スポーツイベントのために作られた白頭文化交流社の応援旗

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◆金正恩党委員長と直接会える男

 4月10日週始めの月曜日午後7時、東京新橋の講演会場には、最大収容人数を超える50人以上があるカナダ人の話を聞くために来場していた。

 この日、マイケル・スパバ(Michael P. Spavor)氏というカナダ人の講演会が開催されたのだ。マイケル・スパバ氏とは、カナダ人でありながら北朝鮮との太いパイプを持つだけではなく、北朝鮮の最高指導者である金正恩党委員長と直接会える男として一部では知られる人物だ。

 マイケル氏は、現在、中国吉林省の朝鮮族自治州である延吉を拠点に「白頭文化交流社」を展開している。同社は、北朝鮮と政治を抜きにした文化やスポーツを通した民間交流を促進させることで北朝鮮国民の生活向上や変化に貢献することを目的とした活動をしている。

 マイケル氏を特に有名にしたのは、アメリカNBAの元選手デニス・ロッドマン氏の訪朝をサポートし、金正恩党委員長に引き合わせたときに、彼も同席し、数日間一緒に過ごすという経験をしたことだ。

 金正恩党委員長は、マイケル氏に対しなぜカナダ人が朝鮮語を話せるのかなど興味を持ち、それがきっかけで親密な関係を築き、マイケル氏の現在の活動へとつながっているという。

 朝鮮労働党幹部や軍高官でも金正恩党委員長へ面会できる人物は、ほんの一握りで、ましてや外国人だとさらに難しいことは容易に想像できる。そんな数少ない人物であるマイケル氏が都内で講演を開くということで、講演会告知が1週間前と直前だったにもかかわらず、北朝鮮研究者やマスメディア、高官庁などの関係者、在日外国人が多数集まった。平日の夜だったことも影響したのか北朝鮮マニアやヲタクは少数だったようだ。

◆前回より大幅に増えた観客

 マイケル氏の日本での講演は昨年に続く2回目だったのだが、昨年の30人よりも大幅に増えたのは、昨今の北朝鮮情勢が緊迫していることや、白頭文化交流社主催である人物へ会いにいくツアーが近々実施されることも集客を増やした要因となったのだろう。

 4月15日、北朝鮮最大の祝日である「太陽節」(金日成主席の生誕日)に合わせて実施される「ファインディング イン 金日成主席生誕105周年記念祭」という4泊5日のツアー内で、金正日総書記の料理人として知られる藤本健二氏の「日本料理たかはし」を訪れ食事をするプログラムが組まれているからだ。

 藤本健二氏も外国人では数少ない金正恩党委員長と会うことができる人物であり、今年1月に平壌で日本料理店をオープンし、2月中旬にニュースで大きく報じられたので記憶にある人もいるだろう。

 このツアーには、日本人の参加予定もあり、ツアー日程を見ると、太陽節の記念行事観覧や花火大会の観賞、平壌市民とのダンスパーティー、有名シェフによる北朝鮮料理教室などユニークなイベントが多いが、特に藤本氏の店へ行くことや日本人も参加することでより注目を集めたものと思われる。

 今回のマイケル氏の講演会を主催したのは、「千里馬エクスチェンジ」代表のエミル・トルシュコフスキ氏だ。(参照:北朝鮮通のシンガポール人が来日。国内外の北朝鮮マニアが集うイベントに潜入!)

 「マイケルさんの話は、日本が北朝鮮との関係をどう変えていくのかの1つのヒントになるのではないでしょうか。政治を抜きにして文化、スポーツ交流やビジネスなどを通して両国が少しでも近づける可能性があるのではないか?ということを考えてもらえる機会になればと思っています」とエミル氏は今回の講演会の狙いについて話す。残念ながら講演で話された内容は非公開なのだが、集まった観客は一様に満足していた。

 事実、日本と北朝鮮には数多くの問題が山積している。しかし、この11年闇雲に力による経済制裁を実施し続けてもあまり効果がないと分かってきた以上、民間レベルで北朝鮮との交流を増やすことは、諸問題解決の近道になるやもしれないし、もしかすると日本にとって安全保障上の抑止力として働くことも期待できるのではないだろうか。

取材協力
●Paektu Cultrual Exchange(白頭文化交流社)
●千里馬エクスチェンジ

<取材・文/中野 鷹>