2016‐17シーズン急成長を遂げた宇野昌磨

 フィンランドのヘルシンキで開催された世界フィギュアスケート選手権。すべての演技が終了した翌日、宇野昌磨は「眠いです。疲れました」という言葉を連発した。

「本当に昨日は頑張ったなって……。練習でもたまにあるんです。調子がいいからついつい調子に乗ってやり過ぎて、次の日はこんな感じになるって。動ける時に、次の日のことを考えず動けるだけ動いてしまったという感じですね。昨日はそのくらい動けたけど、試合での特別な動くではなく、練習で身体が動いた時のような感じだったんです。普通に自分の思い通りに身体が動き、しかも瞬間的に100%以上の力が出せたなという感じで」

 2回目の挑戦で羽生結弦に次ぐ2位になった世界選手権。ある意味、ヘルシンキでの宇野は神がかっていたようなところもあった。SPでは練習でなかなか決まっていなかった4回転フリップをキッチリ決めると、その後の4回転トーループ+3回転トーループからの要素もすべてノーミスで滑り、104.86点の自己最高得点を獲得してハビエル・フェルナンデス(スペイン)に次ぐ2位につけた。

 
 フリーでも当日の公式練習では4回転ジャンプがなかなか決まらず、曲かけでも4回転はすべて抜いて、曲の途中で練習を止めていた。だが、本番では4回転ループをGOE(出来栄え点)加点1.43点をもらう出来で決めると、続く4回転フリップもSPと同じ1.14点の加点を獲得。続く3回転ルッツと後半の1本目の4回転トーループでは着氷が乱れたが、それ以外はノーミスの演技で214.45点を獲得。パーフェクトな演技をした羽生に次ぐ2位になったのだ。しかも演技構成点はすべて9点台で、羽生に3.66点劣るだけの94.42点。僅かなミスはあってもそれに動揺することはまったくなく、音楽の中に入り込んで滑りきった演技を、ジャッジから高く評価された。
 
 最終組で自分の前に滑ったネイサン・チェン(アメリカ)やボーヤン・ジン(中国)、羽生、パトリック・チャン(カナダ)の演技も、「やっぱりうまい選手の演技は見たいじゃないですか」と、普通に見ていたという神経の太さ。「去年は楽しめなかったから、今年は楽しみたい」という素直な思いが、公式練習や6分間練習でなかなか決められなかった4回転に対しても「本番だから気合いが入ったというより、何となく跳べる気がしてた」という精神状態につながっていたのだろう。羽生はSP5位と出遅れ、SP1位のフェルナンデスはフリーで6位と崩れた。だが、宇野はともに2位と最も安定していたのだ。

「今回は緊張もあんまりしない中で気持ちだけはいい感じで上がっていたし、しかも楽しもうという気持ちがあったので……。いつも新しいジャンプをする時は、次の日は本当に脚にくるんですけど、その時は楽しいという気持ちでやるから、いつも以上に力が出て跳べたりすることがあるじゃないですか。昨日の試合はそんな感じでした」

 
 一段落して、宇野がこれからの課題だと改めて思ったのは、ジャンプの成功率だけではなく、GOEと表現の戦いになってくる中で、それにどう対応するかということだったという。4回転ループとトリプルアクセルは決まれば質の高いジャンプになるが、トーループとフリップにはまだ課題が残る。特にトーループに関しては、フェルナンデスや羽生のように加点が高いジャンプにしなければいけないと考えている。

「来季はどういうプログラムにしていくかはまだわかりませんが、とりあえず今のままではダメというのはわかりますね。表現にはまったく満足していないし、しかもその中で手を抜いているので、まったくダメです。やっぱり体力を温存しようと思ってしまうんですね。今回も終わった時には『ちょっと残ってるな』という感じでしたが、特に前半にあるステップはもっと動けるけど、後半のことを考えて『ちょっと休んでおこうかな』と思ったりしてしまって。それにスピンも練習で単独でやる時は試合の時より倍くらいスピードが出るので、手を抜いているということですよね」

 宇野はこう言って苦笑するが、今季はシーズン初めに4回転フリップをSPとフリーに入れる新たな試みをして、その確率を磨いていた上に、シーズン後半の四大陸選手権からはフリーに4回転ループを入れるという挑戦をし続けてきた。その中ではプログラム全体をまとめるためのペースコントロールの重要度も高まっていた。それを彼は自然にやっていたわけで、その点では今季は成長できたという実感もあるという。

 記者たちとそんなやりとりをする宇野は、”手抜き度”という語句を含んだ質問に「まずはその手抜きというワードはやめて、”ペース配分”にしませんか」と笑顔で切り返しつつ、こう続けた。

「ペース配分を完璧にできるとしても、練習を70%でやっていると、ずっと変わらないじゃないですか。ただ練習をずっと100%でやっていれば、人間なので体力はついてくる。そういう日頃の練習で自分が成長できるのだと思うので。今シーズンも最初の方に比べると体力もかなりついてきて、今のプログラム構成も割と自信を持ってできるようになって、シーズン後半は体力の心配をしていませんでした。だから、あとはそういう練習を続けていって、プログラム構成だけではなく、他のところも100%の力でできるようになればいいなと思います」

 今回の大会は、自分に与えられた試練を乗り越えられたというのではなく、思った通りのことが普通にできた感じだったと宇野は言う。それは彼自身が、挑戦する気持ちを持ち続けて無心で戦い続けてこられたということだろう。そして来季へ向けて、さらなるチャレンジを口にする。

「サルコウは本当に確率が上がってこないし、跳べる時は跳べるけど何か(感覚が)違うから、入れるということは多分ないと思いますね。だからちょっと、他のことをやりたいなと思っています」
 
 平昌五輪シーズンへ向けても、宇野はまだまだ進化への意識を緩めようとはしていない。それは彼が追いつき、追い抜きたいと強く思う、羽生結弦という存在があるからに他ならない。目標にするものがある限りは突っ走り続けなければいけない。それは彼のアスリートとしての本能でもあるのだろう。

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