見事な手さばきで紡がれた先鋭と誠意、『アルカ』(Album Review)

写真拡大

 覚醒の一枚だ。オリジナル・アルバムとしては通算3作目のセルフタイトル、英XLレコーディングスからのリリースとなった『Arca』。あのアルカが美しく伸びやかな歌声をアルバムの核に置いていることも衝撃的なら、その歌声こそが彼の楽曲にかつてないほど明瞭な説得力をもたらしている点も衝撃的。今後長きに渡って、彼の代表作として語られ続けることは間違いない作品である。

 予兆はあった。アルカが2016年夏にSoundCloud上でフリー公開していたミックステープ『Entranas』には、そのトータル25分のとりわけ後半にヴォーカル・トラックが吹き込まれており、最終ナンバーの「Sin Rumbo」は、新たに独立した楽曲として新作『Arca』にも収録されている。「Sin Rumbo」のミュージック・ビデオにおける、痣だらけの痛ましい顔面に黒塗りの歯というヴィジュアルは、これまた新作『Arca』のアートワークに通じるものになっている。

 アルカとしてのアイデンティティを確立するよりも前、ヌーロ(Nuuro)名義での作品も発表していたベネズエラ出身のアレハンドロ・ゲルシは、ヴォーカル入りのポップな楽曲も数多く手がけていた。ニューヨークに拠点を移しアルカ名義の作品をリリースするようになると、そのグリッチ・ミュージックとトラップ/ラテン・ビート、そしてクラシック音楽の素養が織り成す、グロテスクにして荘厳な響きを持つアルカ印のインストゥルメント作品が脚光を浴びることになる。カニエ・ウエストやFKAツイッグス、さらにはビョークらと共作が、アルカの名をシーンのトップに押し上げた。

 個人的な感想を正直に言ってしまうと、アルカの前作『Mutant』は作品としての印象が散漫なところがあり、ファースト『Xen』に続いて大きな期待を寄せていた僕は少々肩透かしを食らう格好になった。執念を帯びた緻密なプロダクションは相変わらず凄まじいものがあったけれど、今ひとつアルカという個人の表情が見えにくいところがあったのだ。その点、個の歌声によって問題を一気に払拭してみせた新作『Arca』は、余りにも完璧な手捌きで舌を巻くより他にない。

 ゲイとしての孤独、さらには21世紀以降の故郷ベネズエラの情勢不安にもさらされてきたアルカは、その痛みと祈りが織り成す思いを前衛的な音楽に託すようにしながら活動を続けてきた。当初『Reverie』というタイトルで告知されていた新作は、他でもないアルカ自身の分身として命を吹き込まれ、魂を曝け出す意志を帯びた「Piel」や、《勇気を出して、もう一度私を愛して》と渇望する「Reverie」、《憂鬱さの虜にはなりたくない》と思いを迸らせる「Fugaces」といったスペイン語の赤裸々な歌に集約されてゆくのだ。

 義足のような装具を嵌めてパフォーマンスする「Reverie」や、重々しいボンデージ衣装に拘束された「Desafio」といったMVも、アルカ自身の不自由な魂を映し出す作品となっている。ありのままの素顔を曝け出す勇気を伝え、リスナーにも誠実さを問う。先鋭的な作風の中で、確かな対話の時間を生み出した傑作だ。(Text: 小池宏和)


◎リリース情報
アルバム『Arca』
2017/04/07 RELEASE
XLCDJ834 / 2,200円(tax out)
国内盤特典:ボーナス・トラック追加収録 / 解説書封入