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わたしがAUTOCARに参加して、もうすぐ30回目の夏がやってくる。あの頃、ディーゼルの王座はシトロエンCX DTRターボ2から移るとは思えなかった。

われわれがテストしたCX DTRターボ2は、ほかのディーゼル車たちと比べると、まるで宇宙船かという加速で、現在のガソリン車で言うならばブガッティ・ヴェイロンのような衝撃を受けたものだ。

ただし、スタートをバッチリ決め、クラッチの焦げる匂いを無視して、完璧なシフトチェンジを決めたとしても、0-97km/hで10秒を切ることはできなかっただろう。公称値は10.1秒だった。

とはいえ、当時の一般的なディーゼル車は、メルセデス・ベンツ190Dが15.8秒、フォード・グラナダが17.5秒、フォルクスワーゲン・ゴルフが18.2秒といったところ。

うるさく、排気は汚く、しかも遅く、期待通りのペースでちょっとした道程を走ろうと思ったら、かなり必死にドライブしなければならないシロモノだった。今でもまざまざと思い出される。

あれから30年。その間の進歩は、10秒以下で97km/hに到達するディーゼルを現実のものにした。そのうえ、静止時から10秒で100mph(161km/h)に届くとくれば、われわれがテストしたアストン マーティン・ヴァンテージGT8、最近のベントレーやマセラティより速いことになる。もっと言えば、ポルシェ718ケイマンSやBMW i8さえも凌ぐのだ。

これまでのロード・テストを振り返ると、そんなクルマはたった1台。10.3秒を記録したポルシェ・パナメーラ4Sディーゼルだ。これならば、あわよくばディーゼル初の1桁を達成できるのではないだろうか。

われわれのプランはシンプルだ。ズルをするのである。

AUTOCARが思いついた「ズルする方法」

ロード・テストでは、2名乗車と燃料満タンを義務づけている。それを助手席は無人にして、燃料もわずかしか入れずにアタックすれば、誰もが再現可能という条件を逸脱せずとも、コンマ何秒かは削れるのではないかと考えたわけだ。

それを試すべく足を運んだのは、レスターシャーのブランティングソープ・プルービング・グラウンドである。

このテストには、さまざまなスキルが求められる、と言いたいところだが、必要なのは取説を読んで、ローンチ・コントロールの操作方法を覚えることだけ。

走行モードをスポーツ・プラスに入れ、左足でブレーキ、右足でスロットルのそれぞれのペダルを思い切り踏み込み、準備完了が通知されたら左足だけ持ち上げればいい。クルマは飛び出し、彼方をめがけて走っていく。身体に掛かる物理的な力を別にすれば、驚くほど劇的なことはない。

低回転型で、トルク主導の4.0ℓV8ツイン・ターボは、パナメーラを転がるように走らせる。正直、今回の試みが失敗する見込みは低いと思った。

それにしても、である。

97km/hに3.7秒、161km/hにはにわかに信じがたいが9.3秒で到達したのだ。

新型の911カレラ2の9.4秒や、V6スーパーチャージャーを積むロータス・エキシージSの9.6秒と比べると恐ろしい結果だ。

しかしディーゼルが、流れの速いラウンドアバウトに合流できないほど遅かった時代に育った人間としては、目の前の数字に納得できなかった。

そこで、Uターンして再度計測してみる。復路では風力10の強風に晒されたため、タイムは往路より遅くなった。それでも、0-97km/hが3.8秒、0-161km/hが9.6秒である。

しかも、265km/hまでの加速もスムースでクイックだったので、285km/hを謳う最高速もよくある控えめな数字であろうことは疑うべくもない。

おそらく、それこそが注目に値するのだ。30年前、われわれのテストでこれより上の速度を記録したクルマはたった一台、ランボルギーニ・カウンタックQVのみだった。それでさえ、2km/hと上回っていないのだが。

しかし、それ以上に特筆すべき点が、このパナメーラにはある。楽な加速や奮い立つようなサウンド、長い航続距離といったすべてを、このパナメーラは持ちあわせているのだ。

これよりパワーはあるが重いパナメーラ4ハイブリッドを比較すると、あちらはエンジンに粗が目立ち、実燃費は劣り、正直言って相手にならない。辛うじて勝っている点を挙げるとすれば、税制面の優遇くらいか。そうであっても、やはりディーゼルを選ぶのが賢明だ。

長い年月において、優れたディーゼル車は少なからずあったが、今回のパナメーラはその中でも最新にして最良の1台だと思う。

では、これに代わるかもしれない候補はあるだろうか?

パナメーラ・ディーゼルに代わる意外な2台

これに代われるかもしれない候補といえば、1991年頃に乗ったBMW 325td以外には思いつかない。

今でも鮮明に思い出すのは、テディントンにあったAUTOCARの旧オフィスを出て1km足らずを走ってから、リアエンドのエンブレムを確かめたときの光景だ。

スムーズさと静かさが、ディーゼル車のものだとはしばし信じられなかった。しかも当時のディーゼル車の水準に照らせば、実に速いクルマだったのである。

その後、フォルクスワーゲン・トゥアレグV10 TDIなどは好きになれた。牽引に使っても、ディーゼルとは気付かず、ほかのいかなる欧州車とも変わらず使えた、初めてのクルマだったからだ。とはいえ、なにぶんにも高価なモデルだ。開発費も十分に掛けられたであろうことを考えれば、驚くに値しない結果だといえる。

現在、季節や使用条件などを問わない現実的なディーゼルの雄を挙げるなら、BMW 320dということになる。排気量は2.0ℓと控えめだが、20年ほど前の330dと比べても、パワーでも加速でも、最高速でさえも上回っている。

その上、23.8km/ℓという燃費は、1.0ℓのベーシックな仕様で、パワーは1/3しかないフォルクスワーゲンUp!より優れているのだ。また、ガソリン車並みのスムーズさや洗練度を求めるとしても、今回のパナメーラのような6気筒を選ばずとも、アウディA4の2.0ℓディーゼルがある。これはとんでもなく静かで、リラックスした回り方をする。

過去30年間で、ディーゼル・エンジンはトラックやタクシーだけのものではなくなり、使い勝手のいいエンジン特性や長い航続距離、優れた燃費を求める一般ユーザーにも応えうるものへと進歩を遂げてきた。

また、ディーゼルを規制しようという勢力は都合よく記憶から消し去っているようだが、ガソリン車よりCO2排出量を15%削減できることも無視できない。気候変動はもはや問題ではない、などという意見はナンセンスだ。

最後に、ディーター・ツェッチェの言葉を紹介しよう。彼は、いうまでもなくメルセデス・ベンツのCEOで、そのセールスでBMWやアウディを抜き去り、世界一のプレミアム・ブランドの座を奪回した人物でもある。言い換えるなら、愚かな人物ではないということだ。

昨今のディーゼルを脅かす議論について意見を求めたときのことだ。彼の回答は明確だった。

「多分に感情的、政治的、かつ筋道の通らない議論です。事実と技術的なポテンシャルに鑑みれば、ディーゼルのもたらす可能性を放棄するのは、愚かという以外の何ものでもありません」

パナメーラの、1秒当たり16km/h以上という加速を目の当たりにすると、これに同意せざるを得ない気分になってくる。