プリンスさん

 米ミュージシャンのプリンスさんが57歳の若さで亡くなってから4月21日(米現地時間)で1年が経つ。彼が生涯に示した姿勢や音楽は今もなお、幅広い分野の幅広い世代に影響を与え続けている。

 日本においても同様で、21日におこなわれた、フィギュアスケートの世界国別対抗戦(国立代々木競技場)SPで、羽生結弦選手(22)が、プリンスさんの楽曲「レッツ・ゴー・クレイジー」を使用したことでも話題を集めた。

 米国では、ミュージシャンによるトリビュートが1年経過した今も下火になる気配がない。その一例に、ブルーノ・マーズ(31)が今年2月のグラミー授賞式で、羽生選手と同じ「レッツ・ゴー・クレイジー」を、実際にプリンスさんが使ったギターを弾きながらカバーしている。

 特に米国において多くのミュージシャンが、一人の音楽家をトリビュートし続けるというのは、音楽の歴史や文脈を理解し、リスペクトするという風土の表れだろう。それもそのはず、現行の音楽はそういう色々な先人の功績の積み重ねによって出来上がっている文化だから、無関係ではないだろう。

 それは具体的なサウンドに留まらない。活動や演奏に対する、現在の演奏家の態度にも姿勢が受け継がれているのではないか。

 例えば、プリンスさんは、78年のデビュー作『For You』から、1人で全てのパートを多重録音する事を持ち味として活動していた。これはどのパートも高水準で生演奏できた、彼ならではの強みであった。約40年前から、他のミュージシャンに頼らず、演奏録音にまつわる全てを“DIY”でおこなっていたというのは驚きだ。

 ただ、現在においては、レコーディング技術の高度化や機材の安価、そして、楽器スキルの習得方法や情報情報は、音楽学校やインターネットなどで手軽に得ることができ、“1人多重録音”のハードルは下がっている。

 また、近頃では、リアルタイムで録音した音を重ねていく機材、いわゆる「ルーパー」を使った、1人多重演奏パフォーマンスも一般化が進んできている。それさえもプリンスさんの影響下にあると感じさせる。

 彼が、約40年前から実践してきた活動は、今を生きるシンガーソングライターたちのモデルになっていたとも言えるだろう。音楽もこの様に、知らず知らずのうちにバトンリレーがなされていくのが常なのではないだろうか。

 日本の音楽も然り。2017年も著名な音楽家の訃報が聞かれた。その故人たちのバトンも誰かに受け継がれ、後進によって更新されていくだろう。故人が残した功績と音楽に敬意を示しつつも、そういうところまで意識しながら音楽を聴くとまた違った発見があるかもしれない。(文=小池直也)