五郎丸歩TOP14挑戦を検証する 前編

 4月9日、マルセイユのヴェロドローム・スタジアムで行なわれたラグビーフランスリーグTOP14第23節対トゥールーズ戦のあと、RCトゥーロンのムラッド・ブジェラル会長は、「来季はゴロウマルをキープしない」と明かした。

 その翌々日、ラジオ・モンテカルロのマイクにも同じことを話し、「双方ともに契約を更新する意思はない」とつけ加えた。

 五郎丸歩の契約は1年プラス、どちらか片方が「行使しない」といえば無効となる1年延長のオプション付きというものだった。

 五郎丸自身は契約について「まだその時期ではない」と何も語っていないが、会長の言葉によれば双方ともに延長を望んでいない。よって五郎丸とトゥーロンとの契約は、今季終了をもって満了となる。

 日本でもこの件はベタ記事扱いでスポーツ紙ほかで報じられたが、その背景まで触れられたものは少ない。一昨年のW杯後の「五郎丸フィーバー」を考えると寂しい扱いだ。


ホーム戦で初出場した時の記者会見で感想を語った五郎丸歩
 TOP14のレギュラーシーズン2試合を残した時点で、五郎丸のこれまでの出場試合数は5、プレータイムは計279分、得点はゼロ。

 この数字をどう見るか。

 RCトゥーロンは国内優勝4回、2013年から3年連続で欧州の頂点に立ったフランス、そして欧州のトップクラブだ。過去にはジョニー・ウィルキンソンやカール・ハイマンといった『世界最高プレーヤー』の称号を得た選手が所属し、現メンバーでも自国フランスやオーストラリア、南アフリカの代表選手でさえベンチ要員になるなど、ポジション争いは熾烈を極める。

 そんな最高峰リーグであるTOP14への挑戦について五郎丸はこう語っていた。

「(TOP14は)日本人選手にとって、いままでは憧れ、というか、目標にもできなかったリーグだった。誰かがプレーすることでそれが目標に変わればいいと思う」

 そして実際、五郎丸はTOP14の舞台でプレーした。そのこと自体が、日本のラグビー界にとってはまず大きな一歩だ。

 残念だったのは五郎丸の世界最高峰リーグへの挑戦が、よりにもよってトゥーロンの混沌期にあたってしまったということ。

 昨シーズンを最後に、黄金期を築いたベルナルド・ラポルトHC(現フランス・ラグビー協会会長)が去り、一時代をけん引したスター選手たちから次世代への交代期にあるトゥーロンの今季が「移行の時期」となることは明らかだったのだが、それは会長や選手たちの予想をはるかに超えるカオス状態となった。

 ここで五郎丸のトゥーロンでの挑戦を振り返ってみたい。

 五郎丸が入団した当時、ヘッドコーチを務めていたのは昨季までアシスタントだった元イタリア代表フライハーフ(スタンド・オフ)のディエゴ・ドミンゲスだった。

 五郎丸の定位置、フルバックのポジションにはウェールズ代表のリー・ハーフペニーがいて、五郎丸が彼の2番手という位置付けになることは入団前からわかっていた。

 しかし、秋のテストマッチや年明けのシックスネーションズなどでハーフペニーは3〜4ヵ月クラブを留守にする。五郎丸はそのタイミングでの出場機会をつかむべきだった。

 オーストラリアのレッズに所属していた昨年5月に負傷した右肩の調子が完全に良くなるのを慎重に見極めたうえで、ドミンゲスHCは10月8日の第8節ラ・ロシェル戦で五郎丸を初めて23人のメンバーに加えた。

 指揮官はこの試合で後半20分ほどプレーさせることを考えていたが、今季絶好調の相手に苦しい展開となったため、あえて投入を見送った。

「今日の試合の展開は、彼をデビューさせるうえで理想的ではなかった。ケガから回復したばかりだし、もっと自信をもってプレーできるような状況を与えてやりたかった。4ヵ月間もプレーから遠ざかっていたわけだからね」

 ドミンゲスは出場見送りの理由をこう語った。

「この先まだ30試合もあるのだから、慌てなくても彼の出番はまだいくらでもある。フィジカル的にも彼はすでにプレー可能な状態だ」

 いずれはキッカーを任せることも含めて、ドミンゲスは五郎丸を今後の戦力として計算に入れていたのだ。

 ところが、この試合後まもなくドミンゲスHCが辞任。

 そもそもブジェラル会長は、今季ドミンゲスをヘッドコーチに昇格させたものの”本命”(来季から指揮をとるフランス人コーチ、ファビアン・ガルティエ)を手に入れるまでの「つなぎ役」と考えており、ドミンゲス体制の船出には最初から荒波が立っていた。

 そんな事態を見越してイングランドからバックスコーチとして呼んでいた、かつてサラセンやバースを率いたイギリス人のマイク・フォードをヘッドコーチに据えた新体制がスタートすると、今度はこの状況に不満を感じた古参のコーチ2人が相次いで離職。現場にはフォードと、やはり夏から参入した元日本代表スクラムコーチのマーク・ダルマゾという、今季から新たにトゥーロンに加わった指導者だけが残された。

 その頃、秋のテストマッチの最中でウェールズ代表のハーフペニーが不在というタイミングに、五郎丸にいよいよデビューのチャンスが巡ってきた。11月6日、第10節のリヨン戦、アウェーの試合だったが、五郎丸は控えメンバーに入ると、背番号「20」をつけて後半の25分間プレーした。

 フォードHCは「ボールをフィールドから出すべき場面や前へ運ぶべき場面できちんとそれができていた。よいデビュー戦だったと思う。今日の彼の出来には満足している」と初陣を評価し、「いずれキッカーも任せるつもりだ」と期待を込めた。

レキップ紙のラグビー担当アーノルド・レケナ記者も「今日は出場時間も短いので判断材料には乏しいが、随所で的確な処置ができていた。なにより一度もボールを失っていない。今後どう自分のプレーを発揮していくか楽しみにしている」と前向きに感想を話した。

 そして、五郎丸自身もデビュー戦のパフォーマンスに及第点をつけた。

「トゥーロンのジャージを着て試合ができたことを非常にうれしく思います。(ブランクがあったことには)不安はなかったです。試合に近いトレーニングができていましたし、仲間のサポートもあったので。自分ができる仕事をしっかりとやろうと思っていました。その点に関してはできたと思います」

 翌週の第11節、対スタッド・フランセ戦で、五郎丸は伝説のスタッド・マイヨールのグラウンドに立った。

 初の先発フル出場となったこの試合、五郎丸はボールをキャッチしようと飛び上がった瞬間足元から激突されて、痛めた右肩から激しくグラウンドに叩きつけられた。フィジカルコンタクトが激しいフランスラグビーの洗礼をさっそく受けたわけだが、その後も果敢に押し込んだり、キックで効果的な陣地を取るなど、スタンドから「Allez GORO!(アレー!ゴロー!)」というサポーターの声援が飛ぶ中、31-12の勝利に貢献した。

 前週のリヨン戦の出来を見て、早い段階から五郎丸の先発を決めていたというフォードHCは試合後こうコメントした。

「期待どおりのプレーをしてくれて非常に満足している。ホームグラウンドで良いデビュー戦が飾れたと思う。厳しいコンタクトも受けたが、そういった激しいバトルにもひるむことなくフィールドで闘い続けるタフさやガッツを見せてくれた」

 キッカー役についても、すでにこの試合でも50m超のロングキックが得意であれば10番でプレーしたベルナールに代わって蹴らせたい意思があったと語り、「今日はピエール(ベルナール)がミスなく全部決めてくれたが、我々が必要としたときには彼(五郎丸)はいつでもキッカーを務める準備はできている」と話した。

 トゥーロン取材歴20年のベテラン、地元ヴァール・マタン紙のポール・マッサボ記者も高評価を与えた。

「ホームで初先発の試合としては上出来だった。的確に求められる仕事をこなしていた印象。ハーフペニーが戻れば、彼とのポジション争いになる。ハーフペニーの方が欧州のラグビーには慣れているが、ケガで長期欠場した後、彼はキックでのリリースの感覚がいまひとつ戻っていない。そのプレーに関しては、今日の試合ぶりを見ても、五郎丸のほうが優っている印象を受けた。今後はプレースキックでの活躍も見てみたい」

 五郎丸は試合の課題を口にしつつも、先発フル出場できたことを喜んでいた。

「初めてトゥーロンのファンの前でプレーできたことを非常にうれしく思いますし、15番をつけて80分間できたことを本当にチームメイトに感謝したい。

 コンタクトプレーが多いこと、セットプレーを重視していることはフランスラグビーの強みだと思いますし、昔ながらの男らしいラグビーをしているな、という気がします。今日は状況判断で裏へ蹴るケースが多かったですが、(自分の)判断はそれほど間違っていなかったと思います。ただキックの精度はまだまだ上げられる部分があると思うので、次に向けてまたしっかり練習したい。プレー自体に良し悪しはありますけど、まずは15番をつけてピッチに80分間立ったことはうれしかったですね」

 リーグはすでに中盤戦に突入していたが、五郎丸は着々とキャリアを重ね、チームの一員として存在感を増していたように見えた。ただ、ことは順調には進まなかった。

(つづく)

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