもLINEで連絡を取り合っていて、常に友達と繋がっているイメージがあって、私自身、そういうのはちょっと好きじゃないんですよね。今はいつでもコミュニケーションが取れる状態なので、昔の携帯電話がない時代のように、すれ違って数時間待つとか、家に電話したらお父さんが出たから電話切っちゃうとか、不自由さを逆手に取ったエピソードは面白いんじゃないかなと思いました。それには、片方は携帯電話を持っていないけれど、片方は現代っ子じゃないと、今どきの話として成立しないかなと。大滝くんは、クラスの人気者で、友達からLINEがひっきりなしに来るような生活をしていて、だからこそ'80年代っていう趣味がバレたら恥ずかしいと思っている。そういう感じで、ふたりのポジションを設定しましたね。そこから、思ったよりも感想をたくさんいただいて、恥ずかしい感じのピュアラブストーリーになっていきました。

――'80年代ちっくな恋愛の資料はどういうものを参考にされているんですか?

加納 角川映画が好きなので、その影響が大きいですね。私自身が、20歳くらいまで男の子と話せないタイプだったので、下の世代はもちろん、同世代の高校生のリアルな恋愛がどうだったのかわかっていないんです(笑)。恋愛はマンガの知識でしかわからない、しかもそれが古いラブコメだったりもするので、脳内にある恋愛のイメージがそもそも古いっていう。 

――お好きなラブコメ作品はありますか?

加納 『めぞん一刻』ですね。編集部の謝恩会で高橋留美子さんにお会いしたときに、マンガを読んでくださっていたみたいで、'80年代のスピリッツにはラブコメが多い時代があったということと「そのころを思い出して懐かしくなります」というお言葉をいただいたので、古き善きラブコメという系譜としてはありなのかもしれないと思いました。今のラブコメはお色気とハーレム展開が多いというイメージだったのですが、読者の方の反応を見ると、意外とみんなこういう1対1だったり、じれったい展開も好きなんだなとホッとしました。 

――最近は時代的にラブコメがまた流行りだしているように感じますが、いかがでしょうか。

担当編集・今野さん(以下、今野) 確かにラブコメの中でも『からかい上手の高木さん』や『富士山さんは思春期』、『天野めぐみはスキだらけ!』など、基本的には男女ふたりだけの世界でイチャイチャする作品が目立っています。『スローモーションをもう一度』も、最初はその路線で行こうか、なんて話していましたね。

担当編集・今野さん登場。

――幼馴染のようなライバルが登場しましたが、女の子側のライバルも登場するんでしょうか。 

加納 そうですね。読者の方の反応などをいただいて、ふたりの世界でイチャイチャだけじゃなくてきちんとストーリーを進めることになり、ふたり以外のキャラクターも入れないといけないね、という話になりました。

 ――ではこの後は薬師丸さんが、ちょっとヤキモキする展開になるんでしょうか。ふたりは結局まだつきあわず、友達からスローモーションで距離を縮めていきますが、結局つきあいますかね……?

今野 つきあったら、最終回でしょうね。キスとかもしないんじゃないかな。

加納 まだ相談中の部分が多すぎて、明確にこうなるっていう決定内容をお伝えできないのですが、昔のラブコメにありがちなドッキリアクシデントでキスしちゃった、というよりは、ちゃんとチューさせたいような気もしています。 

――ふたりのチューはあるのかないのかも、今後の見どころのひとつですね。

加納 そうですね。私に恋愛主軸のマンガは描けないと思っていたのに、'80年代の恋愛テンプレを織り込みながらなんとか描けるというのも感動ですし、'80年代を意識した絵を描くのもすごく楽しくて、こんなに好きなことやらせてもらえるなんて、最高です。みなさんにもそれが伝わるといいなと思っています。

'80年代の資料のレコードたち。

自ら好きな'80年代カルチャーを題材にしたマンガを描くのが、楽しくてたまらないといった印象の加納さん。加納さん自身がそうでありたいと思っている「ゆっくり距離を縮める恋愛」の甘酸っぱさ、もどかしらは、日々、先を急いでしまいがちなみなさんの心を癒してくれるはず。今日は習い事や婚活をひと休みして、『スローモーションをもう一度』でキリキリ巻かれたこころの時間の針を、リセットしてみませんか?

待望の第3巻は4月28日発売!

『スローモーションをもう一度』1〜3巻(連載中)各¥552 加納梨衣著/小学館刊