ロシア・チェチェン共和国での迫害から逃れて暮らす首都モスクワの住宅で、ベッドに座る男性同性愛者(2017年4月17日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】イリヤさん(20)は憔悴(しょうすい)しきっていた。軍服を着た男たちに殴られ、拷問されたロシア・チェチェン(Chechnya)共和国から逃げ出したが、今も生命の危険を感じている。それもすべて、彼がゲイだからだ。「チェチェンでは、うそをつくか、死ぬかしか選択肢はない」

 今は首都モスクワ(Moscow)の端にある小さな家に、やはりチェチェンから逃れてきた他の5人と一緒に隠れ住んでいる。彼らは北カフカス(North Caucasus)地方のイスラム地域に位置するチェチェンで、同性愛者の男性を狙った残忍な迫害を当局が繰り広げていると語る。

 AFPの取材に応じた男性らは全員、本名を明かすことを拒んだ。誰かに素性が知れ、見つけ出されることを恐れているからだ。「僕がゲイだということを親戚の誰かが知ったら、一瞬もためらわずに僕を殺すだろう」と、ノルチョさん(28)は述べた。「そうしなければ、家族の名誉を守らなかったといって、自分の方が殺されてしまう」

 ロシア社会には一般的に同性愛への嫌悪感があり、特に保守的なチェチェンでは同性愛はタブーとされ、死によって罰するべき不道徳とみなす家族が多く、問題は極めて深刻だ。

 チェチェンを過去10年にわたり強権的な手法で統治してきたラムザン・カディロフ(Ramzan Kadyrov)首長に対する批判的な姿勢で知られるロシアの独立系紙ノーバヤ・ガゼータ(Novaya Gazeta)は3月下旬、チェチェンで男性同性愛者たちが一斉に検挙されているという衝撃的なニュースを伝えた。

 この報道によると、チェチェン当局は同性愛者の男性100人以上を拘束し、家族に対し「汚名をすすぐ」ために彼らを殺せと呼び掛けたという。少なくとも2人が親族によって殺され、さらに1人が拷問の末に死亡したとされる。

 ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の熱烈な信奉者とされるカディロフ首長の統制下にあるチェチェンの治安当局は、首長の対抗勢力を襲撃したり拉致したりしているとして長らく人権団体などから非難されてきただけに、この疑惑は深刻に受け止められている。

 この報道についての談話を求められたカディロフ首長の報道官は、チェチェンにはゲイの男性は「存在しない」ため、そのような懲罰的措置はあり得ないと断言した。

 カディロフ首長自身も19日、「チェチェンに関する挑発的な記事が逮捕とやらについて報じている」と述べ、同性愛者男性らの一斉検挙を否定。さらに「口にすることでさえ恥ずかしい。逮捕だの殺人だのが起きていると報じられ、(犠牲者の一人の)名前まで載っている。だが、その人物は生きており、元気で自宅にいる」と反論した。

■逃げても「いつかは見つかってしまう」

 チェチェンから逃げて来た人たちを支援している性的少数者団体「ロシアLGBTネットワーク(Russian LGBT Network)」モスクワ支部のオルガ・バラノワ(Olga Baranova)支部長はAFPの取材に対し「毎日3〜4件の支援要請を受けている」と述べた。すでに20人近くがモスクワへ移ったという。

 チェチェンの首都グロズヌイ(Grozny)からは1800キロ以上離れているが、今もイリヤさんは、フェンスに囲まれた家の近くを車が通り過ぎるたびに、飛び上がるほどの不安に駆られる。「ネットワークに助けられ、一時的な逃げ場をもらった。だけど、いつかは見つかってしまう」とイリヤさんは静かに語る。

 昨年10月、イリヤさんは軍服姿の男3人に空き地へ連れ出され、殴打された。顔にはあごに沿って大きな傷跡が残っている。「一部始終を撮影され、20万ルーブル(約40万円)払わなければソーシャルメディアに流すと言われた。借金をして、それを払った」

 しかし、イリヤさんはどのみちモスクワへ逃げなければならなかった。「母のところへ兵士がやって来て、僕のことをゲイだと言った」「本当に恐ろしい。逃げてから、眠ることができない」

 仮名を語ることさえ拒んだ別の男性も、2週間前にチェチェンを離れて以来、妻や子どもに自分が同性愛者であることがばれてしまうことを恐れ、眠ることができないと語った。彼は3月に1週間、「非公式の刑務所」に入れられた。「同じ房には他のゲイたちがいた。何人かはたたきのめされていた」「釈放されたとき、今すぐ逃げなければと思った」

 チェチェンの同性愛者弾圧に関する報道は、世界各国で非難を巻き起こした。活動家たちは、ロシアと2度の独立紛争を交えたチェチェンのカディロフ首長を憤慨させないよう、ロシア政府が目をつむっていると非難している。

 このニュースを伝えたノーバヤ・ガゼータ紙の記者の一人、イリナ・ゴルディエンコ(Irina Gordiyenko)氏はチェチェンの高位イスラム法学者から殺害の脅迫を受けた。また同紙編集部には「グロズヌイ666666」と書かれ、白い粉が入った封書が届いたが、この粉は無害であることが確認された。
【翻訳編集】AFPBB News