ルイス・フィーゴ、ロベルト・カルロス、アレッサンドロ・デルピエロ、カルレス・プジョル、スティーブン・ジェラード、ロナウジーニョ……。圧倒的な存在感をピッチ上で発揮したかつての名選手たちを、日本に招聘(しょうへい)しようとしている男がいる。

 その男の名は、「株式会社ワカタケ」の代表である稲若健志(37歳)。稲若は親交の深いレアル・マドリードとのパイプを活かし、GWに銀河系軍団の一員として活躍したミチェル・サルガドを神奈川県・海老名市に招いて「レジェンドクリニック」を開催する。


稲若氏が招聘に動いている、「レジェンドチーム」のメンバー 同クリニックは、5月以降もフィーゴやロベカル、元バルセロナのプジョルらを招いて全5回を予定している。稲若は、そんな「レジェンドたち」といかに関係性を築いたのだろうか。

「レジェンドたちと交渉する際に、何か特別なアプローチをしたわけではないんです。ただ、真摯に『日本の子供たちのために力を貸してほしい』ということはお願いしました」

 稲若を突き動かすのは、「日本サッカーの発展のため」という想いだ。それは、欧州トップクラブの育成事情を肌で感じてきた稲若だからこそ抱く、日本の育成に対する強い危機感でもある。

「現在の日本サッカーの課題は明確です。日本人は世界でもトップクラスに『うまい』。特に、ドリブルの技術は世界でも有数といえます。でも、サッカーを知らない。日本ではドリブルがうまい選手を『技術がある』と評価しますが、世界のトップクラスの国は、人が動くのではなくてボールを動かす選手が評価されます。

 これはサルガドの弁ですが、『セビージャで結果を残せなかった清武(弘嗣)は技術こそ足りていたが、ボールの奪い方やサッカー観の違いに最後まで適応できなかった。逆に、エイバルの乾(貴士)が結果を出し始めているのは、スペインのサッカー観に慣れ、どこで仕掛けるべきか、引くべきかを理解し始めたからだ』と言っていました。ボールホルダーへの寄せや、体を接触させるためのわずか1、2歩。それが日本と世界との距離だと思っています」

 レアル・マドリードやアトレティコ・マドリード、エイバルやアルゼンチンの各クラブのフロントと深いコネクションを持つ稲若は、「その距離を埋めるため、根本的な評価の仕方を再考してもらうために、育成世代から世界トップクラスの選手の言葉に耳を傾ける機会を作りたかったんです」とクリニック開催の目的を明かす。


日本サッカーの発展へ、自らの想いを語る稲若氏 そんな稲若の経歴は少し異色だ。「決して優れた選手ではなかった」と本人が振り返るように、藤嶺学園藤沢高校時代は、プロからの声が掛かるような選手ではなかった。卒業後に単身でアルゼンチンに渡って自身で各クラブのテストを受け、紅白戦でハットトリックを決めるなどの活躍を見せて2部のクラブとの契約を勝ち取った。

 その後、愛媛FC、アルゼンチンの4部クラブ、栃木SC、矢板SCと渡り歩き、2009年に現役を引退する。ここまでの経歴は、サッカー界のレジェンドたちを招聘する「荒業」をやってのけるような人物には思えない。

 しかし、稲若の真価はセカンドキャリアの形成にある。まだ選手としてプレーをしていた2007年、サッカー留学やスペイン語の通訳を事業とした現在の会社を設立。アトレティコ・マドリード、エイバルなどスペインのクラブや、アルゼンチンのクラブとのライセンス契約を続々と成立させ、現在、年間600人程度の選手たちが稲若のもとから海を渡っている。


 転機となったのは2012年。日本でも注目を集めた、「ピピ」こと中井卓大がレアル・マドリードのカンテラ(育成組織)入団を果たした際に、稲若は献身的なサポートを行なった。月に何度もスペインに通いつめ、中井の相談に乗るうちにレアル・マドリードのフロント陣と関係性を築いていく。その後も、レアル・マドリードが中国、韓国、メキシコなど各地で行なう選手発掘のためのキャンプを視察し、足繁く現場に通いつめた。

「関係性ができた後は、連絡を小まめに取ることを徹底しました。スピード感を大切にし、メールや電話は時差関係なく深夜でもすぐにレスポンスする。最初に仲良くなったスタッフに力があり、サンティアゴ・ソラーリ(現・Bチーム監督)を含め、各関係者とつないでくれた幸運もありましたが、それでも信頼関係を築くことは決して簡単ではなかった。ただ、『徹底できた』ことが結果につながったと思います」

 筆者と稲若は5年来のつき合いになるが、当初から稲若が繰り返しているのは「サッカーを引退した後の人生のほうが長いことを、選手たちが考える必要がある」ということ。国内の平均引退年齢が26歳とされるサッカー選手が、ピッチを離れた後にうまく次の一歩を踏み出せないケースも多い。しかし稲若の言葉に触れると、「元サッカー選手」という肩書きは、活かし方や行動力によって大きく化ける可能性を秘めていることを感じる。

 稲若が招聘しようとしているスーパースターたちは、現在「レジェンドチーム」と銘打ち、世界各地で活動を行なっている。チャリティマッチや、少年たちのためのサッカースクールといった内容が中心で、その中心となっているのが中東のドバイだ。

 ドバイでは、FIFAや世界中のクラブによって、最先端のテクノロジーやノウハウを駆使し、選手の育成を目的とする「DUBAI SPORTS CITY」などのサッカー施設が次々と設立されている。上述のレジェンドたちもアドバイザーとしてそれに深く関わっており、稲若とサルガドとの関係も2013年のドバイからスタートした。その後に、FIFAの親善大使を務めるサルガドから紹介を受け、ジェラード、プジョルといった名手たちと食事を共にする機会も増えていったという。

「ドバイのサッカー施設はまさに世界最高峰といえます。毎年、子供たちをそこに連れていきますが、その充実ぶりにはみんな驚いています。スーパースターたちがわざわざ見学に来てアドバイスを行ない、ジェラードやプジョルといった選手とサッカー談義ができる環境もある。サッカーに関わる人間として、こんなに幸せなことはありません。今後、世界のサッカー界の大きな動きには、ドバイが強く関わってくると思いますね」

 稲若が抱く夢は、世界のスター選手を日本で見る機会を作ることだという。

「レジェンドチームの活動は世界各地で行なわれているのですが、東アジアではまだ開催されていません。僕は、子供の頃にスーパースターと話すわずかな時間が、その後のサッカー人生に大きな影響を及ぼすと思っています。だから、そんな選手たちと日本の子供たちが接する機会を多く設けたいんです。

 最終的には、アジア圏でまだ行なわれていない、レジェンドマッチを日本で開催したいです。その試合を見た子供たちの可能性が少しでも広がれば、これ以上ない仕事だと思うので。現段階では『実現不可能』と思われていることはわかっていますが、実績を作り、各企業のサポートを得て、必ず実現させたいと思っています」

 近い将来、日本でサッカー界のレジェンドたちを見る機会は増えていくだろう。その裏に、稲若の存在があるかもしれないことを覚えておいてほしい。

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