「本当に散々な週末でしたし、大変情けない状況です……」

 バーレーンGPの決勝後、ホンダの長谷川祐介F1総責任者はガックリと肩を落としてそう語った。


バンドーンはスタートすら切れずにバーレーンGPを終えた 開幕前のバルセロナ合同テストから第2戦・中国GPまでの間、これといったトラブルが起きてこなかったRA617Hにトラブルが頻発した。そのすべてがMGU-H(※)のベアリングが焼きつくという問題だった。それによってシーリング(防水)が不完全になり、そこから冷却水が漏れ出した。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 金曜フリー走行でストフェル・バンドーン車に2度のトラブルが起き、予選Q2ではフェルナンド・アロンソ車、そして決勝直前にはふたたびバンドーン車に問題が発生。計4基のMGU-Hが、バーレーンの週末だけで壊れたことになる。

 何よりも長谷川を落胆させたのは、その問題の原因がまったくわからない、ということだった。

「こんなに短い走行距離で出ていることもあり、マイレージによるものとも考えにくいですし、4つも出ていますからパーツの個体差によるものということも考えにくい。フェルナンドの個体に関しては、この2戦で1300km近くも走っているものが、ここにきて突然壊れた。これだけ頻発するということは、砂の問題であるとか、どこか特定のコーナーが原因になっているとか、ここバーレーン特有の問題も疑ってはいますが、明確な原因はまだわかっていません」

 3戦目の予選まで1263kmを走行して壊れたものもあれば、バーレーンの土曜から投入した新品がわずか135kmで壊れたこともある。中国GPから投入したバンドーンの2基目のMGU-Hは、バーレーンにきてわずか43km走ったところでトラブルが発生しているが(総走行距離573km)、日曜から下ろしたアロンソの2基目は308kmを走行しても問題は起きていない。

 気温も金曜FP-1(フリー走行1回目)は36度だったが、決勝は24度。熱が原因ということも考えにくい。バンドーンの3基目に至っては、土曜にわずか54km走っただけで翌日のスターティンググリッドに向かう低速走行のレコノサンスラップで問題が発生しており、激しい負荷がかかる状況で壊れたわけでもない。

 今まで大丈夫だったものがバーレーンにきて突然壊れたという以外、何の一貫性も脈絡もないのだ。壊れたパワーユニットは月曜の朝と火曜の朝に相次いでHRD Sakuraに届き、内部を開封すると同時にオイルラインなどの分析による原因究明が急がれている。

 2日後に始まったバーレーン合同テストに向けてハードウェア的な対策を取ることはできず、依然として同じ問題に悩まされている。しかし、「次戦ロシアGPまでには絶対に対策を取る」と長谷川総責任者は強い言葉で断言した。

「それができないなら、もう来ないほうがいいですよ。何が何でも次までには対策を講じたいと思っています」

 トラブルが多発したことは、確かに大きな落胆をもたらした。バンドーンに至っては、決勝をスタートすることすらできなかったのだ。

 しかし、それよりも深刻だったのは、パフォーマンス不足のほうだった。

「ストレートの立ち上がりが遅い。こんなにレスパワーでレースしたことは今までに一度もないよ!」
「クソッたれ! ストレートで300mも後ろにいたのに横に並ばれた!」

 アロンソは決勝の最中に無線で怒りを爆発させた。レース後、無線での暴言について彼はこう説明した。

「今日の僕らがストレートで抱えていた不利は驚くべきものだった。ストレートの立ち上がりでミラーを見て、後ろのクルマが300mとか400m後方にいたから、彼の存在は気にすることなくステアリングのボタンを操作変更していたら、気づいたらブレーキング時に彼がすぐとなりにいたんだ。あれにはビックリしたよ。ストレート1本で300mもギャップを縮められてしまうんだよ? フラストレーションを感じるよ」

 そして最後は11位争いを演じていたが、1コーナーでフロントタイヤをロックさせてダニール・クビアト(トロロッソ)に抜かれ、「エンジン! エンジントラブルだ! BOX(ピットイン)する」と言ってピットガレージに戻ってマシンを降りた。


マクラーレン・ホンダは昨年と同じような順位に落ち着きつつある マシンのデータを記録するテレメトリー上には何の問題も見つからず、チームも「ドライバーが異常を感じたために予備的措置としてリタイアを決めた」と発表するにとどまった。

「詳しいことはわからない。いつもよりパワーが低いと感じたから、エンジンをセーブするためにピットに戻ったんだ」

 アロンソはそう説明したが、残り3周で入賞の望みが絶たれたことで、モチベーションを失ったというのがパドックでの見方だ。ちなみに、予選中にも「いつもよりパワーが出ていないような気がしたけど、単に風向きのせいか?」と尋ねる場面もあり、トラブルが相次いだことによる心理的な影響もあったのだろう。

 いずれにしても、バーレーンでのマクラーレン・ホンダのパフォーマンス不足は明らかだった。予選でもQ1の最後にカルロス・サインツ(トロロッソ)のトラブルがなければ、マクラーレン・ホンダは2台揃ってQ1敗退となっていた。

 ただ、バーレーンにきて車体の性能が落ちたわけでもなければ、パワーユニットがいきなり非力になったわけでもない。全開率でいえば、バーレーンよりもメルボルンのほうがはるかに高く、非力さの影響はメルボルンのほうが大きかった。

 車体面でも、中国GPからようやくフロントウイングが2台分揃ったが、新型リアウイングは失敗に終わって使えず。バーレーンにはアロンソ車にだけ新型翼端板が投入されたが、2台のタイム差は0.259秒でしかなく、ザウバーのパスカル・ウェーレインにも敵わなかった。

 今までは他車の脱落のおかげでQ2進出を果たし、決勝は序盤のポジションアップとドライバーのがんばりで入賞圏を走っていたに過ぎない。開幕3戦目になって徐々にライバルチームや新人ドライバーたちが本来の力を発揮し始め、マクラーレン・ホンダの順位も実力どおりの場所に落ち着き始めただけのことだ。

「今日の僕らは、メルボルンや上海と比べてもペースが遅かった。ロシアもパワーがとても重要なサーキットだからタフなレースになるだろうし、インプルーブ(進歩)し続けていくために全力で戦うしかない」(アロンソ)

「シーズン開幕前からパフォーマンスだけでなく、信頼性の面でも厳しいだろうということはわかっていた。でも、僕はチームと良好な関係を築いているし、チームがいずれこの問題を解決してくれることはわかっている。それがいつになるか、現時点で言うことはできないけど、いつか解決できることは間違いない。今はタフだし楽しいものじゃないけど、これが僕らの現状なんだから仕方がないんだ」(バンドーン)

 パワーユニットの非力さに関して言えば、パワーの要であるICE(内燃機関エンジン)が根本的に変わらなければパワーアップは果たせない。それは早くても第5戦・スペインGP、常識的に考えれば第7戦・カナダGPあたりへの投入になると言われているが、それも「すぐに上位勢に追いつけるような進化を果たすのは難しい」という。おそらくは、夏休み前後の2回目のアップデートが勝負になるだろう。

 車体面でも、チーム側は毎戦のようにアップデートを投入するつもりだというが、逆にいえば車体面もメルセデスAMGやフェラーリのようにある程度完成された状態にはまだ達していないということだ。フォースインディアがバーレーンにメルセデスAMGを模倣したようなバージボード(※)を投入してきたように、車体のディテールに目を向ければ、MCL32のそれはまだシンプルで進歩の余地を感じさせる。

※バージボード=ノーズの横やコクピットの横に取り付けられたエアロパーツ。

 パワーユニットの改善には、まだまだ時間がかかる。その間に車体面の改良も、できるかぎり進めておかなければならない。シーズン後半になれば、開幕前テストで走り込めなかったのが原因だなどという言い訳は通用しない(そもそもテストで走れなかった原因の大半は車体側のトラブルでもある)。

 バーレーンGPの決勝後、ピットガレージでグループCOO(最高執行責任者)のジョナサン・ニールと、レーシングディレクターのエリック・ブリエが全スタッフを集めて言った。

「残念な状況だが、我々はホンダとともに戦っていく。世間で言われているようなパワーユニットの変更などということもない。みんなも一丸となって、ともに戦ってほしい」

 責任の押しつけ合いや不満のぶつけ合いは、何も生み出しはしない。必要なのは、自分たちの置かれた状況のなかで、少しでも状況をよくするために何ができるのか、考え行動することだ。それができないのなら、それをやる気がないのなら、このF1という場にいるべきではない。

「それができないなら、もう来ないほうがいいですよ」

 まさしく、長谷川総責任者が言った言葉のとおりだ。

 マクラーレン・ホンダの苦境は、そう簡単には打開できない。むしろ周りが伸びていく分だけ、より厳しい戦いを強いられるようになっていくだろう。そんななかで自分たちに何ができるのか、今はただひたすら前を向いて努力し続けるしかないのだ。

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