関連画像

写真拡大

他部署の男性と性的関係を持ったことを、社内でバラしてしまった部長に慰謝料を請求できるのでしょうかーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにある女性から、そんな相談が寄せられました。

相談者は、過去に一度だけ、他部署の男性職員と性的関係を持ちました。そのことを男性が他の職員に話したところ、事務部長の耳に入ったそうです。事務部長は他の職員がいる状況で、男性に「あいつとやったんだろう、どうだったか」と聞き、詳細を話させました。女性は他の職員から「あいつと寝たのか」と聞かれてこのことを知ったそうです。

女性は、「人が知られたくない内容を職場のみんなの前で話すという事は罪にならないのでしょうか。働きにくくなりました」と話しています。今回のケースは、セクハラや名誉毀損にあたるのでしょうか。加藤寛崇弁護士に聞きました。

●「損害賠償請求や処分を求めることは可能」

「『人が知られたくない内容を職場のみんなの前で話す』行為が罪になるかどうか。今回のケースでは、名誉毀損罪とセクハラに該当するかどうかの観点で検討していきます。

まず、刑事上の名誉毀損罪に該当するかどうか。名誉毀損とは『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する』(刑法第230条第1項)と法律で定められています。

相談者のケースでいえば、部長が話した内容の具体的事実関係次第では、名誉毀損罪に当たる行為になり得ます。社内の特定の少人数であっても、その人たちが別の人に話し広まる可能性が予想でき、そのことによって、相談者の名誉が傷つけられたといえる場合です。

しかし、今回のような本件の部長の行為が刑事上の名誉毀損罪として処罰に至る事例はあまりなく、現実問題として、今回のケースでも可能性としては低いです。

そこで、相談者の目的が、部長の行為について何らかの制裁を与えたり是正を求めることであれば、部長に対する不法行為に基づく損害賠償請求や、会社に対して部長の行為がセクハラであるとして処分を求める対応ができます

また、民事上でも『他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる』(民法723条)と定めており、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

民事上でも名誉毀損が成立する要件は異ならないので(必要な証明の程度は異なりますが)、具体的な事実関係次第では民事上の名誉毀損に該当するとして損害賠償請求の理由になります。ですが、セクハラを理由に損害賠償請求するのに加えて名誉毀損を主張しても、それで賠償額が増えるわけではありません。

本件は、職場に性的な言動を持ち込まれて就労環境が悪化されたわけですから、セクハラとして問題にする方が実態に即していると思われます」

今回の部長の行為は、セクハラに該当するといえるのか。

「『セクハラ』とは、一般には『相手方の意に反する性的な言動』と定義されることが多いです。厚生労働省の指針では、『性的な言動』には『性的な内容の情報を意図的に流布すること』も含まれるとされており、部長の行為は、これに該当するとして、部長の処分を求めることが考えられます。

もっとも、部長が、他の職員がいる状況で男性に性行為の状況等を尋ねたという事実について、他の職員がどの程度いたのか(1人くらいしかいなかったのか)等の事情によっては意図的に流布したとまでは言えないことになりそうです。

しかし、元々『セクハラ』は法律で定められた要件ではありません。厳密にセクハラに当たらなくとも、それに準ずる行為であるとして、損害賠償請求をすることは可能ですし、会社に是正を求めることはできます」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東京大学法学部卒。2008年弁護士登録(三重弁護士会)。労働者側で労働事件を扱うほか、離婚事件など家事事件も多数扱う。日本労働弁護団、東海労働弁護団に所属。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/