タープラチャン市場ではこのようにプラクルアンが並べられている

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 東南アジアの人気国タイ。親日国家でいろいろなことが日本に似ているし、日本人にとっても暮らしやすい。もちろん、日本とタイではまったく違うというものもたくさんある。例えば、仏教だ。寺院の色合いなどを見ればわかるように、日本のものとはかなり違っている。

 そんなタイには、仏教に関連したとある「ビジネス」がある。お守りのビジネスだ。敬虔な仏教徒でありながら、それが商売になるあたりにタイのおもしろさや合理的な部分が見え隠れする。

 タイのお守りは「プラクルアン」と呼ばれる。かつては粘土などで作られた単純なデザインのプラピムと呼ばれるものだった。現在はセラミックや金属など様々な材質で製作されている。

 プラクルアンの正確な歴史は不明とされるが、原型であるプラピムはインドからタイに仏教が入って来たときにはあったという。西暦1351年に興ったアユタヤ王朝でプラピムが一般的なものになり、その後金型などの技術が上がって精密なものができ、近年になってプラクルアンと呼ばれるようになったようだ。現代タイ人はそれを小さなケースに入れて首から提げたり、自宅や車、財布などに保管する。

 現在のプラクルアンの作り方は様々だが、僧侶の手で製作されるものや、金型で大量生産し、完成後に僧侶によって“気”や“念”を吹き込まれるものがある。近年は大量生産が基本で希少価値がないが、流行り廃りがある。例えば10年ほど前には円形のジャトゥカムというタイプが流行し、各地の寺院でイベントが催され、高めの値段設定で販売された。流行に乗って寺院が自ら商売っ気を出すのはさすがタイといったところか。

 新造されるプラクルアンは年に1回あるいは数年に1回、各地の寺院で製造され販売される。このときに商売っ気を出している寺院はメディアや国道沿いに広告を打ち出す。このときの謳い文句によくあるのが信者たちの言葉だ。

『私はこの寺で借りたお守りのおかげで交通事故に遭っても死にませんでした!』
『僕はここのプラクルアンで強盗に襲われても無事でした!』

 こんな宣伝文句が並ぶ。本当にご利益があるのであればそもそも事故にも強盗にも遭わない気がするが、日本でも交通安全や厄払いなどに人は集まるので同じことであろう。

 ちなみにタイではプラクルアンは「買う」とは言わない。「借りる」という。ジャトゥカムのように商売っ気を出していても実際には営利目的というよりは寺院の増設などの費用を集めるためだ。本来のプラクルアンは寺院に行って僧侶に頼めばただでくれるほど身近であり、タイ人にとっては大切な信仰の一部なのである。

 ただ、寺院が商売としてプラクルアンを売るのは日本でも同じことだ。ここでいう、「ビジネス」は、ちょっと違う。

◆コレクター同士のやり取りで高値に

 プラクルアンがコレクターズアイテムとなり、投資や投機目的で蒐集する人も出てきているのだ。

 これらの対象になっているのは主に骨董品に当たる、歴史的な背景がはっきりしている希少価値のあるものになる。プラクルアンは安いものでは約10円前後くらいからあるが、数百年前に有名な僧侶が作ったものなどは日本円で数百万円から数千万円にもなるほど高値がつく。

 プラクルアンだけを扱った雑誌も週刊月刊合わせて50誌はあるとされるほど大きな市場だ。正確な市場規模は不明だが、数十億バーツ(日本円で100億〜300億円の規模)とも言われる。雑誌の中には日本のファッション誌のように付録としてプラクルアンを付けるものさえある。雑誌の内容は古いプラクルアンの見分け方などが掲載され、コレクターたちがそれを見て勉強するのである。

 バンコクの旧市街であるチャオプラヤ河沿いにタープラチャン市場(あるいはサナーム・プラ)がある。ここはタイ最大のプラクルアン市場として知られ、コレクターが虫眼鏡を片手に掘り出し物を探している。