藤原さくら

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 神木隆之介の主演による映画『3月のライオン』(後編)の公開(4月22日〜)に伴い、主題歌「春の歌」を含む藤原さくらの最新シングル『Someday / 春の歌』が注目を集めている。

 スピッツの名曲をカバーした「春の歌」は、彼女らしいアコースティックな手触りの仕上がり。この楽曲を歌うことの意義について彼女は、映画『3月のライオン』の大友啓史監督とコミュニケーションを重ねたという。主人公の桐山零(神木)は、将棋を通した様々な人々との出会い、そこで得た経験のなかで、“自分はひとりじゃない。信頼し合える仲間がいる”と気付く。エンディングで使用される「春の歌」は、零が歩んでいくこの先の人生を祝福するようなイメージで制作され、穏やかな包容力を感じさせるボーカルへとつながっている。

 彼女の書き下ろしによる「Someday」は〈ふたりが会うのは必然/ハッピーエンドじゃないと!〉というフレーズが印象的なポップチューン。軽やかに飛び跳ねるようなメロディラインを軸にしたこの曲のテーマは“出会い”だ。

「ドラマのスタッフの方、出演者の方もそうですけど、この1年、すごくたくさんの出会いに恵まれて。“これは偶然かな? 運命かな”と考えることが多かったんです。どんな人にでも“この学校に行かなかったら、この人には会えなかった”みたいなことはあるだろうし、出会いの大切さをテーマにして曲を作ってみようと思ったんですよね」と、ある取材で語った彼女。ドラマ出演、シングル『Soup』のリリースなど、この1年、初めての体験を重ねてきた藤原さくら。そこで得たものは、彼女自身の音楽性を着実に広げているようだ。

 5月10日にリリースされる2ndアルバム『PLAY』も、多くの“出会い”によって彩られた作品に仕上がっている。まずはプロデューサー、ミュージシャンとの出会い。「Soup」「好きよ 好きよ 好きよ」のプロデュースを担当した福山雅治をはじめ、デビュー以来、セッションを重ねてきたSPECIAL OTHERSのYAGI&RYOTA、彼女のツアーバンドのリーダーをつとめる関口シンゴ、さらに気鋭の鍵盤奏者、トラックメイカーとして大きな注目を集めているKan Sano、APOGEEの永野亮などが参加し、藤原さくらの音楽世界をより豊かに構築しているのだ。ブルース、フォーク、カントリーなどをルーツに持つ音楽性、スモーキーな雰囲気のボーカルを中心とした彼女のオリジナリティを存分に活かしつつ、優れて現代的なポップアルバムに昇華していると言っていいだろう。

 また、彼女自身のソングライティングにも変化が見られる。特筆すべきは、これまでの作品と比べ、日本語の歌詞が大幅に増えていること(12曲のうち10曲が日本語詞)。シングル『Soup』のインタビューの際に彼女は、ドラマ出演をきっかけにライブの客層が広がったことに関して、「たとえば女子高生に聴いてもらうとしたら「「かわいい」」(アルバム『good morning』)みたいな曲がわかりやすいと思うんですよね。恋する乙女みたいな歌だし、日本語の歌詞なので。実際、ドラマ出演のことなどで私のことを知ってくれた人は「「かわいい」」が好き」って言ってくれる人が多いんですよ。そういう意味では、私がやりたいことは変わらないんだけど、いろんなことを考えながらやるべきだろうな、と」とコメントしていたが、日本語の歌詞が増えたことは、自らの活動状況の変化に伴う、きわめて自然な結果なのだと思う。また、自分自身の感情をそのまま歌うのではなく、架空の主人公を想定し、物語を紡ぐような歌が中心になっていることも、このアルバムの大きな特徴。ストーリーを作り出し、その主人公を演じる(PLAY)ように歌うことで、表現の幅を広げることに成功しているのだ。

 もうひとつ記しておきたいのは、様々な変化を感じさせながらも、シンガーソングライターとしての軸はまったくブレていないということだ。豊かなルーツミュージックを内包したソングライティング、アコースティックギター、ウッドベース、ピアノなどの生楽器の響きを活かしたオーガニックな音作り、そして、心地よく、穏やかなボーカリゼーション。どんなに知名度が上がっても、より幅広いリスナーを想定しても、彼女本来の音楽性はまったく揺らぐことはない。そう、アルバム1曲目の「My Way」は“どんなことがあっても、私は自分の道を行く”という宣言であり、シンガーソングライターとしての彼女の本質を改めて確認できたことこそが、本作の最大の収穫なのかもしれない。

 アルバムの最後を飾る「はんぶんこ」で彼女は、音楽との関係を歌っている。〈これしかないって 歩いてきたんでしょう/だから どうか〉。多くの出来事を経験し、想像を超えるようなフィールドへと進み始めた藤原さくらは、自分自身の音楽をしっかりと握りしめながら、さらに多くのリスナーへとリーチしようとしている。オリジナリティとポピュラリティを絶妙なバランスで共存させた本作『PLAY』は、彼女の最初の代表作として認知されることになりそうだ。(森朋之)