ハンニバル・レクターは、国勢調査員の肝臓をソラマメと一緒に食べたと言っていますが、学術誌『Scientific Reports』にこのほど掲載された研究論文によると、食人の目的は、カロリー摂取ではなかったようなのです。人肉は、マンモスや、イノシシ、またはビーバーなどと比べても、栄養価が(努力に見合う栄養価値という意味で)低いことがその研究でわかりました。

ヒトの祖先が共食いをしていた理由


この研究の目的は、人肉が体に良いか(念のために言っておくと、一般的に良いとは言えません。また、食人は、非常に重く治療不可能なプリオン病との関連が指摘されている)を検討するために行われたわけではありません。そうではなく、有史以前のヒト科社会(人間と絶滅した猿人が含まれる)における食人習慣の意味をより深く理解するためです。

考古学で、有史以前のヒト科が食人を行っていたとされるのは、その考古学的証拠が見つかっているからです。たとえば、頭蓋骨の底の部分がなくなっていたり(脳を取り出しやすくするため)、脊椎が欠損していたり(煮込む、骨髄や脂を取るために砕くなどしたため)、切り刻んだ痕があったりと、食用動物の骨に見られるのと同じような解体の痕跡が見つかっています。そうした証拠をまとめると、初期のヒト科は、時々、あるいはそれ以上の頻度で、共食いをしていたと考えられるのです。

研究の筆頭著者である、イギリスのブライトン大学の考古学者James Cole博士によると、食人に関する大半の研究では、それが栄養摂取の目的だったと結論づけられているそうです。人肉は栄養価の高い(ともすると、おいしい)おやつだったというわけです。また、現代にもその説の事例がないわけではありません。よく知られる、ドナー隊(1846年にアメリカのシエラネバダ山脈で遭難した開拓民グループ)は、飢餓をしのぐために、人肉を食べざるを得ませんでした。2001年に、インターネットで希望者を募って殺害して食べ、現在もドイツで終身刑に服しているアルミン・マイヴェスは、人肉が豚肉の味に似ていて「とてもおいしい」と言っています。人が(たとえば腐ったサメの肉など)ポークチョップとはほど遠い珍味を食べていることを鑑みれば、人肉はかなりおいしい部類に入るのかもしれません。

しかし、この理屈には問題があるとCole 博士は論文に記しています。「旧石器時代の食人は"栄養的"な目的だったと定義されることが多かったが、人肉の食物としての価値を評価するための実証的証拠は少ない」と述べています。つまり、人が人肉を食べて実際に健康に生きていけるのかは不明なのです。すでに初期人類が家畜化していたさまざまな動物種のどれかよりも、わざわざ仲間(あるいは敵)を食べるほうが、栄養的に好ましいという証拠はありません。そこで、人肉に実際どれだけの栄養価があるかを突き止めれば、食人がカロリー摂取のためだったのか、あるいは他の意味があったのかを解明する手がかりになるとCole博士は考えました。そして、平均的な人体の各部位にどれくらいのカロリーが含まれているかを測定したのです。

その結果、筋肉1圓△燭蠅亡泙泙譴襯ロリーを見た場合、人肉は、さほど優れていないことがわかりました。ジャコウウシ(ちなみに牛肉のような味です)、魚、牛、鳥、熊、ビーバーのほうが、筋肉の重さあたりのカロリー含有量が、人間のそれよりも多かったのです。筋肉1圓△燭蠅離ロリーが人間よりも少ない動物も、トナカイ、馬など、いくつか存在しました。しかし、そうした動物は人間よりもかなり大きく、トナカイの筋肉量は、人間の男性の倍です。つまり、生きるために人間を食べるなら、トナカイよりも多くの個体を殺さなければなりません。

このことと、初期人類が複雑な社会を形成していた証拠が次々に見つかっていることを踏まえると、食人の動機は、空腹を満たす以上のものだったと考えられるのです。自然死した人の肉を食べれば効率的な栄養補給になるので、そうした実用的な目的で食べたケースもあったのかもしれないが、どの旧石器時代の社会でも一貫して食人が行われていた点を考慮すると、もっと複雑な動機がありそうだとCole博士は言います。葬儀かなにかの儀式の一部だったことなどが考えられるのです。その理由が何であれ、今度ソラマメを注文するときは「人肉抜きで」と頼みましょう。


Human flesh isn't very nutritious|POPULAR SCIENCE

Kendra Pierre-Louis(訳:和田美樹)
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