リーグ戦では初のスタメン出場を飾った7節・鹿島戦。チームは敗れたが、クリスランは50分にセットプレーからゴールを決めた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

 クリスラン。今季から仙台に加わったブラジル人。与えられた背番号は20。左利き。公称187cm、85kg。威圧感はたっぷり。そのうえ金髪でモヒカン、左腕をタトゥーが覆う。風貌だけで判断するのであれば、真面目のそれではない。
 
 ここまでJ1リーグで4試合(161分)・1得点。出場したのは4節・柏戦(1-0)、5節・川崎戦(0-2)、6節・浦和戦(0-7)、7節・鹿島戦(1-4)。それぞれの出場時間とシュート数、トラッキングデータ(走行距離とスプリント回数)は以下。
 
対柏(アウェー)。3分(石原直樹と交代で87分から途中出場)、0本、1.148km、3回。
対川崎(ホーム)。23分(梁勇基と交代で67分から途中出場)、1本、3.157km、3回。
対浦和(アウェー)。45分(藤村慶太と交代で46分から途中出場)、0本、5.503km、13回。
対鹿島(ホーム)。90分(今季リーグ戦初先発)、3本(1得点)、10.153km、17回。
 
 示された数字も優良助っ人とは程遠い。例えば、新潟から浦和に加入したラファエル・シルバは、7節終了時点で5試合(414分)・5得点。直近のFC東京戦では興梠慎三に見事なスルーパスを通して決勝弾をアシストするなど、順調に適応している。
 
 例えば、先日の鳥栖戦で強烈な逆転ゴールを決めた磐田のムサエフ。例えば、中澤佑二と組んでフル出場を続ける横浜のミロシュ・デゲネク。ポジションは違えど(前者はボランチ、後者はCB)、それぞれがすぐにチームに馴染んで欠かせない戦力となっている。
 
 翻って、我が軍のクリスランのパフォーマンスはどうか。キャンプ中の負傷離脱もあり、コンディションが上がり切っていないのは確かだ。そのエクスキューズがあろうと、助け舟はなかなか出せないのではないだろうか。
 
 不可欠な選手という地位を確立できていない。クラブを勝利に導けていない。ウイルソン(現・甲府)とハモン・ロペス(現・柏)に代わる新エースとして招聘されたことを考えれば、周囲を納得させるほどの材料を提示できていないと言えよう。
 
 それでも、不思議なことにシーズン開幕前にあった期待値は少しも目減りしていないのだ。それは何も、結果を残せていない他クラブの新外国籍選手と比べてのことではない。もちろん、数字は正直だ。しかし、そればかりを追うとクリスランの姿を見失ってしまわないかねない。
 4月16日、J1リーグ7節・鹿島戦。ユアテックスタジアム仙台。90分と少しのアディショナルタイムが経過し、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。同時に、クリスランはその場に座り込み、そして仰向けになってピッチ上に倒れ込んだ。
 
 性も根も尽き果てたか。スタミナは空っぽだったのか。主審に促されると仲間たちとともに整列をし、鹿島の選手たちと握手をしてサポーターのもとへ。足を引きずるような仕草もあった。ゴールネットを揺らしたものの、表情は浮かなかった。
 
 王者の力を示されて大敗した試合に、クリスランの真価を垣間見た気がした。精彩さは足らなかった。だが、1トップに入ったブラジル人は、日本代表にも招集される鹿島の両CB、昌子源と植田直通に見劣りなどしなかったようにも思う。
 
 24分と43分に佐々木との好連係を見せて、鹿島守備陣を脅かした。そして50分には得点を挙げる。左CKから三田啓貴のキックに合わせて、歓喜を呼び込んだ。どれもが能力を存分に発揮したもの。しかし、目を奪われたのは違う場面だったのも事実だ。
 
 ひとつ目は53分、相手がハーフライン近辺からGKへとボールを戻したシーン。全力で追い、諦めずにスライディング。レイトタックルで足に入ったと判定されてイエローカードを提示された。その是非についてどうこう書くつもりはない。ただ、常にゴールを狙っているストライカーとしての本能を感じ取れた気がした。
 
 ふたつ目は59分、自陣のCKのこぼれ球を三田啓貴が拾ってカウンターを発動しようとしたシーン。小笠原満男のファウルによって阻まれる。その後、プレーが止まったのを知らずか、鹿島の選手がボールを大きく蹴った。
 
 誰も取りに行こうとしない。刹那、先頭の石原から数えて6人目の位置にいたクリスランがダッシュ。リスタートを1秒でも早くしようとした。この時点で1-3と、勝つには3点が必要な状況だった。勤勉さと献身性と勝利への執念を見て取れた気がした。
 
「勝利を欲する気持ちが強いと伝わったはず」。試合後に、そう振り返った。伝わらないわけがない。少なくとも、真面目に、一心不乱に戦う姿を目の当たりにした人々には響くものがあった。スタンドから湧き上がった「クリス! クリス!」というコール。それがこの男を雄弁に語っている。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)