いよいよ今週末に迫った仏大統領選挙。フランスの街中を歩いていると、至るところで各候補者のポスターが貼られ、いよいよ5年に1度の国民的イベントが近いことを知らせてくれる。ただ、その様子を眺めていると、どこか変だ。

フランスの街中では、選挙ポスターや政治活動用ポスターが、指定された掲示場所以外に、公共の壁や道路工事の柵、電信設備のボックスなどに、無秩序に貼られている。それら貼られたポスターも、落書きされたり剥がされたり、さらには上から別の候補者のポスターが貼られたり、という混沌さだ。


たとえば極右ルペン氏のポスターには、ナチスのかぎ十字やヒトラーをイメージさせるちょびヒゲが描かれているし、急進左派で親ロシアのメランション氏のおでこには、ロシア語で「No(いいえ)」を意味する単語が書かれている。これら理由が明らかなものだけに限らず、単に歯の一部を黒く塗って歯が欠けたように見せかけたものや、口の近くに男性の局部を描いたものなど、“表現方法”はさまざまだ。

日本の場合、選挙ポスターや政治活動用ポスターの破損行為は、公職選挙法違反で罰せられる。そして選挙ポスターは、指定された掲示場へ貼ることが定められており、そこ以外は貼れない。ところがフランスは、日本で時折見かける「候補者のポスターを画びょうで目つぶし!(もちろん違法)」なんて、まだ優しいと思われるくらいのレベルで各候補「やるかやられるか」の世界が繰り広げられている。フランスの選挙ポスターは、一体どのような仕組みになっているのだろうか? 



フランスもポスターへの落書きはダメ


結論からいうと、指定された場所以外にポスターを貼ることは、フランスでも禁止されている(1982年2月25日の政令82-220号)。また選挙ポスターを破損させる行為も罰せられる(出版の自由に関する1881年7月29日法)。つまり選挙ポスターの扱いは大枠で日本と同様だ。

しかし実際には、ポスターを違法に貼る行為は後を絶たず、たとえ指定場所に貼られた選挙ポスターでも、落書きや破損させる行為が頻繁に行われる。これら街の美観を損なわせる状況に、フランスの各都市は頭を抱えている。

当然、対策を打ち出している都市もある。仏南西部にあるトゥールーズ市では、毎朝12人の監視人が街中を巡回し、前日に貼られた違法選挙ポスターを取り締まる。現地メディアによれば、違法な選挙ポスターがあると1枚につき12ユーロ(約1400円)の請求書が、そのポスターの政党に送られるという。今月4月までの直近3カ月で、違法選挙ポスターの数は1300枚に上った。また、これらの違法ポスターの清掃費用には、年間12万ユーロ(約1400万円)かかっている。



違法選挙ポスターにパリ市は静観


一方で、パリ市は選挙ポスターを違法に街中に貼る行為について、「民主主義の活力を尊重するため」違反者探しをすることはせず、静観する方針だ。現地メディアによれば、パリ市の場合、違法選挙ポスター以上に問題となるのが、街中に貼られるブランドのロゴや広告といった類の違法ポスターだ。

街中での違法広告は、各会社にとって低コストで広く宣伝できる有効な手段。そのため剥がして清掃しても同様の行為は後を絶たず、いたちごっこが続く。パリ市は違法選挙ポスターを含む違法広告の清掃費用に、年間14万5000ユーロ(約1700万円)を費やしているという。


大統領選を直前に控えたフランスでは、候補者および国民にとって大きな山場となっている。しかしその下では、招かざる副産物が各都市を悩ませているのだ。
(加藤亨延)