ジュビロ磐田のMF中村俊輔。同点ゴールを演出した【写真:Getty Images】

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失点に繋がるロストに本人も「一番反省しないと」

 4月16日、明治安田生命J1リーグ第7節が行われ、ジュビロ磐田はサガン鳥栖をヤマハスタジアムに迎えた。試合は拮抗した展開となり、88分に鳥栖が豊田陽平のゴールで先制。この追い込まれた状況でサックスブルーの背番号10が本領を発揮。直後の89分に同点ゴールを演出したのだ。ここぞの場面で力を発揮するファンタジスタが、その本領を見せつけた。(取材・文:青木務)

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「自分がボールを取られたところからCKになって、そのCKでやられてしまった。それが一番の反省点」

 中村俊輔は自身を戒めた。残り時間を考えれば、そのまま敗れても不思議ではなかった。

 しかし、失点のきっかけを作ってしまったサックスブルーの10番はそのわずか1分後、ミスを吹き飛ばすようなビッグプレーを披露することになる。勝利を諦めない仲間たちの勢いに乗り、アウェイチームから勝ち点を取り上げた。

 明治安田生命J1リーグ第7節、ジュビロ磐田とサガン鳥栖は決め手を欠いていた。攻守が度々入れ替わるものの、どちらもネットを揺らすことはできない。マッシモ・フィッカデンティ監督の言葉を借りれば「お互いが守りの方に人数を割いて、そんなに面白サッカーではなかった」という試合だった。

 ヤマハスタジアムには歓声より溜息がこぼれた。しかしこの一戦は、暑さが和らぎ始めた後半終了間際からようやく“スタート”した。

 88分、中村俊輔に相手が襲い掛かる。鳥栖の速攻が始まり、磐田は何とかゴールラインの外にかき出した。しかし、このCKを豊田陽平に頭で決められ先制を許す。「パーフェクトだった」と名波浩監督が振り返るように、相手エースのヘディング自体は防ぐのが難しいシュートだったが、そもそも与えなくていいセットプレーでもあった。

 10番の高いキープ力は加入当初からチームメイトの絶大な信頼を得ており、今季ここまでを見てもレフティーを経由する攻撃は非常に多い。しかし、相手もそれをわかっているため、複数人で奪いに来る。この日も彼のところでボールを失う場面はあり、結果として失点にも繋がった。

静岡ダービー後に語った右SHでの試み。『少ないタッチ数でも仕留めることの重要性』

 前節を終えた時点で磐田の奪ったゴールの大半が彼の左足から生まれており、このファンタジスタの力は説明不要の次元にある。何より、中村俊輔自身が磐田に勝利をもたらそうと必死に戦っている。その姿勢は、たとえプレーエリアが変わったとしても揺るがない。

 開幕からトップ下で起用されてきたレフティーのポジションが右サイドハーフに変わったのは、第5節・清水エスパルス戦からだった。「どこにいても自由」と、名波監督は中村俊輔の創造性に制限をかけていない。周囲の選手も配置転換をそれほど意識していないようだった。

 新たに2列目中央を務めるようになった松浦拓弥が「ポジションは基本的にあってないようなものだし、スタートする位置が変わっただけ」と話せば、「トップ下の時も(俊さんは)右サイドに降りてくることがあったし、そんなに変わりはないかな」と川辺駿も話した。

 もっとも、本人は変化を感じている。3得点全てに絡んだ静岡ダービーの後、多くの報道陣に囲まれた中村俊輔は右サイドでのプレーについてこう語っている。

「ボールに関わる回数が少なくなる。僕以外の選手も流動的に動いて崩せるように、僕が(タッチ数)20回、30回でもあちこちで起点を作らないと。逆に言うと20回、30回でも相手を仕留めるというか、勝利にできる何かをサイドで自分が作らなきゃなというのはある」

サイドからのスタートで、ボールに絡む回数は限定されるが…

 続く横浜F・マリノス戦では試合開始からボールに触るまで時間を要し、思うようにパスを受けられなかった面はある。それでも時間の経過とともに10番にボールが集まりだすと、バイタルエリアで受ける場面も見られた。「今まででは一番アグレッシブにできた」と、チームと自身に一定の手応えを得たようだった。

 サイドからスタートすることで、確かにボールに絡む回数は限定された。しかし、彼が持った時に攻撃のスイッチが入るのはこれまでと同様だ。松浦が1トップに寄り添うことを意識しているため、川又堅碁が孤軍奮闘を強いられる機会も少なくなった。

 大井健太郎は「俊さんがボールを触った時に、前線のケンゴだけじゃなくてマツも近くにいてくれるので、攻撃になった時に迫力が出る」と話すが、今の磐田のひとつの形として機能していた。そして、ディフェンスリーダーはこうも語る。

「俊さんはボールにたくさん触った方がリズムが出るし、真ん中にいた時の方が触れていたと思う。もう少し、右サイドの俊さんに意識的にボールを集めてもいいのかなと。マリノス戦は最初ボール触るまで時間がかかった。俊さんはキープ力もあるから周りも空いてくるし、集めておいて次はオトリに使って逆を突くとか、そういうこともできるのかなと」

 鳥栖戦では【3-4-2-1】のシャドーの一角を務め、過去2試合に比べて中央でのプレー機会も増えた。主に右サイドと中央でパスを呼び込み、動き出す味方を操った。84分にアダイウトンがピッチに入ると、システムは【4-2-3-1】に移行。これに合わせて38歳は右サイドハーフに移動した。

 そして、反撃の合図となる同点ゴールが生まれた。

土壇場のアシスト。「優しめに出した」プレゼントパス

 かたく握りしめた拳を勢いよく振り下ろす。喜びを爆発させるようなものではなかったが、渾身のガッツポーズだった。わずか1分前には失点のきっかけとなってしまった中村俊輔が、本領発揮とばかりにゴールを演出した。それは、『ただのアシスト』で片付けられるほど簡単なものではなかった。

 鳥栖の先制CKに繋がる中村俊のボールロストを、名波監督は「疲れとともに判断が鈍くなった」と分析している。この日のヤマハスタジアムの気温は24度と夏日に迫るほどだった。今までより疲労が蓄積する状況だったと言えるだろう。

 それでも、アダイウトンのゴールを導く一連の動作には、しなやかさとキレがあった。

 PA内右に流れてきたボールに駆け寄ると、ワンタッチで縦に進む。追いすがる鳥栖選手がスライディングしたところで深く切り返し、左足裏を使ってボールをベストポジションに引き寄せる。そして、ルックアップした先にはマイナス気味に動いて相手から離れたアダイウトンが手ぐすねを引いて待っていた。「頭よりボレーの方がいいかなと思って、少し優しめに出した」というプレゼントパスで、同点弾をアシストして見せた。

 ゴールライン付近での切り返しは中村俊輔の十八番の一つだろう。『左足が最大の武器』と対峙する相手もわかってはいるが、右足でクロスを上げられる場面を想定すれば自由にやらせるわけにもいかない。

 10番には疲れがあった。にもかかわらず、あの時間帯、あの場面で当たり前のようにディフェンダーの逆を鋭く突いた。体は外に大きく流れることなくピタリと止まり、残したボールを撫でるように最適なところに置き直し、中央で待つフリーの選手に『右足で合わせろ』というメッセージ付きのパスを送る。チームに勝利をもたらすべく繰り出した一切無駄のないプレーであり、確実にネットを揺らすための最善のプレーだった。

 過去2試合でタッチラインを背にし、自身のボールタッチの減少も感じ取っていた。しかし、だからこそ『自分が持った時のプレー』に対する集中力はより研ぎ澄まされたのではないか。蓄積した疲労などチャンスの場面では関係なく、その瞬間に全神経を集中させ、一気に解き放った。

 90分間ボールに関与できるわけではない。しかし、決定機の創出は彼に託された大きな役割である。

『相手を仕留める何か』

 中村俊輔が模索し実践したプレーは土壇場で結実し、逆転勝利という劇的なフィナーレへと繋がった。

(取材・文:青木務)

text by 青木務