どんな競技にも、「強い勝ち方」というものがある。

 内容のともなわない運の助けを借りた勝利は、たまにはあっても長続きしない。だからこそ、真の王者となるためには、同じ勝つにしても横綱相撲で相手をねじ伏せるような「強い勝ち方」が求められる。


今季2戦目での優勝が決まり、笑顔を見せる室屋

 レッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第2戦がアメリカ・サンディエゴで行なわれ、室屋義秀が優勝を果たした。室屋の優勝は昨季、千葉で開かれた第3戦以来2度目。1年前は涙、涙の初優勝だったが、2度目の今回はもう落ち着いたものだった。優勝決定直後のフラッシュインタビューにも落ち着いて受け答え、テレビカメラに向かって投げキスをする余裕まで見せた。

 王者の貫禄を漂わせたのは、レース後の振る舞いだけではない。レース内容もまた、完勝と呼ぶにふさわしいものだったと言っていい。

 室屋は一昨季のシーズン後半、4戦のうち3戦でファイナル4に進出するなど、非常に調子がよかった時期がある。だが、そのときは優勝に手が届かず、3位が2回あっただけだった。

 理由ははっきりしていた。

 室屋はラウンド・オブ・14、ラウンド・オブ・8までは(ときに、そのラウンドでのトップタイムを出すなどして)順調に勝ち上がってきても、ファイナル4になると決まってタイムを落としてしまうからだった。同じ日の3本目のフライトとなると、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積し、コンディションが落ちてくるところもあっただろう。1本1本全力で飛べば飛ぶほど、余力はなくなる。

 また、レースの進行上、ラウンド・オブ・14からラウンド・オブ・8までの間は1時間ほどのインターバルがあるが、ラウンド・オブ・8からファイナル4は、ほぼ間を置かずに行なわれる。つまり、それだけエンジン温度が下がりにくくなる。

 しかも、チームスタッフが「ファイナル4慣れ」していないと、限られたわずかな時間の中で、手際よく準備をすることができない。こうなると、機体のポテンシャルをフルに発揮させることが難しくなってしまうのだ。

「自分としてはいいフライトができたと思っても、タイムを聞いて『あれっ?』という感じで、全体にセクタータイムが落ちてしまう」

 当時、室屋もそう話していたが、こうしたいくつかの要因が積み重なり、いつもファイナル4でタイムを落としていたのである。

 実際、室屋は昨季第3戦で初優勝したときも、ラウンド・オブ・8からファイナル4にかけてタイムを落としている。マルティン・ソンカの猛追をどうにか振り切って優勝したものの、それはまだまだ「危うい勝ち方」だったのだ。

 ところが、今回の室屋は、ラウンド・オブ・14からファイナル4まで3本のフライトで、順にタイムを縮めてきた。最初は余力を残しつつ、徐々にギアを上げていく。室屋の勝ちっぷりには、そんな余裕が感じられた。

「ラウンド・オブ・14を勝って、ちょっと突き抜けた感じがあった。その後、ラウンド・オブ・8では(開幕戦で優勝の)ソンカと当たったけれど、フライトが完全にコントール下にあって、なんかちょっと覚醒した感じだった」

 ラウンド・オブ・14で対戦した、開幕戦3位のピート・マクロードにしても、ラウンド・オブ・8で対戦した、第1戦優勝者のソンカにしても、勝ち上がって不思議はない水準の好タイムを出していた。だが、室屋はそれを上回った。

 そして最後のファイナル4では、昨年の年間総合王者、マティアス・ドルダラーをねじ伏せた。ドルダラーが犯したパイロンヒットは、室屋が叩き出した圧倒的なタイムによる焦りが引き起こした結果である。室屋が続ける。

「ファイナル4では、いわゆる『ゾーン』に入っているような感じで、極めてよくラインが見えていた。だから、ちょっとリスキーなラインでも結構自信を持って飛ぶことができた」

 室屋がなかなかファイナル4の壁を破れなかった2年前、彼の挑戦をことごとく退けてきたのが当時の年間総合チャンピオン、ポール・ボノムだった。ファイナル4になるといつもタイムを落とす室屋を尻目に、ボノムは逆にタイムを上げてきた。

 まるでボノムみたいでしたね――。そんな言葉をかけると、室屋は口元にわずかな笑みを浮かべて語った。

「ラウンド・オブ・8までは、そんなに無理をしなくてもいいかなという感じだったが、ファイナル4では自信を持って(少し無理をして難しいラインに)挑んだ結果、ほぼ計算通りにタイムが縮んだ。この感じで飛べれば、今後のレースでも展開は楽になると思う」

 この日のレースに関しては、圧勝と表現しても構わないだろう。室屋も「突き抜けた感じはある。ホントに強い勝ち方、勝ち続けられる勝ち方になってきたと思う」と、2度目の優勝に手応えを隠そうとしない。


サンディエゴの街を背に、室屋は圧巻のフライトを見せた もちろん、だからと言って、これから先も室屋が簡単に勝ち続けられるほど、レッドブルエアレースは甘い世界ではないだろう。今回のレースを見ても、現在のレッドブルエアレースは混戦状態にあるのが分かる。予選の順位をもとに上位と下位とが対戦するラウンド・オブ・14では、全7ヒート中4ヒートで予選下位のパイロットが勝利しているほどだ。

 勝負は紙一重。楽に勝てる相手など誰ひとりとしていない。室屋もそれを実感している。

「ラウンド・オブ・14を見れば分かるように、ほとんどミスが出ず、タイム差も1秒開かない。だから、ほんのちょっとのミスで脱落してしまう。ホント難しくなっている」

 だが、この日のような強い勝ち方ができるならば、室屋が勝つ確率は間違いなく上がる。例えば、対戦相手の巡り合わせ(なぜか、いつもラウンド・オブ・14でドルダラーと当たってしまう、とか)によって結果が左右されるようなことも、これからは減ってくるだろう。必然として、3度目、4度目への期待は大いに高まる。

 室屋は確かに強くなっている。6月の千葉でのレースを前に、それが証明された鮮やかな勝ちっぷりだった。

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