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 謎の天才美少年作家を偽って小説を発表したとして大スキャンダルを巻き起こしたローラ・アルバートが、スキャンダルの裏側を描いたドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』の公開に合わせて来日し、当時の心境を語った。(取材・文:森田真帆)

 J.T.リロイは母親に虐待を受けて育ち、10代で男娼となった自分自身の人生を書いた小説「サラ、神に背いた少年」の著者として、ある日アメリカ文学界に彗星の如く現れた作家だった。当時マスコミの前に登場した金髪で体も小さく、女の子のような声で話す自称“18歳の少年”。リアルな虐待の描写が含まれた本の内容も相まって、セレブ達はこぞって彼と友達になりたがり、瞬く間にカリスマ的存在となった。だが、2006年に、J.T.リロイは架空の人物であり、すべての作品を書いていたのはローラ・アルバートという女性だったことが明るみになる。そしてJ.T.リロイと名乗ってマスコミの前に現われていた少年は、彼女の夫の妹が金髪のウイッグをかぶり、彼のふりをしていただけだった。

 これまでマスコミによって報道されたのはこの辺りまでだったが、映画ではなぜ彼女がJ.T.リロイという少年を偽ることになったかが明かされている。改めてローラにJ.T.リロイという人物を生み出した経過を聞くと、彼女はリロイを「ターミネーター」と呼びながら説明を始めた。「私は少女の頃からとても太っていて、周囲からはブスって言われていじめられてばかりいたの。そして、幼い頃から虐待され、自分自身のことが大嫌いだった。何度も自殺をしようと思ったわ。だから、自分自身ではないほかの誰かになって作品を書きたかった。そうして私の中に誕生したのがJ(ジェレマイア)・T(ターミネーター)・リロイだった。ターミネーターは私の大切な分身なの」

 J.T.リロイは言うなれば彼女の影武者のような存在だ。だがその中性的な姿がマスコミの注目を浴びることとなり、多くのセレブが彼に夢中になった。ローラはそのような事態を最初から予測していたのだろうか? 「もちろん全く予測していなかったわ。醜い中年のユダヤ女が書いたって誰も読んでくれなかっただろうけど、リロイのおかげで作品は人の目に触れることとなった。私はセレブと友達になりたくてこの作品を書いたわけではないから。自分の心の傷をアートとして吐き出したかっただけなの」と彼女は話した。

 J.T.リロイの正体が明かされた時の混乱は映画の中でも描かれているが、本人はどのように受け止めていたのだろう。「当時は、本当に心ない罵声を浴びせられ、マスコミは誰も私の声に耳を傾けてくれなかった。つらいい日々だったわ」と振り返る。劇中では、彼女の嘘が明らかになった時のセレブ達の反応が紹介されているが、中でも傑作なのが「まあ会見で泣きなよ。アメリカ人って贖罪(しょくざい)が好きだからさ」と声をかけるロックバンド「ニルヴァーナ」のボーカリストだった故カート・コバーンの妻で、ロックシンガーのコートニー・ラヴの言葉だ。ローラも「彼女は最高にクールよね。私の作品そのものを愛してくれている人には何の問題もなかった。当時多くの人が離れていったけれど、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンを始め、それでもそばにいてくれた人達にはとても感謝しているの」と笑顔を浮かべた。

 今、彼女はターミネーターというアバターではなく、ローラ・アルバートという女性として生きている。不幸な形ではあったが、ターミネーターという仮面を脱いだ彼女には、自分自身でいることへの喜びや自信にあふれていた。「たくさんつらいこともあったけれど、今はとても幸せです」と語る彼女は、日本の観客に向けて「自分自身が嫌いで、多くの人たちが仮面をつけて日々を必死に生きていると思います。でも自分自身でいることを大切に生きてください」とメッセージを送った。

映画『作家、本当のJ.T.リロイ』は全国公開中