将棋の道は数多くの人間たちと向き合うことだった。高校生の孤独なプロ棋士・桐山零(神木隆之介)のひたむきな挑戦を描く『3月のライオン』。羽海野チカの人気漫画の実写映画、前編が公開中だ。
とにかく、対局シーンの圧が凄く、スクリーンに見入ってしまう。終わった後の充足感といったらないが、まだ後編が待ち受けている。前編だけでこんなに観るのに体力が要るなんて後編はどうしたらいいんだ! という感じだが、またちょっと角度を変えたアプローチになっていて、前編好きな人と後編が好きな人と好みがわかれるかもしれない。
見比べることを楽しめ、かつ、2本観ればより『3月のライオン』が楽しめる、そういう2編をつくった大友啓史監督にインタビューしてみました。なぜ、前後編にするんですか? と聞きながら、インタビューは前後編でお届けします。


前後編の流行に乗るのはいやだった


───前後編の映画が最近多いですが、前後編のスタイルをどう思いますか。

大友 最初、『3月のライオン』は1本の企画だったんですよ。ところが、脚本を作っているうちに1本じゃ描ききれないと思いはじめて・・・。『るろうに剣心』もそうで、原作漫画が長期連載だと、魅力的なキャラクターがいっぱい出てくるでしょう。体感的に言うと、映画1本で登場人物をちゃんと描けるのは、5〜6人が限界です。その点、『ミュージアム』は全3巻だったから、1本の映画にするのにちょうど良かった。『3月のライオン』は10巻を超えていて、そこに登場する魅力的なキャラクターたちをちゃんと登場させるには1本だと足りない。思い切って2本にしませんか、と僕のほうから提案しました。ただ、前編後編にはしたくないと抵抗し続けたんですけどね。名称も含めて。結果的には前編後編となっているけれど、正直納得はしていない(笑)。

───前後編じゃなければどういうふうに?

大友 例えば、『3月のライオン1』『3月のライオン2』とか、『るろうに剣心 京都大火編』のように名前を付けるとか。そうして、1本でもちゃんと観ることのできる映画にしたいと。企画当初は映画の前後編ブームみたいな感じがあって、それに乗っかるというのはいやだったんです(笑)。もちろん2本で零くんの成長物語は完結するけれど、1本で独立して観てもらえる映画にすることをかなり意識して脚本を作りました。

最初、零みたいに恵まれた高校生はいないと思った



───確かに、1本ずつ成立していて、各々面白く見ることができました。前編は男の将棋の世界、後編は、家族と愛の世界と、ずいぶん印象が違っています。

大友 後編──僕はパート2と呼びたいんですが、原作だと最初から、零は川本家と深く繋がっていますよね。例えば、零のお父さん──幸田(豊川悦司)との対局が終わったときに、川本家から「今日ごはん食べにこない」とメールが来る。零は父との対局について川本家に匂わせていないけれど、彼女たちはうっすらわかっていて、きっとしんどい思いをしているだろうからと気にかけているわけです。言葉に出さない優しさで、零と川本家が繋がっているんですね。ただそれをそのまま受け入れると、零が本質的に抱えている孤独が見えにくくなる。だって、そんな温かい「他人」が、映画が始まった時点で彼の傍にいることになりますからね。ですからちょっとシニカルな目で俯瞰して、17歳でプロになって、年間700万円稼いで、ウォーターフロントに一人暮らしして、ときどき橋の向こうの可愛い3姉妹の家で美味しいものを食べさせてもらうなんて、そんな恵まれた高校生はいないよねと。高校のときに自分のやりたいことを何も見つけられないでいた自分にとっては、彼の置かれた状況だけ見ると、どこが孤独だよ、みたいな気持ちになる(笑)。

───そうなんですか(笑)。

大友 最初に原作を読んだとき、あかり(倉科カナ)が酔っ払った零を拾って家に連れていく場面で、自分より幼い中学生や幼稚園の子供がいる家に連れて帰るなんて今の殺伐とした東京ではありえないと思ったんですね。まあ漫画の読者としたら、そしてお酒が大好きな僕としてもね(笑)、そんな夢のようなことがあったらいいなあと。気が付いたらあかりさんみたいな綺麗な女性が側にいて、殺伐とした自分の部屋と違う、女の子たちの住んでいる部屋で眼が覚めるって・・・そういう妄想っていうか、やっぱり現実離れしているから漫画は楽しめるんですよね。ヤングアニマル連載ですからね、まさにヤングなアニマルたちに向けたフィクションというか(笑)。

───ヤングなアニマル(笑)

大友 それは冗談として、もちろん、零のそれは表面的な部分で、内面はかなり孤独なんですよ。その孤独を、より伝えるために、川本家と徐々に関係が深まっていくストロークを描きたいと思いました。だからまず前編で、零の新人王戦を描き、2本目は、新人王戦を経て、ちょっぴり自信を持てて、自分もなにか人に対してしてあげられるのではないかと思えるくらい成長した零が、川本家にコミットしていくのだけれど、もともと将棋のことしか知らないから、好意がずれたほうにどんどん行っちゃって、逆に傷つけることになってしまって、自分も傷ついちゃう。でもそういうことを経て人は成長していくもので、ひいてはそれが将棋の成長にも繋がるんじゃないかと。そんなことをパート2では描こうと思いました。たとえば、男なら、結婚して家庭を持つと、やはり色々な責任を感じるようになりますよね。妻や子供を扶養していくためにがんばるっていうモチベーションで、仕事に対して違う視点を得ることが出来る。それによって仕事のほうも成長できたりしますよね。

成功体験を繰り返すと失敗すると思っています


───将棋の対局のダイナミズムだけでなく、人間性を掘り下げるってことで、続きものというより補完し合うものになっている。

大友 そうです、そうです。

───そういう形の2本立ては面白いですね。内容は別として、2本というスタイルはやはり『るろうに剣心』の成功体験があったからですか。

大友 そんなことはないし、そういうふうに思われるのがすごくいやだった(笑)。『るろうに剣心』の成功に乗っかってるんじゃないかって。

───いやいやいや、そんなふうには(笑)。

大友 そうそんなふうに僕は思ってないんですよ(笑)。むしろ、成功体験をはじめとして同じことを繰り返すと失敗すると思っていますから。『るろうに剣心』のときはあらかじめ、続編につなげていくことを考えて、連続ドラマのように映画を2本作るつもりで作りましたが、『3月のライオン』は違うんですよ。まったく、1本、1本で独立させながら、まさにおっしゃったように、それぞれがそれぞれを補完しあうっていう2本になっているという考え方で。だから、本当は「前編」「後編」ではないんです。違っている映画、でも2本繋がっているように見える作品。こういう作り方が成立するという前例になるといいなあと思って作りました。

───後編は、ひなた(清原果耶)がかわいそうな目に遭うシーン執拗に描かれているのが面白かったです。面白かったは語弊がありますが。

大友 可愛い子がいじめられるのを観るのが好きなんですか?(笑)でもいいよね、ひなちゃん(笑)。
(大友監督はプレスシートで清原のことを「透明感があり、宛役の言葉にしっかり耳を傾け、台詞ひとつひとつを大事に言える子です」と語っている)



後編は、映画にして気づいた将棋の奥深さや、神木隆之介さんや高橋一生さんについてのお話を伺います。

(木俣冬)


Keishi 0tomo
1966年岩手県生まれ。1990年NHK入局。97年〜99年、L.A.に留学し、ハリウッドで脚本や映像を学ぶ。帰国後、朝ドラ『ちゅらさん』、大河ドラマ『龍馬伝』、土曜ドラマ『ハゲタカ』、スペシャルドラマ『白洲次郎』などヒットドラマを数々演出した後、11年に退局し独立。映画『るろうに剣心』シリーズ、『プラチナデータ』、『秘密/THE TOP SECRET』、『ミュージアム』などを監督する。

【作品紹介】
3月のライオン 前編公開中 後編 4月22日(土)公開

監督:大友啓史
原作:羽海野チカ 『3月のライオン』(白泉社・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 染谷将太 清原果耶 
   佐々木蔵之介 加瀬亮 伊勢谷友介
   伊藤英明/ 豊川悦司