パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員として働いている伊藤由美さん(仮名・28歳)にお話を伺いました。由美さんは暗めのトーンの茶髪のロングヘアを後ろに1つにまとめ、長袖のカットソーの上から、フレンチスリーブのカシュクールタイプになったワンピースを着ていました。肌色のストッキングには、ローヒールのバレエシューズを合わせていました。使い込まれてクタっとしていたベージュのトートバッグには、クリアファイルやステンレスボトルなど、日用品が入っているのが見えました。

一見して、どこにでもいるようなOLファッションの由美さん。買い物はネットで済ますことが多いそう。

「洋服とか、通販サイトや人気のあるECショップで買っちゃいますね。試着しないで買うので、返品送料無料の商品を選んで、わざと2サイズ注文するんですよ。それでサイズが合わない方を返品しています」

将来が不安で、お金を使うことに抵抗があるそう。

「特に趣味もなくて。家に帰ってからは連ドラを観たり。今は英会話の勉強をしようと思っていて、夜はラジオ講座を聴いています」

“30歳までには正社員になりたい”と言う由美さん。そんな彼女に、どうして派遣で働いているのか聞いてみました。

由美さんは、埼玉県の北部で生まれ育ちました。

「地方出身の人に、埼玉って言うと“近いじゃん”って言われるのですが、都心に出るのに1時間半近くかかるんですよ。駅から家まで歩けるけれど、30分ほどかかるので、クルマで迎えに来てもらわないと遠いんです。なので、高校まではずっと地元で過ごしていましたね」

建設現場で働く父と、スーパーのレジ打ちとして働いていた母、3歳年上の兄という家庭環境で育ちました。

「父も母も、パソコンを使うような仕事をしていなかったんですよ。兄は兄で、高校になったらちょっと悪いグループみたいのに入ってしまって。家に彼女を連れてきたり、隠れてタバコを吸ったりして。母親がずっと兄の面倒ばかり手を焼いていましたね」

大学受験を志しますが、受験勉強の仕方がわからなかったと言います。

「定職に就かずにふらふらしている兄の姿を見ていて、大学に進学したいって思ったんですよ。でも父も母も高卒だし、どうすればいいのだろうって思って。進学率があまりよくない高校だったのですが、担任の先生が親身になって相談に乗ってくれて。県内にある女子大なら推薦で行けるかもしれないと、内申書などを作成してくれたんです」

推薦入試を利用し、念願の大学に入学が決まります。

「学費がかかるので、最初は良い顔をしなかったのですが、受かったら父も母も喜んでいましたね」

在学中は、就職に有利だと言う資格試験の勉強のため、毎日のように自習室を利用していた。

「何か資格を取ろうと思ったのですが、教員免許って教育実習があると聞いて、人前で話したりするのが苦手なので辞めたんですよ。その代り、秘書検定や日本語ワープロ検定試験を取りました」

大卒=エリートコースという図式を信じていた……

就活を始めてみると、予想に反して苦戦を強いられます。

「入学前に大学の就職先や就職率を見たら、90%ぐらいになっていたんですよ。でもそれって、正規雇用以外のも含まれていたり、全然希望している就職先ではなかったりしているんだって、後で知りました」

結局、一社だけ内定を貰えましたが、いわゆるブラック企業でした。

「就職先は、小さな印刷会社の事務でした。隔週で土曜日勤務がある週6勤務で、手取りが16万くらい。もちろん、朝は早くて残業代はつかないような労働環境で。夢見ていた大卒以上の仕事で、これだとは思いませんでした」

大卒になれば、楽な仕事を手に入れられると思っていたと言う由美さん。

「職場が、少人数でやっていたので風邪くらいでは休めなかったんですよ。凄い生理痛でも鎮痛剤を飲んで我慢したり。父が汗水たらして働く系だったので、デスクワークってずっと楽だと思っていたんです。でも実際は違いましたね」

ついに、緊張の糸が切れてしまいます。

「職場に同期がいなくて、年配の社員ばかりで気が抜けなかったんですよ。あと未だにお茶当番みたいのがあって、毎朝、準備をさせられたり。会社ってそういうものなのかなって思っていたのですが、大学時代の同級生と集まった時に、みんなもっとキラキラしているというか、同僚と遊びに行ったりしていて……。ちょっと、ずっとこのままここで働くのもきついなって思うようになりました」

学生時代は授業のレベル自体も低かったため、社会に出てから知らない言葉や知識が多く、苦労したと言います。

新卒で入社した印刷会社を、3年で退社した由美さん。転職でステップアップ予定が、まさかのハローワーク通い? その2に続きます。