秋津壽男“どっち?”の健康学「深夜勤務で不眠症になったらどうする?睡眠導入剤の服用は期限を決めればOK」

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「この春、再就職で夜勤になりましたが、朝に帰宅してもなかなか寝られません。寝酒をするべきか、睡眠薬に頼るべきか。どちらがいいでしょうか」

 読者の方からこんなご相談をいただきました。今月から夜勤となり、朝10時に寝て夕方5時に起きねばならないそうです。

 サラリーマンからバーテンに転職するケースもあるとおり、誰にでも、期せずして夜勤となる可能性がありますが、寝酒は絶対にやめてください。

 アルコールには一過性の睡眠作用がありますが、一方で覚醒作用もあるため、飲酒後、2〜3時間もすると目覚めてしまいます。同様に利尿作用もあり、トイレに行ったあと、目が冴えて寝られなくなります。

 そこで、さらにアルコールに頼るとチェーンドランカーとなり、気がつけばアルコール中毒となる危険性があります。

 正しい寝酒とは、寒い夜、寝つけないのでホットウイスキーを1杯だけ飲み、温かくして寝るもの。寝酒で意識をトローンとさせるのは「眠っている状態」ではないため、病院で薬を処方してもらうべきです。

 睡眠障害には「なかなか寝つけない入眠障害」と「1時間おきに目が覚める中途覚醒」があります。

 この方は入眠障害ですので、飲んだら30分前後で効いて2時間前後で抜ける睡眠導入剤(ハルシオンやマイスリーなど)がベターです。睡眠薬は6〜7時間効くのでたっぷり寝れますが、朝起きた時にボワーンとして数時間スッキリしない、などの副作用があります。

「睡眠薬や睡眠導入剤は癖になりそう。飲まないと寝られなくなるのでは?」と怖がる人もいるでしょう。もちろん期限を決めて、休日の前日は飲まずにいてください。多くの場合、早ければ3カ月、遅くとも半年たてば夜勤に慣れるはずです。この間、パフォーマンスを落とすのがつらいなら、環境の変化で高ぶる神経を、最初のうちだけ薬で慣れさせればいいのです。

 この方、夜勤を始めてから数週間しかたっておらず、今は日常生活の変化に体が適応していないだけです。どうしても寝られないなら、医師と相談して睡眠導入剤を処方してもらうことです。慢性的な不眠症は意外と少なく、そのうち睡眠導入剤に頼らずとも済むようになるでしょう。

 なお、睡眠薬には「文字どおりの睡眠薬」の他に「抗不安薬」があります。抗不安薬とは不安や緊張を和らげる薬で、日常生活に多大な支障を来すような不安障害があると処方されます。眠いのだけれども、心配事や不安事で頭が冴えて寝られない、という人には、睡眠薬よりも抗不安薬のほうが適しています。

 ただし、抗不安薬を飲んだからといって確実に寝られるわけではありません。例えば朝や昼に飲んでも、心の不安を取るだけで眠くはなりません。「考え事や不安事があって寝られない」という人の「不安要素」を取り除くのが主な効果であるため、体はクタクタなのに緊張や不安で寝られない、というケースで用いる薬です。

 ただし、強い副作用もあります。例えば代表的な薬であるデパスは、強い抗不安作用と筋弛緩作用があり、心身をリラックスさせる効果がある反面、抗不安効果が強く半減期も短いため依存症になりやすく、催眠作用からふらつくため転倒や骨折の原因ともなります。なお、薬局で売っている睡眠薬は、医学的に見ると睡眠薬でもなければ睡眠導入剤でもなく風邪薬です。本当の睡眠薬は効果がてきめんなので、市販は絶対にできないのです。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。