<多宗教を認める「多様性の中の統一」を国是とし、寛容と協調の精神に基づく民主国家を標榜してきたインドネシアで、人口の9割を占めるイスラム教徒の結集を呼び掛ける候補がジャカルタ州知事選に勝利した。インドネシア民主主義は巻き戻すのか>

インドネシアの首都ジャカルタを擁するジャカルタ特別州の次の5年間の首長を決める知事選の決選投票が19日行われ、複数の民間の調査機関による開票速報でアニス・バスウェダン前教育・文化相が現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)知事を抑えて初当選することになった。

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2月15日の1回目投票で過半数を確保した候補者がいなかったことから上位2候補によって争われた今回の決選投票だが、1回目でトップとなったアホック候補は前回とほぼ同じ42%前後の得票だったものの、アニス候補は3位で敗退したアグス候補の17%を前回の40%に加算した50%後半の得票で勝利した。選挙管理委員会(KPU)によると投票率は1回目と同様の77%前後で、最終的な得票数は数日後に確定される。

今回の知事選では単なる政治手腕、実績に加えて、アホック知事が選挙期間中に「イスラム教徒を冒涜する発言」があったとイスラム急進派が攻撃する事態に発展。「イスラム教徒は非イスラムの指導者には従えない」「アホック候補支持者への攻撃は許される」など急進派の「言いがかり的攻撃」があった。アホック知事は「宗教冒涜罪容疑」で裁判の被告となるなど、選挙戦は宗教論争に発展し苦しい選挙戦を強いられた。

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アホック候補は「イスラムを尊重している」と再三繰り返したが、"イスラム教徒代表"を自任するアニス候補はイスラム寺院「モスク」への訪問とイスラム教徒の結集を訴えてイスラム教団体やイスラム指導者らの支持を取り付け、じわじわと共感を広げていった。選挙戦後半にはジョコ・ウィドド大統領やユスフ・カラ副大統領、両候補がそろって「選挙の争点は宗教ではない」「宗教や人種、出身地で候補を選んではいけない」と宗教色の一掃をマスコミを通じてアピール。治安当局も投票日に6万人を動員してイスラム急進派の動きを警戒する事態となった。

社会不安を煽る宗教

アホック知事は人口の圧倒的多数を占めるイスラム教徒ではなく、ジャカルタ以外の地方出身の中国系インドネシア人であることから、インドネシアのタブーとされる「SARA(宗教・民族・人種・階層)」に選挙の争点が移るとインドネシア全体の社会不安を煽る可能性があるとして、大統領以下が一斉に火消しに回ることになった。

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「宗教色を排除しようという動きが逆に宗教を強く意識させる結果となった」(地元紙記者)ことと、アニス候補が公約として掲げた「頭金ゼロで住宅建設を促進」など"実現の可能性が疑問視"されるような貧困層へのアピールが最終的に広範な支持を集めたと分析されている。

ジャカルタ州の住民の多数が「模範的なイスラム教徒で自宅を所有できるという夢を託せる候補」としてアニス候補を選択したといえる。

大塚智彦(PanAsiaNews)