浦和レッズのGK西川周作。FC東京戦を無失点で終えた【写真:Getty Images】

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「失点数」が「出場試合数」を下回るように

 浦和レッズの守護神、西川周作が調子をあげてきた。公式戦で失点が続き、3月のワールドカップ・アジア最終予選では先発の座を川島永嗣(FCメス)に奪われた。しかし、7日のベガルタ仙台戦、11日の上海上港(中国)とのACL、そして16日のFC東京戦と3試合連続で完封勝利を達成。今シーズンで初めてJ1の首位に躍り出たレッズの最後尾で、逆襲へ向けて大きな存在感を放ちつつある。(取材・文:藤江直人)

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 数字に強いこだわりをもつ選手は多い。たとえばピッチに立つたびにJリーグの最年長出場記録を更新している50歳のFW三浦知良(横浜FC)は、トレードマークでもある背番号「11」に深い愛着を抱き、愛車のナンバーもすべて「11」と2桁にしている。

 浦和レッズの守護神、西川周作も数字にこだわりをもつ一人だ。日本代表の常連でもある30歳はリーグ戦における「失点数」が、常に「出場試合数」よりも下回っている状況を追い求めている。

 だからこそ、敵地・味の素スタジアムに乗り込んだ、16日のJ1第7節は特別な意味をもっていた。1‐0の完封劇で3連勝に花を添えた試合後の取材エリアで、西川はほんのちょっとだけ表情を綻ばせている。

「これでようやく7試合で7失点に戻りました。ここからがまたスタートですね。ここから先は試合数のほうが先行していけるように、失点数(の少なさ)にこだわっていきたい」

 たとえば昨シーズンは、ファーストステージ第3節でアビスパ福岡を2‐0でシャットアウト。トータル3失点でイーブンに戻した後は、常に試合数が先行する形でセカンドステージまでの34試合を終えた。

 最終的には15度の完封を達成。リーグ最少となる「28」失点を誇った堅守が、J1が18チーム体制となった2005シーズン以降では最多タイとなる、勝ち点74での年間総合1位獲得への原動力になった。

 大分トリニータが2008シーズンにマークしたシーズン最少失点「24」の更新を視野にすえて、さらなる進化を掲げた今シーズンはしかし、2月25日の開幕戦でいきなりつまずいてしまう。

 横浜F・マリノスに3失点を献上しての逆転負けを喫し、その後も失点の連鎖を断ち切ることができなかった。ACLの舞台でも、3月15日の上海上港(中国)とのグループステージ第3節で3失点を許した。

「調子自体はそれほど悪くなかったと思いますけど、ただ失点が多いというだけで評価された部分があったので、そこは何としても結果を出して見返してやる、と強い気持ちで臨んでいました。僕自身、結果がすべての世界だと思っているので」

11人目のフィールドプレーヤーとして

 レッズとしても、昨シーズンから戦い方を変えている。3バックの真ん中を担う遠藤航を中心に、最終ラインの押し上げをより強く意識した。最後尾に西川がいるからこそ可能になると、DF槙野智章は言う。

「それだけリスクも伴いますけど、全体をコンパクトに保つことによって、相手に対して逆にプレッシャーをかけられることにもつながる。僕たちの後ろには11人目のフィールドプレーヤーがいますので、勇気をもって最終ラインを押し上げることができている」

 ボールを止める、蹴るといった足元の技術に絶対の自信をもつ西川も、積極的にビルドアップに関わってきた。今シーズンは状況によっては、センターサークルの手前にポジションを取ることも珍しくない。

「ボールをもっていないときの自分は、常にフィールドプレーヤーの一員としてポジショニングを考えています。自分が一番いい場所でボールを受けて味方につなぐだけではなく、縦へのパスを含めて、相手が嫌がるプレーをいつも考えています」

 西川によれば、最終ラインの位置は昨シーズンよりも5メートルほど高くなっているという。より高いステージへ到達するためのチャレンジ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、の思いを抱いていたのだろう。

 しかし、失点が大きくクローズアップされるのも、ゴールキーパーが背負う十字架でもある。3ゴールを奪ってリーグ戦初勝利をあげたセレッソ大阪との第2節でも、4ゴールを見舞って連勝したヴァンフォーレ甲府との第3節でも、相手に与えた1失点が画竜点睛を欠いてしまった。

3月の代表戦で先発起用されたのは川島永嗣

 日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督の目にも、西川のパフォーマンスは不十分に映っていたのだろう。ワールドカップ・アジア最終予選に臨む代表メンバー発表の席で、こう言及している。

「西川はトップコンディションにもっていくには、まだこれからだと感じている」

 迎えた3月23日。敵地アル・アインに乗り込んだUAE(アラブ首長国連邦)代表との大一番で、ハリルホジッチ監督は所属するFCメス(フランス)で出場機会を得ていない川島永嗣を先発に指名する。

 果たして、昨年6月以来の代表戦となった34歳のベテランは、ブランクをまったく感じさせない存在感を披露。あわや同点の決定機を阻止するなど、2‐0の完封勝利に大きく貢献した。

 カンボジア代表とのアジア2次予選の第2戦から、約1年半にわたって守ってきたゴールマウスを明け渡した西川は「さすがだなと思った」と、ベンチで声をからしながら川島の姿に心を震わせていた。

「あの『ど』がつくアウェイの環境で落ち着いて、パーフェクトに近いプレーをしていた。あのメンタルの強さ、ゴール前での迫力、特に1対1で場面での体の使い方やシュートコースを消す技術は、(川島)永嗣さんにしかできないもの。僕も見習って、自分のものにしていきたいと思いました」

 舞台を埼玉スタジアムに移した3月28日のタイ代表戦でも、起用されたのは川島だった。後半終了間際に訪れたPKのピンチで鮮やかなセーブを演じ、4‐0での快勝とグループBの首位浮上に花を添えた。

 槙野、タイ代表戦から追加招集された遠藤とともに、リザーブとして仲間たちの戦いを見守った2試合。代表チーム内でもレッズの失点の多さを指摘されながらも、西川はある誓いを立てている。

「ここで変わらなきゃいけない、というかここで結果を出さないと、もう自分は代表でこのまま試合に出られなくなると思いましたし、今回は変わることのできるチャンスだと思いながら(レッズに)帰ってきました。間違いなくあの(出られない)時間は、自分にとって大きなものでしたね」

視線の先にはワールドカップが。人一倍熱い思い

 何もレッズとして取り組んできたことを変えるわけではない。胸のなかに秘めていた闘志を、さらに真っ赤に燃えあがらせる。レッズで確固たる結果を貪欲に求めていった先に、代表でのレギュラー再奪取があると何度も言い聞かせた。

 視線の先には、まだ立ったことのないワールドカップの舞台がすえられている。選出が確実視されていた2010年の南アフリカ大会は、川口能活(現SC相模原)が低迷していたチームを鼓舞する精神的支柱としてサプライズ招集されたために涙を飲んだ。

 満を持して臨んだ2014年のブラジル大会では、権田修一(現サガン鳥栖)とともに川島の戦いを見守った。6月には31歳になるだけに、4年に一度のサッカー界最大の戦いにかける思いは人一倍熱い。

「自分にはそんなに(ワールドカップ出場の)チャンスはないと思っているので。だからこそ、目の前の試合でチームとして結果を出し続けることが本当に大事になってくる。自分にしかできないプレーを、しっかりとやっていこうと思っています」

 迎えた今月1日。アジア最終予選による中断明けの初戦で、敵地・ノエビアスタジアム神戸に乗り込んだレッズは3ゴールを奪って、ヴィッセル神戸の開幕連勝を4で阻止した。

 後半36分にMF中坂勇哉に返された1点は、不用意なボールロストから仕掛けられたカウンターを食い止めようと、ペナルティーエリアを果敢に飛び出した西川がかわされた末に決められたものだった。

 高く押し上げて戦う最終ラインとの、いわば表裏一体ともいえるリスク。失点の最終的な責任を負わされることの多いポジションだと受け止めたうえで、西川は努めて前を見すえてきた。

「一番やってはいけないことは、いままで積み重ねてきたものを簡単に無駄にしてしまうこと。ぶれずに継続していくなかで、トライした末のミスというものは自分の財産になっていくと思っているので」

 もっとも、レッズが喫した失点はヴィッセル戦のそれが最後になっている。7日のベガルタ仙台戦は攻撃陣が大量7ゴールを奪う展開にも集中力を途切れさせず、リーグ戦で初完封を達成した。

貪欲に追い求める結果と内容の二兎

 敵地で苦杯をなめさせられた上海上港を、埼玉スタジアムに迎えた11日のACLグループステージの大一番。後半20分にPKを与えたピンチで、西川はブラジル代表MFオスカルの一撃を右手一本でセーブ。虎の子の1点を守り切るヒーローになり、チームをグループFの首位へ押し上げた。

 そして冒頭でも記したFC東京戦で、公式戦で3試合連続となる完封勝利を達成。リーグ戦では2試合連続となり、試合数と失点数をイーブンに戻した。それでも喜ぶのは一瞬だけ。勝って兜の緒を締めるとばかりに、西川は試合後に「誰一人として内容には満足していない」とこう続けた。

「自分たちは結果を大事にしながらも、結果が出たときには内容も見つめ直すという作業を常にしている。僕自身、常にパーフェクトを目指している。本当に難しいことですけど、終わりのないこの(挑戦の)世界でゴールキーパーはとにかく失点をせず、自分の場合はさらにパスの質にもこだわっていく。

 パスの内容にしても、それこそノーミスくらいの勢いで目指していきたい。毎試合のように反省点というものは出てくるし、課題もたくさんある。そこは自分のなかで改善しながら、成長していければと思う。みんなでいい準備をして、次の試合も無失点で勝てるようにしたいですね」

 FC東京戦の開始早々に、実は大ピンチを迎えている。MF阿部拓馬にペナルティーエリアのなかへ入り込まれ、至近距離から強烈なシュートを放たれたのだ。

「あれはコースがなかったというのもあって、シュートは自分のところに飛んでくると思っていたので。あえて動きませんでした」

 両手でしっかりと弾き飛ばしたセーブを振り返れば、左のゴールポストを叩いた後半5分のMF橋本拳人のミドルシュートには、「あれは(角度的に)入らないと思っていました」と冷静に分析する。

 ただ、シュートにもちこまれた過程や、チームとして追加点を奪えなかった原因など、反省すべき点はそれこそ枚挙にいとまがない。それらを丹念に消化していった先に、2006シーズン以来のJ1制覇を目指すレッズとしても、代表での復権を目指す西川個人としても、大きな果実が待っている。

 リーグ戦の不敗記録を「6」に伸ばし、柏レイソルに敗れたヴィッセルに代わって今シーズンで初めて首位に躍り出たことも単なる通過点にすぎない。結果と内容の二兎を貪欲に追い求めていくレッズの最後尾で、西川の存在感がどんどん大きなっていく。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人