「Thinkstock」より

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 厚生労働省と文部科学省の発表によれば、2017年3月卒業予定の大学生の就職内定率は、2月1日時点で前年比2.8%増の90.6%となり、今年度も89万人の若者たちが新卒社会人として社会の仲間入りを果たした。

 だが、もちろん大学を卒業すれば誰でも企業へと自動的に就職できるわけではなく、各企業が用意する厳しい選考活動をクリアしなくてはならない。現在の大学4年生も、3月より本格的に就職活動がスタートしたが、彼らはどういった心持ちでこの戦いに挑めばよいのだろうか。

 学生にはさまざまな専門分野があり、企業にも多種多様な業種があるので、画一的なことをすればいいわけではなく、各自の個性を伝えることはもちろん大切。しかし、会社で働く場合に共通して求められている要素もあるはずだろう。そこで、教授としてこれまで多数の就活生を見守ってきた立教大学経営学部の有馬賢治氏に、マーケティングの視点からみる就活のヒントを伺った。

●分析するのは志望企業だけではなく、その顧客も

「マーケティングの観点から就活を眺めますと、選考活動は自分という“商品”を企業に売り込む活動であり、企業に“採用”というかたちで自分を購入してもらうことが一種のゴールということになります。そして、その企業のために働いたことで、役に立った対価として給料が頂けるということになるわけです」(有馬氏)

 つまり就職活動とは、社会に対する「最初の自分自身マーケティング」だと有馬氏。そして、それをアピールするひとつの場面が面接だ。だが、いくら企業から気に入ってもらおうと装っても、面接の時だけ取り繕ったような素養は見破られてしまうようだ。

「人事担当者は何千人もの就活生と会っています。ですから、付け焼刃の準備で応答しても底の浅さは相手に見透かされていると覚悟したほうがいいでしょう。ある会社の面接では、面接会場に紙くずをわざと落としておいて、それを拾えるかどうかを見ていたこともあるそうです。このように、細やかな気配りや社会人基礎力を一朝一夕で身につけるのは難しく、そこが学校での定期試験とは違うところです」(同)

 そのための準備は必要不可欠であり、企業分析も非常に重要だ。だが、これを勘違いしてしまっている学生も少なくないと有馬氏。

「多くの就活生を見ていると、受ける会社のことしか調べていない傾向が強いように感じます。ですが、仮に採用された場合、そこで求められるのは、その会社自体の情報ではありません。その会社の取引先がどのような顧客なのか、その顧客を相手にするにはどのような人材が好まれるのか、といった部分です。例えば、取引先から厳しい取引条件を突きつけられることが日常茶飯事の会社では、就活生にプライベートな答えにくい質問をわざとぶつけて、そのリアクションを観察することもあるようです。企業分析では、その会社を調べただけで自己満足せずに、自分がその会社で働いているイメージをしっかり持つことが大切です。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉がありますが、就活においては『敵の敵を知り己を知る』必要がありますね」(同)

●就職活動は一種の広告活動

「敵の敵」とは、志望企業のクライアントのこと。マーケティングでいうところのターゲット層となるわけだ。そのターゲット層に対して自分自身がいかに有用な人材であるかを、エントリーシートの限られたスペースや面接の限られた時間内にアピールしなくてはならない。これも非常にマーケティング的だ。

「自分の良さを限られたなかで知ってもらおうとする活動は、広告やCMに近いといえるでしょう。能力があっても自己アピールができなくては、それは“役に立つけど、その良さが消費者に伝わらない商品”と同じです。つまり、就職活動とは広告活動だと言い換えることもできるわけです。ところで、たとえ就活を進めていく上でなかなか結果が出ないとしても、過剰に心配する必要はありません。就活はある意味『お見合い』的な要素もあります。能力評価も勿論ありますが、人と人との付き合いですから相性も関係してきます。ですから、自分の適性をあまり狭く絞り込み過ぎずに、広い視野で相性の合う業界を探してチャレンジして欲しいと思います」(同)

 個性が尊重される昨今において、自分を「商品」と考えることに抵抗がある人も少なくないはず。だが、会社で働こうとする以上は、企業目線で考えることが就活成功の第一歩といえるのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)