北朝鮮の憲法68条には、「公民は信仰の自由を持つ」と明記されている。しかし、これは有名無実な条文だ。北朝鮮は信仰を持つ人々を抑圧しており、「世界最悪の宗教弾圧国」として国際社会の厳しい批判を浴びている。江戸時代のキリシタン迫害と同じような状況であると言ってもいいだろう。

収容所では性暴行が常態化

一例を挙げると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市に住んでいたパク・ミョンイル(仮名)さんは、中国を訪れた際に入手した聖書を所持していた容疑で、2000年の秋に保衛部(秘密警察)に逮捕された。裁判を経ずに過酷な人権侵害が常態化している収容所に送られ、その後の安否は不明だ。

(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

しかし、そんな中でも、信仰を守る人々がいる。

韓国のNGO、北朝鮮人権情報センターが脱北者1万183人を対象に調査を行ったところ、1.2%にあたる128人が北朝鮮で宗教に接した経験があると答えている。また、聖書を見たことがあると答えた人も4.2%、428人にのぼった。未確認の数字だが、北朝鮮国内には、1200もの地下教会があると言われている。

デイリーNKは、2001年の脱北後にキリスト教に入信し、中国を拠点に北朝鮮の地下教会に対する支援活動を行った経験のあるキム・チュンソンさんにインタビューを行った。

ー脱北の経緯は?

2001年7月に両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)から脱北しました。当時、銅線の卸売をしていたのですが、金正日総書記が「金属を売り買いするやつは全員処刑せよ」という命令を下したため、当局に逮捕されました。見せしめに死刑判決でも下されたら大変です。当局からも「お前はもうすぐ死ぬ」と言われました。それで、逮捕された日の夜、脱走して国境の川を越えて中国に逃げました。

最初は中国に行くなんて、考えもしませんでした。脱走して行き場を失い、川べりで地団駄を踏んでいたところ、水を汲みに来たおじさんから「何をそんなに悔しがっているのか」と声をかけられました。事情を説明してみると、「あっちへ行けばいい」とあごで中国の方を差すのです。それで「ああ、なんで中国に逃げることを考えなかったんだろう」と思い、川を渡りました。北朝鮮の人は十中八九がそうだと思うのですが、国境まで行っても、川を渡る勇気が出ないのです。

ー北朝鮮にいたときからクリスチャンだった?

北朝鮮で歌手をしていたこともあります。その頃に、テレビや映画、芸術を通じて宗教というものに触れる機会はあったけど、嫌いでした。脱北直前に見た映画も『山犬』という反キリスト教映画でした。ところが、偶然なことに中国に渡ってすぐ出会ったのが教会の人でした。

その人に助けてもらった縁で、教会で暮らすことになりました。そこで聖書というものを初めて読みましたが、「十戒」が北朝鮮の「党の唯一思想体系確立の10大原則」とそっくりだということに気づきました。それで宣教師に「なんで聖書は北朝鮮の本をパクったのか」と聞いたんですよ。聖書が2000年以上前に書かれた本であることを知らなかったんですね。

教会で暮らしつつ、北朝鮮の実情について知るようになりました。金日成主席の両親の仲人が米国の宣教師(注:レムエル・ネルソン・ベル氏)だったことも。それから北朝鮮がなぜキリスト教をあれほどまでに弾圧するのか興味が湧き、さらに熱心に聖書に目を通すようになりました。

ークリスチャンになったきっかけは?

イエス・キリストを知ってすぐに決心しました。裏切られるということは大変なショックを伴います。私は金日成主席と金正日総書記を固く信じていたのに、彼らが詐欺師だったということがわかり、裏切られたことを恨みました。神様がいるべき場所に2人がいるということ、北朝鮮の人々を悪のるつぼに追いやっていることに激しい怒りを感じました。それで、人々に真実を知らせるためにクリスチャンになったんです。

次回は、クリスチャンになったキムさんが、宣教活動のため命がけで北朝鮮に潜入した経験や、北朝鮮国内で信者たちが過酷な弾圧を受けている実態を紹介する。(つづく)