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市場にはVirtual Reality(VR:仮想現実)デバイスが並び、新しい世界を楽しめる時代となった。だが、Microsoftは新たな未来を築くのはMixed Reality(MR:複合現実)であると、Windows 10を搭載した自己完結型ホログラフィックコンピューター「Microsoft HoloLens」(以下、HoloLens)を推奨し、2017年初頭から日本市場での展開を始めた。

現時点では開発者向けの「Microsoft HoloLens Development Edition」(税別333,800円)、法人向けの「Microsoft HoloLens Commercial Suite」(税別555,800円)のみとなり、コンシューマー向けHoloLensは存在しない。だが、MRが描く世界に興味を持つ読者諸氏も多いことだろう。今回は、日本マイクロソフトと小柳建設による導入事例を紹介しよう。

小柳建設は、HoloLensを用いた施工主とのビジョン共有や、建築時に必要な書類のデジタル化などを実現する「Holostruction」(ホロストラクション)のコンセプトモデルを披露した。Holostructionは、「透明性を高める」「安全性を高める」「生産性を高める」という3つの概念をもとに、業務トレーサビリティ(追跡可能性)の向上、BIM(Building Information Modeling)・CIM(Construction Information Modeling)データの活用、新しいコミュニケーションアイディアの実現を目指す。

業務トレーサビリティを必要とする背景には、施工の可視化がある。「(建設業界は)データ改ざんや耐震偽造など、業界全体が不透明だとレッテルを貼られる」(小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏)が、実際は建築のプロが多くのことを判断しており、素人が見ても分からない世界だ。

この点について国土交通省は、ICTを建設現場に導入することで、システム全体の生産性向上と建設現場の改善を目指す「i-Construction」(アイ・コンストラクション)を推進している。その一環として、小柳建設はMicrosoftのHoloLens用グローバル開発プログラムに参加し、Holostructionの実現を目指してきた。

2つめのBIM/CIMデータ活用は、工事検査時に発生する検査員の不足や負担を軽減するため、設計から工事、メンテナンスに至るまでの、建設物の3Dデータや書類データをデジタル化。1つの建設物に関する資料を一括管理する。「将来的にはHoloLensだけで検査が完了するような世界」(小柳氏)を目指すという。

また、新しいコミュニケーションアイディアは、建設現場へ物理的に移動できない場合や危険な場所といった課題を解決するため、HoloLens経由で遠隔地の視界共有を可能にする。実際に試した小柳氏は「テレポーテーションしたような感覚」と表現していた。今回のHolostructionはあくまでもコンセプトモデルだが、実際のデータはとある橋梁(きょうりょう)の建設データをもとにしている。実証実験などを経た現場導入の時期を確認したところ、2017年度中の展開を目指すと述べていた。

今回の取り組みについて日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏は、「他国と比べても日本におけるHoloLensの盛り上がりは高い。今回は日本航空(JAL)に続く2社めの導入事例となるが、日本マイクロソフトもコンサルチームと連携して支援する」と、前向きな姿勢を見せた。なお、Holostructionのイメージは少々分かりにくいため、興味をお持ちの読者諸氏はYoutubeの動画視聴をおすすめしたい。

非常に興味深かったのは、Holostructionの体験会である。日本マイクロソフトの担当者が操作を行い、記者たちはそれを目にするだけだったが、これまでHoloLensを体験してきた中で1番のインパクトを受けた。

前述したガンチャートを空間に映しだして、建築の進捗状況を3Dモデルとして確認できるのは、説明どおり。だが、タイミングに応じて建築中の橋脚に使われている1本1本の鉄筋を目の前にし、3Dモデルサイズを1分の1まで拡大して橋梁のイメージを目にすると、MRの可能性を強く感じるのだ。

筆者はJALのボーイング787型用エンジン整備士訓練用ツールを実際に試したことがあり、その時は目の前にある巨大なエンジンの細部がデジタル的に再現されるにとどまっていた(それでも凄いこと)。今回の体験では、日常生活で利用する橋梁(きょうりょう)が目の前あるインパクトは非常に大きい。

加えて、Windows Holographicを対象にしたアプリケーションの開発に役立つスクリプト&コンポーネント集、「HoloToolkit」に含まれる「Sharing」も実際に体験できた。専用サーバー経由でHoloLens同士を相互接続し、互いに影響を及ぼすアプリケーション構築が可能になるというものだ。筆者を含めた体験者3人がHoloLens経由で同じコンテンツを目にすると、視点の先には配色済みのカーソルが現れる。コンテンツの操作は禁止されていたが、Sharing機能を使うことで、小柳氏が述べる「新しいコミュニケーション」の形を作り出せることが確信できた。

HoloLensは開発者や法人向けMRデバイスのため、エンドユーザーが今日明日使うことはないだろう。だが、普及→低価格化→さらに普及……となれば、日常生活の中にMRデバイスが溶け込むかもしれない。今のスマートフォンと同じように、手放すことが難しい情報端末となる可能性は否定できないのだ。MRデバイス/コンテンツが、我々の仕事や生活を変える鍵となる将来はそこまで来ている。

阿久津良和(Cactus)

(阿久津良和)