悩ましい隣国に大前研一氏が物申す

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 混乱を極める国際情勢を、どのように理解すればよいのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本にとって悩ましい隣国のひとつ「中国」の役割について論じる。

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 中国は、韓国が米軍の最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の配備を計画していることに対して激しく反発し、その用地提供に同意したロッテの中国国内の店舗に大量閉鎖を命じたり、中国の旅行会社に韓国への団体旅行を停止するよう指示したりしている。およそ自由主義の国家ではあり得ない政府による干渉と圧政だ。

 そうした横暴を可能にしているのは習近平国家主席の独裁政治、すなわち「習近平一強」体制である。

 最近も、中国の王毅外相は演説の中で、朝鮮半島情勢について「赤信号を灯し、同時にブレーキを踏むことが必要だ」と指摘し、「迫りくる危機を回避する」ため、北朝鮮に核実験やミサイル開発の停止を求める一方で、朝鮮半島有事を想定した恒例の米韓軍事演習を一時停止するよう警告した。

 だが、そもそも北朝鮮の核問題を外交的に解決することを目指す6か国協議の場に北朝鮮を引き戻し同協議を再開するのは、議長国の中国の役目のはずだ。その役目を全く果たさず、挑発行為を繰り返す北朝鮮を野放しにしたまま日本やアメリカ、韓国を非難するのは無責任極まりない。

 さらに、王毅外相は記者会見で、日本に対し「今年は中日国交正常化45周年だが、同時に盧溝橋事件80周年の年でもある。45年前に日本の指導者は(日中国交正常化によって)歴史を反省したはずだが、今日に至るもなお、日本には歴史の逆行を目論む者がいる。我々は日本との関係を改善したいが、そのためには日本がまず“心の病”を治さなければならない」と発言した。

 呆れて開いた口がふさがらないとはまさにこのことだろう。歴史を直視しないのは中国のほうであり、共産党が中国人民を日本軍から解放したとする捏造をはじめ、チベットやウイグル、香港、南沙諸島などに関する中国の“唯我独尊病”のほうが、よほど深刻ではないか。

 王毅外相はもともと駐日大使も歴任し、日本語も堪能な日本通だ。外国人へのヘイトスピーチや国粋主義的な勢力がある一方で、それに対する反発も大きい日本の実情は重々承知しているはずだ。にもかかわらず、あえて前述のような日本批判を展開するのは、彼が習近平の顔色しか見ていないということにほかならない。

 いま、習近平は「別格の指導者」を意味する「核心」という肩書で呼ばれている。政権ナンバー2の李克強首相でさえ、第12期全国人民代表大会(全人代)の演説の中で8回も習近平に言及し、「核心」の表現を連発したとされるほど“隷従”しているのだ。

 中国では今秋、共産党大会が開催され、習近平が2期目5年間の最高指導者として再任される予定だ。さらに、現在のいわゆる「チャイナ7」(7人からなる最高指導部=政治局常務委員会)の大半が交代し、毛沢東時代の権力集中の反省から廃止されていた党主席制の復活も予想されている。党主席になれば現在の「68歳定年制」が有名無実化し、さらに次の5年も続投可能になって「習近平一強体制」が完成するだろう。

 江沢民政権時代は朱鎔基首相、胡錦濤政権時代は温家宝首相のようなマイルドで“まともな”話ができる人物がいたが、次期習近平政権では「核心」に対して意見・反論できる人間は1人もいなくなると思う。

 その一方で、中国経済はいつバブルが崩壊してもおかしくない状況だ。中国主導で創設されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、私が事前に予想した通り、参加国は増え続けるが独自案件がほとんどないというお粗末さである。また、政府は原発を続々と建設している一方、住民の反対は根強く、使用済み核燃料が国内に溢れ返っている。とにかく、いろいろな面で「習近平一強」体制の中国は世界動乱の“核心”となりかねないのだ。

※週刊ポスト2017年4月28日号