中国の南シナ海問題の第一人者、呉士存・中国南海研究院院長が「南シナ海を巡る問題」をテーマに日本記者クラブで講演した。「南シナ海紛争の平和的解決を追求し、南シナ海海を沿岸国の“共通の庭”にすべきだ」―など4項目を提言した。

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2017年4月19日、中国の南シナ海問題の第一人者、呉士存・中国南海研究院院長(南京大・中国南海研究協働創新センター副主任)が「南シナ海を巡る問題」をテーマに日本記者クラブで講演した。南シナ海紛争の平和的解決を追求し、同海を沿岸国の「共通の庭」にすべきだなど4項目を提言した。中国ASEAN南シナ海行動規範(COC)協議が進展し、「平和的状況に劇的に好転している」とし、「日本にとっても好ましいことだ」と強調した。

中国南海研究院は南シナ海問題に特化した政府系シンクタンク。約70人の専従スタッフが活動している。呉氏は同問題に関する著作を中国語と英語で刊行しており、日本でもこのほど『中国と南沙諸島紛争』(朱建栄訳・花伝社)を上梓した。発言要旨は次の通り。

南シナ海問題は2009年からエスカレートしたが、主な原因は(1)米国の「アジア太平洋リバランス政策」(2)中国の台頭と強大化が他の係争国の非合法的占拠の強化を引き起したこと―などだ。米国は域外の国であり当事者ではない。2011年のリバランス政策が打ち出されて以来、南シナ海は米国にとって中国をけん制する一つのツールになっている。

中国の南シナ海政策は、「平和と安定」の維持、航行の安全と自由の維持、主権主張国との直接対話と協議による紛争解決、領有権争いの棚上げと共同資源開発などを基本としている。

この線に沿って、中国は2002年に、ASEAN10カ国と「南シナ海関係方面行動宣言」(DOC)に署名しており、現在「南シナ海行動規範(COC)」の協議が行われている。南沙の島・岩礁での建設は主として平和利用であり、国際社会への公共財の提供を約束している。

海域の直接の当事者である海域周辺国は島しょの帰属先に過度に焦点を当てるのではなく、いかに海域をコントロールできるかに変わりつつある。

南シナ海紛争は沈静化している。沿岸国が抑制的に動き、協力態勢を構築する方向に動いている。中国としても、平和と安定に努め協議で紛争を解決し、資源の共同開発を推進、航行の自由と安全を守っていく。中国の政策には、なんら変化はない。

中国は関係各国から遅れて、南シナ海に施設をつくったが、民生用がほとんどだ。軍事施設はあくまで防御のための施設である。中国は民生施設を多くつくり、軍事施設の建設は極力抑制する。私の使命は南シナ海で戦争が起こさないことだ。シンクタンク(南海研究院)の任務も同じ平和を志向している。

「南シナ海で絶対に戦争はしてはいいけない」と言うのも、南シナ海周辺国は中小国だからだ。日本との間でも再び戦争になってはいけない。長年、笹川平和財団と協力して、日中間の海洋の安全に関するプロジェクトを実施している。

平和に向かう流れが出てきたのは喜ばしい。南シナ海に関する状況は劇的に好転している。原因は二つある。トランプ政権はオバマ前大統領と違って、この地域に介入していない。もうひとつ係争国が、中国に対する考え方を修正した。フィリピンのドュテルテ大統領も仲裁裁定後に北京を訪問、マレーシアやベトナムの首相も訪中した。

フィリピンと中国は、3年間対立したが、代償を払っただけで何一つ変わらなかった。その結果、係争を回避し、理性へ回帰する機運が生まれ、友好的な話し合いによる解決の道を歩み始めた。フィリピンとの関係は大きく変化し、中国フィリピン間の協力メカニズムが出来上がり、2カ国間の紛争海域に関する対話が進んでいる。中国ASEANがCOC(中国アセアン行動規範)を通じて、南シナ海を「共通の庭」にしたい。

このような平和的な状況は日本にとっても好ましいことだ。ただ日本は紛争の変数になる可能性があると懸念する。米国を支持する形で、日本は大国をめざし、自由航行作戦に参加することも想定される。海上自衛隊の「いずも」が5月から8月まで南シナ海沿岸国に寄港して、米国と作戦を行う見通しという。中日間の相互信頼が低下している中、危機をコントロールするメカニズムがなく、偶発的な軍事衝突が発生する懸念がある。