『いないいないばあっ!』番組プロデューサーインタビュー ――音楽のこと、ワンワンについて、そして20周年を超えて

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「お待たせしました! 今日は体操メドレーですよ!」

2016年度の木曜日、テレビでは“いつも元気なワンワン”たちが、『いないいないばあっ!』(NHK Eテレ 月〜金 8:25〜8:40ほか)歴代の体操3曲をメドレーにした「たいそうスペシャルメドレー」を踊っていた。

それにしてもこの体操曲たち、それぞれ曲調がころころ変わる。
大人が覚えようとするとタイミングが取れなさそうだが、子どもというのはそのあたり柔軟で、うらやましいなあ……と思っていた。

体操曲に限らず『いないいないばあっ!』の曲は、玄人好みなものが存在する。
たとえば「きらりらきらりん」。この曲は“平沢進”的なメロディラインで好きなのだが、ワンワンのソロパートを歌おうとすると、出だしのタイミングが取れず、音程を追えない。

近年はつんくのほか、北川悠仁(ゆず)、ヒャダインなど、有名アーティストによる楽曲提供もあり、“いなばあ”の音楽的要素への探求心がいよいよわき上がってきた。そして今回、番組のプロデューサーである、NHKエデュケーショナル こども幼児部・鈴木知子さんにお話を伺うことができた。

▲ゆずの北川悠仁さんが作詞・作曲を担当した「かんぱーい!!」
© NHK

――まず、番組の音楽面についておうかがいしますが、曲について番組内で一貫したテーマなどはあるのでしょうか?

鈴木知子プロデューサー(以下、敬称略):決まっているのは、あくまで“赤ちゃん向けの歌をつくる”ということです。0〜2歳が番組のターゲットですが、その年齢のお子さんはそんなに集中力が続きません。番組のコーナーはどれも短い時間で、歌も1分から2分でつくるようにしています。

そして基本的には“ワンワンとうーたんとゆきちゃんの3人が歌う”ということで、“ゆきちゃんが歌える歌”が前提になります。すると、レンジもキーも子どもが歌えるものになってきます。

―― 番組にはいろんなミュージシャンの方が曲を提供されています。マッチ(近藤真彦)さんや、最近だとゆずの北川悠仁さんがいらっしゃいますが、選曲やミュージシャンは、時代時代で親の世代も意識しているのでしょうか?

鈴木:それはないですね。もともとある曲を選ぶということではなく、こちらから作っていただく形なので、「名前の知られている有名な方に」と狙っているわけではありません。

曲はテーマが先に決まっていて「こういう方に」というケースもありますし、「スタジオで踊れる曲がいいな」くらいの、ざっくりした感じではじまることもあります。

■アーティストたちが番組に参加するきっかけは……?


鈴木:ゆずの北川さんやつんくさんは、作詞家の方など番組関係者からのご紹介ですね。お二人とも“長く歌い継がれる歌を作っていきたい”という強い思いを持っていらっしゃいました。番組の歌は代が変わっても違う女の子が歌い継いでいくものなので、「子どものために残る歌を作りたい」という番組側の気持ちと一致したんです。“熱意”と“熱意”で歌ができあがっていく感じですね。

―― 偶然かもしれませんが、ミュージシャンの方にお子さんができると作曲陣として参加されるイメージがありますが……。

鈴木:確かにアーティストの方も、お子さんができると関心が高くなるといいますか……。ご視聴いただいているみなさんそうでしょうけど、お子さんができると急にパパもママも子ども向け番組に詳しくなって。ご自身が番組を見たり、ご家族が夢中になっている姿を見て、「これは素敵なことだな」と思われることはあると思います。

■「いないいないばあっ!」の曲は“詞先”


―― 曲の作りかたについて、詞が先でしょうか、曲が先にできるのでしょうか?

鈴木:基本的には、詞が先です。子ども番組は詞が先のパターンが多いと思います。

―― それはなぜですか?

鈴木:“言葉を大切にしたい”ということがあります。いろんな言葉にはじめて出会う時期の子どもたちなので、メロディが先にあって言葉を合わせるより、言葉の持つ日本語のイントネーションを大切にしながらメロディをつけていきます。

ただ、全部詞ができたらいじらない、ということはなく、微調整はあります。作詞作曲が同じ方の場合はデモの段階で両方出来上がっていますが、基本は詞が先です。

―― 0〜2歳児向けの詞というと、文章というよりは音の部分でしょうか。

鈴木:そうですね。小さい子どもたちは擬音が大好きなので、「ぱぴぷぺぽ」やくり返しのある面白い響きの言葉は入れるようにしています。

「じゃんぐるビート」も“わーわー”“きゃーきゃー”が入ってますし、「ほっぺっぽ!」も“さらさら こしょこしょ”とか。“ぺっ”“ぽっ”といった破裂音も子どもは大好きですよね。……詞だけを見てると「なんだろう?」って思いますけど(笑)。

「けけけ」もそうですね。髪の毛を切るっていうのは子どもにとって身近な話題ですし、“けけけ”や“つるんつるん”という言葉と音の面白さがマッチしています。

ワンワンの歌で、いろんな国の“ありがとう”の言葉がたくさん出てくる「サンキュ!ワンワン399」というのがあるんですけど、それも“外国語のお勉強”ということではなくて、「メルメルメルメルメルメルシー」のように、呪文みたいな言葉の響きを面白がる、ということですね。

■体操曲は“詞先”ならぬ“動先”


鈴木:「わ〜お!」は、普段の新曲とは違い“体操”なので、赤ちゃんの発達を刺激する動きをベースに開発しています。赤ちゃんがぴょんぴょんとジャンプする動きを入れたり、ハイハイや、手先を動かすのも発達に大事ということで、“ぴぴぴ(指をさす動き)”を入れたり。この“ぴぴぴ”には、親子でつんつんしてコミュニケーションをしてほしいというねらいもあります。赤ちゃんの体操で取り入れたい動きに面白い言葉をつけているので、歌詞にしっかり意味がある、ということではないんですね。

『いないいないばあっ!』の動きにはジャンプがとても多いんです。ジャンプするの好きですよね、お子さんたちは。「わ〜お!」の開発には、振り付け師のラッキィ池田さんも参加されていて、たくさんのおもしろいアイデアをいただきました。

最初はまだ歩けなくて「わ〜お!」の“だんごむし”の部分をやっていた子が、番組を見ているうちに立ってピョンピョンできるようになる姿を見て、お子さんの成長も感じてくださればと思います。

▲おねえさんがふうかちゃん(2003〜2007年出演)だった時の人気曲「げんき げんき!」が再登場
© NHK


■“子ども相手”だからこそ本物を聴いて欲しい


―― 「赤ちゃん向けの歌」を作っているとのことでしたが、それでも大人から見ると高度なテクニックの楽曲だなあ、という気がします。音楽のジャンルでいうと「プログレ」や、「ジャズ」「ファンク」に由来するような曲も多い気がしますが。

鈴木:いろんな作曲家の方にお願いしていることで、楽曲に幅が出ますし、赤ちゃんにいろんなジャンルの歌を楽しんでもらいたいと思っています。メロディがシンプルでもアレンジが凝っているものも多く、作詞・作曲の先生も演奏しているミュージシャンのみなさんも真剣勝負で、子ども相手だからこそ本物を聴いて欲しい、という思いがあります。

―― 結構難しいテンポの曲があると思うのですが、最近の曲ですと「チャックのうた」。あの曲、大人が歌おうとするとしんどいですよね(笑)。でも家で子どもを見ていると、ちゃんとあわせていっしょに歌っているんですよね。

鈴木:曲を作ってくださった山下(真木子)先生が、普段子どもとたくさん接している中、“子どもが好きな動き・好きな音”ということで、チャックを挙げたのがきっかけでした。「♪ズーーッ チャック!」という音の楽しさが先にあるので、赤ちゃんたちが曲を全部歌えなくてもかまわなくて、部分的に「ここやりたい」「このフレーズが好き」と楽しんでもらえればと思います。

―― 歌以外にも、短いコーナーのSE(=効果音)にもいろいろな音を使っていますよね。

鈴木:赤ちゃん向けということで、音の刺激を大事にしています。短いコーナーにつける音も番組オリジナルの音源で、その都度独自に作っていただいています。

そして、ものすごく手間をかけて作ったものを何回も放送しています。小さい子は「自分が知っているものが出てくるとうれしいのでくりかえし見る」と発達心理の研究でも出ているようです。たとえば同じ絵本を何回でも読んだり、次のページも、展開がわかっていても同じところで笑う。そのときの成長度合いで感じ方も変わるので、ひとつひとつ丁寧に手間をかけて作って、それをくりかえし番組の中で構成しています。

■20年前の幼児番組事情と“赤ちゃん研究”


―― ターゲットとなる0〜2歳というのは、赤ちゃんから、走り回る子どもまで幅広く、それをすべて網羅したものを作るのは大変かと思うのですが……。

鈴木:そうですね、先生方に監修していただく部分もあります。また、番組を20年間やってきたという部分、そして「わ〜お!」を踊ってくれる子どもたちがスタジオに来るので、その子たちの様子で「このくらい出来るんだな」というのもわかります。

―― そうなのですね。

鈴木:『いないいないばあっ!』が誕生する前は、赤ちゃん向けの番組はありませんでした。『おかあさんといっしょ』が幅広い年齢をターゲットにしていましたが、4〜5歳と1〜2歳というのはけっこうな開きですよね。

そこで、赤ちゃん向けに≪シンプルに≫≪短いコーナーで≫≪音と映像の組み合わせ≫≪感覚に訴えかけるもの≫を作ろうということになり、差別化したものを作ることにしました。

番組がはじまった当初から、専門の先生方に番組を見てもらい、赤ちゃんの反応を定期的に見ています。

■「ワンワン」という存在について


―― 番組を子どもと一緒に見ていると、ワンワンが大人向けに細かいギャグを入れてきますよね。

鈴木:ワンワンは「子どもはわからないかもしれないけど親は楽しいこと」をよくはさんでくるんですよ。でも、親が楽しんでいるのは子どもにとってもいいことだなと思っているんです。……ただ、親も元ネタを知ってないとわからないのありますよね、ワンワン5歳なのにね(笑)。

―― あの……ワンワンって、「すっごいかわいい」というフォルムとはちょっと違うといいますか。でも子どもは本当にワンワンのことが大好きで、子どもの心をひきつける何かがあるのかなと……。

鈴木:“ふわふわしている”ということは大事にしていますね。子どもがぎゅーって抱きつきたくなるような、ふわふわ感。白いから毛のお手入れも大変なんですよ。

もしかしたら、 “しゃべり方やしぐさによって生きる”というか、ワンワンにしかない独特の親しみやすさが出るのかもしれませんね。

ゆきちゃんをはじめ代々の女の子は、赤ちゃんにとって少しだけ年上のおねえさんです。うーたんは赤ちゃんと同じ年代で一番近い存在です。そしてそこに話しかけている元気いっぱいのワンワン……というのが、見ている赤ちゃんにも親しみやすいのではないでしょうか。

メインの出演者が大人じゃないというのも大事かなと思っています。「おねえさん、おにいさん」として上からではなく“うーたんもワンワンもゆきちゃんもみーんなおともだち”と視点を低くして作っています。

▲いつも元気なワンワンとうーたん、そしてゆきちゃん
© NHK


■「ジャンジャン」の気になる今後について


―― 2016年度、毎週木曜日にジャンジャンのコーナーがありましたが、今年度はどうなるのでしょうか。

鈴木:まだわからないですね。メモリアルイヤーということで毎週木曜日はパクパクさんのガッチャンポンマシンのコーナーがありました。1月以降はさらに「ジャンジャンのおさんぽ」というコーナーがあったんですけど、あの……うわさがすごく広がっちゃって(笑)。

(※筆者注:昨年度末、“ワンワンが引退しジャンジャンがメインになるのではないか”という憶測がインターネット上で多く見られ、NHKへの問い合わせに対して番組が正式に否定するという出来事があった。)


鈴木:ジャンジャンは自由な、型にはまらない感じで、「ワンワンわんだーらんど」でもすごく人気なんですよね。「わんだーらんど」と「いないいないばあっ!」は“ファミリー”という形で、みんなで盛り上げていきたいと思っています。

▲親子が一緒に歌って踊って遊べるステージ「ワンワンわんだーらんど」の出演者たち
© NHK

―― 今後も本編のほうに遊びに来てくれるとうれしいです。

鈴木:そう言っていただけるとジャンジャンも喜ぶと思います。なんせ20年の間に、ワンワンにもたくさんおともだちができました。そういうワンワンファミリーが番組に遊びにくることはこれからもあるかもしれませんね。

―― 「ワンワンわんだーらんど」は今年も渋谷・NHKホールでの開催が発表されていました。昨年拝見しましたが、私、人生ではじめて“アイドルうちわ”を作りまして(笑)。3階席までワンワンやみんなが来てくれて、あのホスピタリティはさすがだなあと思いました。

鈴木:「ホスピタリティ」と言っていただけると大変うれしいです。「わんだーらんど」のみんなは、サービス精神旺盛な方が多くて。2階席や3階席が置いてきぼりにならないよう「みんなであそぼう!」というのはすごく考えているんです。

間近で反応がわかるので、スタッフもキャストもやりがいを持って作っています。ぜひ放送もご覧になっていただければと思います。
(『あつまれ!ワンワンわんだーらんど』 NHK Eテレ 毎月最終日曜 7:30〜8:00放送)

■21年目の「いないいないばあっ!」はいま、何を見つめているのか


―― 2017年度、21年目を迎える『いないいないばあっ!』ですが、今後の展望についておきかせください。

鈴木:原点に戻るといいますか……“赤ちゃんに寄り添っていい番組を作っていくこと”は大事にしようと思っています。

長くやってると、途中で“工夫”というか、ちょっと変わったことをしたくなるんですけど、それによって複雑になって目線が高くなってしまうことは戒めないといけないなあ、と。

「これ、前やったしなあ」と試行錯誤するうちに、複雑になってしまうのは避けたいです。番組タイトルじゃないですけど、いつの時代も赤ちゃんは「ばあっ!」ってやるだけでケラケラ笑うという、シンプルさを忘れないようにしていきたいなあと思っています。

そしてお母さんやお父さんもいっしょに、“教育”とかしこまった感じではなく、お子さんといっしょに絵本を見るような感じで番組を見ていただいて、何年もたったあと「子育て大変だったけど、あのころワンワンやゆきちゃんたちを見て楽しかったな」と、いい思い出になっているといいなあと思うんです。

▲4月から始まったゆきちゃんの新コーナー「ゆきのまほうのへや」
© NHK

―― このあいだ下の子の寝かしつけで「おやすみモウフー」を歌ったんですけど「ああ、むかし、上の子の寝かしつけでさんざん歌ったなー」と、よみがえるものがありました。

鈴木:歌とか音楽っていろんな記憶がくっついていて、何年後かにその曲を聴いたとき、急に当時の情景が思い浮かぶことありますよね。

たとえば、子どもが小さいときにお母さんが歌った番組の歌が、お子さんが大人になって孫ができたときに、世代を超えてまた聴ける……というのはとても素敵だと思うので、歌い継いでいくことを大切にしていきたいと思います。

今はまだ20年ですけど、もっともっと長くがんばっていきたいと思っています。

▲4月から登場した新曲「のりものステーション」はつんくさんの作詞・作曲。赤ちゃんが大好きなのりものがテーマ
© NHK


ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。