Crew:『New Yorker Magazine』に掲載されたジェームス・ボールドウィンの古いエッセイを読み直しているとき、私は心を奪われていました。

パラグラフを通り過ぎるたびに、魂が充電されていくような気がしました。大部分はボールドウィンの才能のおかげですが、それ以外にも理由があります。私はこのエッセイを時間の消費をするためではなく自分に吸収するために読んでいたということです。

個人の生産性にこだわり、できるだけ"生産的"なことをしようとする現代においては、こうした瞬間はまれです。私は"学び"を得るために速読したのではなく、心からの関心を持ってこのエッセイを読んだのです。

オンライン記事を次々と飲み込んだ後とは違って、私は誰かとボールドウィンの考えについて、熱い議論を交わすことができるでしょう。


生産性を抑えることで「生産性を高める」


誰に教えられなくとも、私たちが情報過多の時代に生きていることは明らかです。

とはいえ、デジタル時代に働くクリエイターにとっては、記事や本、ポッドキャスト、動画などを消費することが、個人的、職業的な成長には欠かせないものとなっています。競争の激しいスタートアップや、テクノロジー業界では、市場で勝ち抜くために、できることは何でもしなければなりません。

こうした、「できるだけ短い時間で、できるだけ多くのことをやる」という強迫観念が、私が「生産性カルチャー」と呼ぶものを作り出しました。

次のようなタイトルがいかに蔓延しているかを見れば、わかると思います。

成功者になるために必読の本20冊起業家がやっている恐ろしいほど生産的な朝の習慣なぜ起業家は1年間に24冊の本を読むことが成功の鍵だと言うのか?

メディア企業がこうした"コンテンツ"を大量に吐き出し続けるのは、偉大な起業家の習慣やルーチンを見習うことが成功への道なのだと、多くの人が考えているからでしょう。

その完璧な事例がここにあります。

少し前に、文学ノンフィクションを1冊、小説を1冊、そして趣味に関する本を1冊、合計3冊を同時並行で読み始めたことがあります。その時は実に素晴らしい気分になったものです。

成功した企業家たちが集う秘密クラブの一員になれたかのようでした。同僚や友人たちに対する優越感を感じました。また、心から読書を楽しんでもいました。

そうでなくなるまでは...。

私はこの「生産性ハック」を実行する前も、知的レベルを高めるために、いつも何らかの本を読んでいました。ただし、内容をきちんと理解できるペースで読んでいました。

ところが、この生産性ハックを実行している間は、まるで時間に追われるようにしてページをめくっていました。

今年、私はどのようにX冊の本を読んだか、というブログ投稿を書くためには、1カ月でY冊の本を読まなければならない。そのためには、水曜日までにこの本を読み終えなければならない...。

そして時間が経つにつれ、1カ月に3冊読んでいたのが、2冊になり、1冊になり、最後にはゼロ冊になってしまいました。


なぜ私たちは他人の成功を追いかけるのか?


成功している企業家の読んでいる本を読んだり、実践している習慣を模倣しているからといって、そうした企業家のように自分がなりたいと思っているわけではありません。また、自分にとっての成功の定義が、彼らの成功の定義と同じものかどうかもわかりません。それなのに私は、自分をこうした成功者たちの理想へと押し込めようとしていました。

ハイペース過ぎる読書スケジュールで燃え尽きた後、私は1つの重要な真実に思い当たりました。私たちは人間であり、急成長モードの企業ではないということです。

スタートアップやテック系ブログ、Twitterフィードが、個人の生産性に関する情報で埋め尽くされるのは理解できます。"グロースハッカー"という職業が存在するのもこうした業界です。

スタートアップの世界では、拡大する可能性がある成長が祝福されます。偶然起きる一発屋的な成功では偉大な企業にはなれないからです。

しかし、私たちは人間であり、企業ではありません。企業の成長ハックが失敗に終わっても、あなたはただ次のチャレンジに向かうだけです。

「目的意識のない読書は無価値であることを私たちは忘れている」

デール・カーネギーの『人を動かす』を読んだからと言って、本の中で言われているとおりに人と話せなければ、意味はありません。

情報を深く吸収するように本を読むのはセクシーなことではありません。速読はセクシーです。私たちはアップダウンの激しさを称賛します。狂ったように消費した後、再充電のためにソーシャルメディアや仕事、生活から切断しようとやっきになります。

しかし、そのそうした方は持続可能ではありません。おそらく、接続を切る必要があるのではなく、接続のやり方を再構築する必要があるのです。

コンテンツを表面的に消費し続けるかわりに、内容を深く吸収するための余裕を作らなければなりません。


本当に生産的なことをする

 
ジェームズ・ボールドウィンのエッセイのおかげで、私たちがどのようにコンテンツを消費しているのか、自分自身をいかにチェックし続けるべきかについて、重要な学びを得ることができました。

積極的な関心を抱きながらの読書は、脳のトレーニングにもなります。心に充電するチャンスを与え、「4つの簡単ステップで生産性を高めるガイド」などの記事を読むときでも、そこから何かを学ぶことができます。

そこから何かを学べるのは、正しい意図を持って読んだときだけです。そのコンテンツから何を得たいかをわかっていなければなりません。読み終わった後に、自分の考えを書き出してください。読んだ話題について誰かに話してみましょう。同僚や友人にも同じ本を読んでもらい、ディスカッションをしてください。

最後は、知識より知恵を選ぶということです。生産性カルチャーは、より少ない時間でより多くのことをやるやり方を教えてくれますが、本当に学ぶべきなのは、少ない労力でより多くを成し遂げるやり方です。知恵は、学んだことを採り入れ、身の回りの世界に適用し、世界をよりよい場所にする方法を教えてくれます。そうでなければ、指示されたままのことを意味もなく実行するだけに終わってしまいます。

私は目標を掲げることや自己を改善することに反対しているわけではありません。ただ、画一的に生産性ばかりを求める風潮に異を唱えているのです。

より少ない時間でより多くのことをやろうとすると、燃え尽きてしまいます。

ですので、自分の目標をよく理解して、自分なりのやり方を見つけてください。他の人にうまくいくやり方が自分にもうまくいくと、安易に考えてはいけません。

そして、学ぶことを楽しみ、正しいことについて生産的になり、情報ではなく知恵に投資する方法を探してください。


The productivity paradox|Crew

Danielle Small(訳:伊藤貴之)
Photo by Shutterstock.