Netherlands' prime minister and VVD party leader Mark Rutte (C) arrives to cast his ballot for Dutch general elections at a polling station on March 15, 2017 in The Hague. (c)


 自分は黒子になってでも組織の一体感を作ろうとする人。
 組織の一体感を損ねても自分の主張を通そうとする人。

 いずれの人間を出世させるべきか。それは答えを言うまでもないだろう。前者を出世させ、幹部に据えることができた場合、会社は繁栄の道を歩み始める。一方、後者を出世させ、幹部に据えた場合、会社は内部崩壊の道を歩み始める。

 以前、前者のような人とお会いしたことがある。

 A氏とB氏は大学の同級生で、2人で起業。何となくの流れでA氏が社長、B氏は専務という肩書で事業をスタートさせた。A氏はITの技術者で社内で受注した業務を行い、B氏は営業で社外に出て仕事を取ってくる。そんな役割分担になっていった。

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売り上げのほとんどを稼ぐのに・・・

 業績は順調に伸び、従業員は増え、会社の規模は順調に拡大していった。会社として多くの従業員を抱える中で、リーダーシップを発揮するのはB氏、A氏は黙々と作業をやっている。

 そのため、社内のトラブルや社外のトラブルに関してもB氏が中心となって対応していた。B氏は豪快なキャラクターで人望は厚く、社内外問わず多くの人間から慕われ、自然と多くの仕事が集まり、売り上げのほとんどは彼が取ってくるようになっていた。

 B氏が社長をやった方がいいのではないか。社内の人間であれ、社外の人間であれ、そう思っても不思議ではない。B氏が会社の実権を握ろうと思えば握れる状況にあった。

 しかし、B氏はあくまでも社長はA氏であって、自分は社長の右腕のポジションなんだという姿勢を崩さない。そんなB氏はこう話した。

 「僕はこの会社の実権を握りたいなんて思わないです。そんなことより一体感のある組織を作ることの方がずっとやりがいがある。社長はAで僕は専務、一度決めたことをひっくり返すようなことをすると会社の一体感はあっという間になくなる。僕はAが仕事をしやすいように彼が苦手なところを受け持っているだけです」

 続けてB氏はこう言った。

 「それにAはすごい奴なんです。Aのすごさをみんなに伝えることも僕の役割だと思っています」

 そう言って、A氏を立てるB氏に改めて頭が下がる思いがした。このB氏は部下に対しても見事な気配りをする。

 「部下の面子を潰すようなことはしてはいけない。例えば、課長が部長をすっ飛ばして直接、僕に相談してくることがあります。そんな時は相談内容を聞いたうえで、極力、まずは部長に相談するように言います」

 「そこで僕が直接課長に指示してしまうと、部長の面子を潰すことになりますから。それはやっちゃいけない」

 こういった気配りがさらに部下からの人望を厚くする。

セルフイメージが変わると態度も変わる

 人は「自分はこういう人間だ」というセルフイメージを持っている。セルフイメージとは例えば次のようなものが挙げられる。

 「自分は仕事ができる人間だ」
 「自分は仕事ができない人間だ」

 「自分は人気者だ」
 「自分は嫌われ者だ」

 「自分は社内で認められている」
 「自分はまだまだ認められていない」

 このセルフイメージはその人の発言や行動、態度に大きく影響する。そのため、セルフイメージが変化するとその人の発言や行動、態度が変化し始める。

 仕事ができる人間というのは遅かれ早かれ社内で一目置かれ、時が経つにつれ周囲に対して影響力を持つようになる。それとともに自らのセルフイメージも「自分はこの会社で強い影響力を持つ人間だ」と変化し、セルフイメージの変化と共に行動も変化する可能性がある。

 また、誰かを出世させるということは、もともと持っている影響力に会社がお墨つきを与えるということを意味する。お墨つきを与えられ、肩書きやポジションが変わると、セルフイメージはより大きく変化する。

 この時にその人間が、その影響力を生かして組織の一体感を作ろうとするのか、組織の一体感を損ねてでもその影響力を利用して自分の主張を通そうとするのか、いずれの動きをするかで、その会社の命運は大きく変わる。

 前者のタイプの人間を出世させ、経営陣と近いポジションに据えることで組織は成長への道を歩み始める。先のB氏はまさに前者の例と言える。こういった人が組織の一体感を醸成するような動きをする時、その組織は大きな成長を遂げるだけの土壌が整う。

 一方で、後者のタイプの人間を出世させると、何らかの不満を持った時、影で社長や会社の不満を言い、周囲を巻き込んで社内で派閥を作る。場合によっては、それが経営者にとっての抵抗勢力となり、組織が分裂していく。

ドラッカー曰く「権限と権力は全く異なる」

 私は経営コンサルタントとして大小様々な会社を見ているが、会社が内部崩壊する最も多いとも言えるパターンが、このパターンである。そのため、後者のタイプの人間を出世させることは組織崩壊への第一歩となる。

 こう考えると、「仕事ができるかどうか」という判断基準だけでその人間を出世させるということが、いかに危険かがお分かりいただけると思う。

 組織の中でより強い影響力を持たせるかどうかを判断するにあたっては、「仕事ができるか」という基準のみならず、「組織を成長させることができるか」という基準からも見なければならない。

 ドラッカーはこう言っている。

 「権限と権力は全く異なるものである。マネジメントはもともと権力を持たない。責任を持つだけである。その責任を果たすために権限を必要とし、現実に権限を持つ。それ以上の何物も持たない」

 組織の一体感を醸成し、組織を成長させるという責任を遂行しようとする人間にはより高いポジションを与え、より強い権限を持たせる。

 一方、組織を成長させるという責任の遂行よりも、自らの主張を優先し、権力を振りかざそうとする人間には、高いポジションを与えてはならず、影響力も抑止していかなければならない。

 組織の成長をもたらすためには、こういった観点から人事を考える必要がある。

 ITの会社を起こし、一代で数百人の従業員を抱えるまでに会社を成長させた方がいる。その方が社長を引退した後にこんなことを話されていた。

 「自分は最後の最後に一番やってはならないミスをした。それは後継者の人選だ」

仕事ができる後継者が1年で会社を窮地に

 その方はITのスキルの高い技術者を後継者候補として専務取締役に抜擢し、大きな権限を与えた。つまり、「仕事ができるか」という基準に重きを置いて後継者の人事を決めた。

 しかし、専務取締役の座に就いて間もなくすると、彼の行動が変化し始める。技術者の視点から自らの考えを一方的に現場に伝えるようになり、現場はこれまでにない指示を受け、混乱をきたすようになる。

 その結果、業績が下がり始めるが、業績が下がった責任を現場に押しつけ、現場の人間を叱責するようになる。現場からは不満の声が上がり、見るに見かねた社長が専務にそのことを指摘するが、彼は自らの非を認めようとはしない。

 とはいえ、優秀な人材であると彼を信じ、社長の座を彼に譲った。それからたった1年、その会社は再起不能なまでの状態に陥ってしまった。

 これは後継者という最も重要な人事において、仕事はできるものの組織を成長させる力のない人材を抜擢した結果、もたらされた悲劇であると言える。

 もし自分が社内で影響力を持つ状況にあると感じているならば、是非、「組織の一体感を醸成し、組織の成長をもたらすためには、自分はどう動けば良いのか」という意識を持つようにしてみてほしい。

 そういった意識を持った人間こそが、経営陣が求める真の優秀な人材であり、組織に繁栄をもたらす存在なのだから。

筆者:藤田 耕司