北朝鮮では、高等中学校(高校)や大学を卒業すれば、個人の意向とは関係なく、国に割り当てられた機関、工場、企業所に就職する。そして、職場を通じて食料品や日用品などの配給を受け取る形を取っている。職業選択の自由もなければ、働かない自由もなく、働かなければ食べていけないシステムだ。

そればかりか、無職でいることは犯罪だ。北朝鮮の行政処罰法には、次のような項目がある。

第90条(無職、遊び人行為)

正当な理由なく、6ヶ月以上派遣された職場に出勤しなかったり、1ヶ月以上離脱した者は、3ヶ月以下の労働教養をさせる。罪状の重い場合には、3ヶ月以上の労働教養をさせる。

つまり、仕事をしないことを犯罪とみなし、強制的に労働をさせるということだ。それにもかかわらず、職場に属していない若者は増える一方だ。当局は取り締まりに乗り出したが、現実に即していないため、取り締まるフリをするだけだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、三水(サムス)郡では、「非社会主義グループ」(取り締まり班)が家々を訪ね、若者がいれば「なぜ職場手続きを行っていないのか、なぜ職場に出勤しないのか」などと問い詰めているという。

しかし、職場にまじめに出勤などしていたら、餓え死にしかねない。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のときに配給システムは崩壊しており、職場に出勤しても食料はもらえず、月給はせいぜい5000北朝鮮ウォン(約65円)。コメ1キロ分にしかならない。4人家族が1ヶ月暮らすには、50万北朝鮮ウォン(約6500円)が必要と言われているが、一家の大黒柱が職場にマジメに出勤などしていたら、家族が餓死してしまうのだ。

国営企業は、小遣い銭にしかならないたった5000北朝鮮ウォンの給料ですら、払えない場合も多い。韓国労総の報告書によると、2008年の時点で国営工場の7〜8割が操業を停止しており、その状況は現在でも大差ないと思われる。仕事がなければ、給料など払えるわけがない。

北朝鮮の人々は、国の「計画経済ごっこ」に付き合っている暇はないと、職場をサボり、商売や個人耕作地での農作業に精を出すのだ。しかし、国からあてがわれた職場に出勤しないことは「無職」とされ、取り締まりの対象となる。そこで、職場に籍をおいたまま、取締官や職場の上司に最低でも毎月150元(約2400円)前後のワイロを払い、何らかの副業で生活費をかせぐのだ。

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北朝鮮では、そのような人がもはや多数派となっている。

韓国開発研究院が昨年12月に発表した報告書は、2008年に北朝鮮当局が国際社会の協力の下に行った人口センサスに基づき、実際の就業率を割り出している。これによると、北朝鮮の就業率は31.34〜62.38%である一方、両江道は17.57〜36.78%と全国平均よりかなり低く、中間値で考えても就労可能人口の4分の3が失業している状態となる。「失業者」の大多数は、市場での労働人口として吸収されたものと思われる。

市場で商売をする人が増加する傾向は両江道だけではなく、全国的なものだ。

その例外といえるのが平壌だ。前述の報告書によると、平壌市の就業率は61.09〜84.78%に達する。これは他の地方と違い、市場よりも、国家機関や国営の工場、企業所で働いている人が多いことを示す。

2012年、故金日成主席の生誕100周年に際して無職の人を根絶するためのタスクフォース「4.14常務組」が設置され、活動を開始した。また、昨年までは金日成・金正日主義青年同盟が20代の無職の青年を呼び出し、自己批判書を書かせたり、突撃隊(建設労働部隊)送りにしたりしていた。

さらに、金正恩党委員長は今年1月、「無職者に対する再調査と対策立案」を指示したと情報筋は述べた。国家の統制を避けながら自由市場で商うことを当然と考える「チャンマダン(農民市場)世代」の心が自分から離れていけば、体制を揺るがしかねないと考えているものと思われる。

当局もそれをよくわかっており、取り締まるフリはしているが、昔のように罰することはできないだろうと情報筋は見ている。

住民の間には「今の時代、職場に出勤するやつがどこにいるのか」と鼻で笑う人もいれば、「こんな状況でも国を裏切らない(脱北しない)だけでもありがたく思うべきなのに、人民をいびり立てるなんて」と当局のやり方を非難する人もいる。